第二幕
第7話 世界に休息はない。
数日後、シューベルトは新聞を読みながら笑みを浮かべていた。
その一面には、大きな見出しでこう書かれている。
『マスティック国 国際魔術法違反の疑い 〜人体実験の可能性〜 』
彼は、紅茶を一口飲んでから言った。
「いや〜レイカちゃんの功績だねこれは! なんか、マスティック国に対して本当に申し訳なく思えちゃうよ……」
レイカは、十分に想定内のことですから、とバッサリ。
しかし彼女には、どうしても気になることがあった。
「……あの、ストーリック軍の上層部の人間は、シューベルト様のことをどのように思っているのでしょうか。少なくとも、あなたのことを敵対視している人もいるのではと思って……」
シューベルトは少し驚きながらも、そうだねぇ……と窓から見える空を見上げた。
「まあ、僕はあの日からずっと野蛮な人間だと思われてるからねぇ……。その事自体は仕方ないと思うけどさ、やっぱり誰もわかっていないんだよ。この世界で常に戦いに勝ち続けるということは、あまりにも困難だってことをね」
その後、シューベルトは城の前のテラスで優雅なティータイムを送っていた。
そこに、レイカがいくつかのプレートを持ってやってくる。
「……シューベルト様、お菓子をご用意いたしました」
ありがと〜! とシューベルトは言ってから、彼女に目の前の席を進めた。
「レイカちゃんも座りなよ、午前十時の至福のひとときだよ! 」
「…………はぁ、申し訳ありませんがこの間に昼食を作りたく思いまして。お一人でお楽しみください」
「えええ! 流石に一人は悲しいよぅ……。レイカちゃんと一緒におしゃべりしたい……! 昼食は抜きでもいいからさぁ〜」
レイカが、やめてください……と言おうとしたその時。
シューベルトが即座に椅子から立ち上がり、城外の森を見つめた。
「シューベルト様……? 客人、ですか……? 」
彼は無言でテラスを出て、森へと続く道を見つめていた。
そのまま、彼は振り向かずに言う。
「……レイカちゃん。絶対に、そこから動かないでね」
彼女は彼の口調から、ここに来たのはただの客人ではないということを理解し、少し身構える。
シューベルトは左手で右手の甲の紋章に触れ、直後風を動かした。
レイカは強い風の動きに目を閉じる。
数秒後、彼女が目を開くと彼はもう既にそこには居なかった。
「ねぇ、アンタって誰? 」
シューベルトは、体から血を流している一人の男に聞いた。
その男は腹部に風穴を開けられてしまい、口から少しの血を吐いていた。
「アンタの服、どっかで見たことある気がするな。……もしかして、マスティック国からの使者かな? 」
礼儀は守ってもらわないと困るんだよねぇ……と彼は言いながら、男の襟元を掴んだ。
「教えてくれないかな。何をしにここへ来た? 」
男は苦しそうに顔を歪めながら、何も言わない。
そして、自分のベルトにはめられた剣を取り出そうとする。
しかし、シューベルトの放った『風』によって、それは呆気なく遥か彼方へ飛んでいった。
「……まあ、ある程度の予想はつく。僕を殺しに来たか、脅しに来たか。どちらにしても、アンタを生かす理由がない」
こんなところでバラバラにするのは、処理が面倒だからなぁ……と言った一秒後には、その男はここから全く見えない地点まで飛ばされていった。
「たとえ誰であろうと、風の力には抗えない……からね。少なくとも、今まで僕に勝てた人間は、魔術師を含めて存在しないよ」
ただ、後ろには数十人の同じ服を来た人々が見える。
瞬時にレイカのもとに戻ると、彼女はずっとテラスから動かずに待っていたようだった。
しかし、明らかに顔がしかまっている。
「ごめんね、レイカちゃん。でも、もう……」
「マスティック国の者が、一連の騒動の発端者が誰なのかという情報を入手したのでしょう……? 」
彼は、静かにうなずいた。
「……レイカちゃんは城の中に。これは、全員殺すしかなそうだね」
一発の銃声が聞こえた。
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