第6話 記念日って、やっぱり重要だよね。

 書斎の掃除をしていたメイドは、だんだんと大きくなる馬車の音が聞こえて来たのでそろそろ彼が帰ってきたのだと推測した。

少し小走りで玄関に向かうと、彼はもうドアを開けていた。

「ただいまぁ〜! レイカちゃん、僕耐えたよ! めっちゃ暗すぎるおじさん達との会議に耐えたよ! お願いだから褒めて〜! 」

レイカはまたこれだ……と思いつつ、彼が左手に持つバックを見て不思議そうに思う。

「……シューベルト様、おかえりなさいませ。あの、そのバックは……? 」

彼はニコニコしながら、彼女にそれを渡す。

「はい! これ、レイカちゃんへのプレゼントだよ! どうぞ受け取って〜」

彼女は少し困惑しながら、口を開いた。

「……確かに本日は私とシューベルト様が初めて会ってから丁度八年が経ちましたが、そんなことで毎年プレゼントがあるとは思わなかったのです」

やっぱり覚えてたんかい! と彼は即座にツッコミを入れる。

「君のことだから絶対記憶にはあるんだと思ってたけどさぁ……何なの『そんなこと』って! ねぇ、この記念日って結構大切だよ! 」

「いや、私はてっきりシューベルト様のご友人であるミスターサルンシェ様へのお祝いかと思いまして……」

「確かに彼は友人だけど! 僕は手紙で済ませようと思ってたし……。ともかく、これを受け取ってよ〜! 」

彼女は、ぎこちないながらにバックを開封する。

そこには、大きな紫色の宝石が光るペンダントがあった。

「……これは希少価値の高い宝石である『アメシスト』がはめ込まれたものですね。

とても受け取れる品物ではありません、お断りします」

「いやちょっと待って! なんか丁重にお断りされたんだけど! え、嘘でしょ〜! 」

給料的には全然大丈夫だからね! と謎の主張をするシューベルト。

レイカは、ですが……と言葉を濁した。

「ただのメイドの私には、これと言った才能はありませn……」

「いやいや、レイカちゃんは天才じゃん! 頭が良いっていう才能あるからね! 僕の給料のみなもとみたいな感じだし、それを理由にしてペンダントを受け取るるなら良いよね! お願いだからさぁ〜! 」

苦笑いを浮かべるレイカに、彼はバックから取り出したペンダントをかける。

「うん、やっぱり似合ってるねぇ……。レイカちゃん、めっちゃ可愛いよ! 」

彼女はメイド服とペンダントが、まるであっていないと思いながらも、小さく呟いた。

「…………あ、ありがとうございます……」


 シューベルトが遅めの朝食をとっている間に別の部屋を掃除しなくてはと思い、レイカは窓を拭いていた。

ただ、彼女は先程渡されてしまった高価なアクセサリーについて思うところがあった。もちろん、彼に直接言うつもりはないが。

「……シューベルト様は、アメジストの石言葉を知っていらっしゃるのでしょうか……? もし知っていたとしたら、色々な面で問題がありそうなのですが……」

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