第8話 刺客が来ると、面倒なことになる。

 シューベルトは、レイカが城の扉を閉める直前に囁いた。

「風の魔術を城の周囲に使ったらちょっとうるさいかもだけど、大丈夫だから。よろしくね」

レイカが頷いたことを確認すると、彼は扉に背を向けて歩き出した。

彼の姿が見えなくなった直後、まるで竜巻がこの城を襲ったかのような風の轟音ごうおんが響きはじめた。

彼女は一人、小さな椅子に座る。

「シューベルト様、どうか無理はしないでください……」


 「何人いる? 十人程度……か? 」

シューベルトの心の内では、この状況に多少の焦りを感じていた。

というのも、これまでこの城への直接攻撃なんてことはなかったからだ。

それに、城の中にはレイカがいる。

彼女に手を出させるわけにはいかないので、とにかく魔術を城全体に使用し、奴らがこの城に接近しないようにしなくては。

そんなことを考えていた次の瞬間、空から雨を模した氷が降り注ぐ。

彼は、自分の手から発せられた風によって全ての氷を森林の方向に動かし、木に当ててバラバラに砕けさせた。数本の木が、大きい衝撃に耐えられず折れる。

「な……! スピードが早すぎる! 」

そう聞こえた方に向かって、彼は風でできた銃弾を放つ。

呆気なく、その男は吹っ飛んだ。

しかし、別方向にいた『風』の魔術師は怯むことなくシューベルトに襲いにかかった。

「全く、お前のせいで……我が母国は混乱しているんだ! 」

その男は険しい顔をしながらそう言い、さきほど折れた木をを動かそうとした。

すぐに落ちていた木が動き、シューベルトに向かって飛ぶかと思われたが、シューベルトは冷静に彼の心臓部分に手を触れ、瞬時に穴を開けた。

空中を飛行していた木が落ちた衝撃で現場はざわめき、まだ多くいるマスティック国からの刺客も呆然としている。

「……そんな。も、もう上級魔術士二人がやられてしまったの……? 」

シューベルトは一歩ずづ、そう言ったまだ若い女の戦士に近づいていく。

冷や汗を流しながらも剣を持って彼に近づいてきた全員の戦士に、数秒後には風穴を開けていた。

バタバタと屈強な男たちが倒れてき、座り込んでしまった女の前で言った。

「……君は、できることなら自分は戦いたくないと思っているのかな? 」

その瞬間、その女は笑いながら火の結界をはった。

シューベルトは近くに火の熱さを感じながらも、無言で彼女のことを冷たく見下ろす。

女は、この状況に対して満足そうな笑みを浮かべながら口を開いた。

「さすがさすが、バルレック・シューベルト。ストーリック国屈指の魔術師、異名は『嵐を従える少年』……だったかしら? 」

「…………もう、少年と呼ばれる年齢ではない」

シューベルトは端的にそう答えると、火でできた結界を風で消そうとした。

しかし、その結界は消えるものの『地』の魔術が作動し、ついさっきまであった結界と同じ範囲の地面が割れた。

シューベルトは魔術を使用してその陥没地から風のごとく去ったが、その女は余裕をかましながらこう言った。

「はじめまして、アタシはセンドリア・グラスチェ。あなたを捕獲しろというマスティック国王の命令を受けて、ここにやって来たの」

シューベルトはポツリと言った。

「……最近話題の人体実験と戦えるとは、運が良いみたいだな」

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