第5話 懐かしい景色が見たいね。
「あ、そうだ! すいません、僕このあと予定があるので帰っていいですか? 」
シューベルトは、明らかに悪い雰囲気にも関わらず律儀に聞いた。
もちろん、円卓を囲む数十人の男たちは彼の顔を恨めしく見つめている。
「会議はまだ終わっていないだろう! 一体何を言い出すんだ! 」
誰かが握りこぶしで机を叩く。そして、その男は立ち上がった。
「全く、本当にふてぶてしい態度をとりやっがって……。生意気なやつだ! 」
その男は、シューベルトに掴みかかろうとした。もちろん、シューベルトは笑顔を崩さずに司令官を見つめるばかり。
今にも魔術を使用した戦いが始まろうとしていたが、カセルダーンは静かに言い放った。
「……予定があるというなら、帰ってもよいだろう。もしそうだと言うなら、今すぐこの部屋を出てくれ」
その声を聞いた司令官たちは不満そうな顔を浮かべていたが、逆らうこともできず部屋を出ていく彼の背を見るしかなかった。
シューベルトは階段を降りる直前に、ドアの隙間から言った。
「……それでは、また後で〜! 」
「本当にいいんですか、カセルダーン総司令官! シューベルトの態度は、いくらなんでも悪すぎる! 」
その場にいた男たちは、次々と文句を言う。
「そもそも、あの事件のときにあいつを軍の本部に入れてしまったのが間違いだったんだ……! 」
周りの司令官もその意見に賛同しているようだ。
しかし、カセルダーンは静かに席を立って窓からの美しい景色を眺めていた。
「……お
シューベルトは、大きなため息をついた。
「あ〜もう疲れたぁ……。まあ、みんな元気そうで何よりだったけどさ。全く、とんだ職場だよ〜! 」
彼は階段を一段ずつ降りながら、独り言を唱えていた。
「僕って、案外嫌われてるなぁ……。まあ、この組織にレイカちゃんは関わらないほうがいいかもって改めて思っちゃったよ」
そして、彼は心のなかで思う。
この国のためにやっていることだというのに、彼らがこんな対応では意味がないじゃないか……と。
そんなことを考えて言ううちに、城を出てしまったようだ。会議を早く終わらせたので、まだ馬車が来ていない。
久しぶりに都市部に来たのだから少し
そこには、服の仕立て屋やアクセサリー店、骨董品店など上流階級の人間がよく使う店が立ち並んでいた。
懐かしい景色を眺め歩いていると、自分の遠い記憶の中にある道が見えた。
それは、石でできたセリンヴァ路地だ。
彼は、なだらかな下り坂をゆっくりと歩く。早朝にも関わらず何人かの町人とすれ違ったが、軍服を着た者が道を通ることは珍しくないようで軽く会釈されて終わった。
数分歩いたところで、平たい墓石が置かれているのを発見した。
彼は無表情でそれを見つめ、前に備えられている小さな花束を手に取った。
そして花束に手を置くと、瞬時に茎を
シューベルトは前来た道を何も言わずに戻っていったが、その墓石には確かにこう彫られていた。
「
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