第3話 会議をしよう、そうしよう。

 翌日、といってもまだ日も昇っていないかなりの早朝にも関わらずシューベルトは軍服に身を包んでいた。

「ねぇレイカちゃん、どうかなこのピン! 司令官っていう立場だからって、最近もらったんだけど、なんかちょっとかっこよくない? 」

心底興味がなさそうなレイカは、完全に無視を貫くようだ。

レイカちゃんの意地悪ぅ〜とブツブツつぶやきながら、彼は赤色のピンを軍服に付ける。

革靴に履き替えて、そしてシューベルトはこの城にいるたった一人のメイドにほほえみ返した。

「この城の掃除って大変じゃない? 結構広いから、あんまり無理しないでね〜」

彼女は数秒間硬直していたが、玄関に歩いていきながら言った。

「…………ご心配ありがとうございます」

シューベルトはニヤニヤしながら、馬車に乗り込む。

「レイカちゃんって、なんか反応が可愛いよね〜」

「前言を撤回いたします」

彼女は即座に彼の発言に対応したようだ。

シューベルトは馬車を出発させ、レイカにひらひらと手を振る。

それを見た彼女は何も言わずに、ゆっくりと彼の乗る馬車に向かって頭を下げた。


 馬車に揺られて数十分、彼は窓から見える景色が変わってきたことを感じた。

森林以外に何もなかっった道に比べて、国の中心部分はやはり随分と栄えている。

「……久しぶりに本部に直接行くんだよねぇ〜。やっぱりやだな……。なんか色々と言われそうだし、ホント無理なんだけど〜! 」

彼は、身長の数倍はある巨大な鉄の門の前で馬車を止めさせた。

数時間後には戻る、と馬車の操縦者に伝えてからシューベルトは一人敷地内へと進む。

入り口のところで、何人もの若い門番が武器を持ちながら監視をしていた。

彼は門番のところへ向かい、ふところから無言で身分証明書を出す。

門番の男は、どうぞこちらへ……と橋へと誘導した。が、彼はそれを無視して正門に向かう。

そちらではないと注意しようとした男に、慌てて別の門番が囁いた。

「何やっているんだ、先程の方はシューベルト司令官だぞっ! 」

「そんなことは知っているぞ。この城にはキューピッドの像の橋を渡って入るのがしきたりで……」

「だから、今日は重役緊急会議があると通達されただろっ! そこの橋を渡っても、城の最上階にはいけないだろ! 」

慌てた男を横目に、シューベルトは豪華な装飾品のある正門を通り抜ける。

すれ違った殆どの者は、軍服の勲章を見て少し緊迫した表情に鳴り頭を垂れる。

終始無言でかなりの数の階段を上ったところで、彼はやっと開けたところに出た。

木で国旗が彫られた、大きい扉だ。

二人の軍人が扉の両端に立っていたが、速やかにドアを開ける。

そこには、いつもと変わらない様子で、『おえらいさん』が着席して待っていた。


「……こんな数の階段を登るなんて面倒ですよ〜。もしかして、会場の位置間違えましたか? 」

少しばかりの話し声が飛び交っていた部屋が、一気に静まりかえる。

おごそかな軍服を肩にかけている、白髪の混じった一人の老人が言った。

「三十歳にもなっておらんお主が、そんなことを言うでない」

彼は愛想笑いを浮かべた。

「別に、嫌味なんかじゃないですよ? 僕が若いだけですから」

円卓に座る司令官らの顔が、一気に険しくなる。

「ふん、何を偉そうに。お前の分際で、何を言えるっていうんだ? 」

「このを、やはりどうにかしなけらばな」

ガヤが飛び交う中、彼は堂々と自分の席に座った。

それでもなお、会議は始まらない。

「ちょっとちょっと、どうしたんです? 別に遅刻じゃないですよね? 」

中央の振り子時計は、朝の五時を指す前だ。

先程の白髪交じりの老人は冷たい眼差しを浮かべながらも、咳払いをした。


「これより、マスティック国との激戦区からの報告書を受け、軍の対応を決定する会議を開始する」

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