第2話 主事関係がまるでない。

 食事を終えたシューベルトは、個室に戻りとある書類を開いた。

それは、現在近隣国と戦いが激化している地域からの報告書だ。

「う〜ん、やっぱりおかしいなぁ……。魔術師なのに、五つの属性ではないってこと? いや、絶対にそんなことはないはずだよねぇ……? 」


このストーリック王国に限った話ではないが、この世界では魔術を使用した戦いがほとんどである。

というのも、拳銃や大砲なんかでは到底魔術師に勝てないからだ。

魔術師は、地、水、火、風、空の五つのどれかの属性に当てはまり、それに応じた様々な魔術が使用できる。高度な魔術師になれば、大規模な自然災害なども起こせるのだ。

もちろんこの世界の住人全員が魔術を使えるわけではなく、代々魔術を受け継ぐいくつかの家の出身の者のみが使用できる。魔術は完全に先天的なものなので、『魔術師』と呼ばれる人間は総人口の中でも割合は大きくない。


先程から独り言を言っているこの男も、『風』の魔術を受け継ぐバルレック家の出身である。

まあ、で現在はメイドと二人だけでこの城に住んでいるのだが。


彼は机の上においてあった鈴を手に取り、数回手首を振ると可憐な音が反響した。

すると、数秒もたたない内にドアをノックする音が聞こえる。

「レイカです。お呼び出しでしょうか……? 」

ん、入って〜! と呑気な声が聞こえ、彼女はドアを開いた。

「レイカちゃ〜ん、さっき僕の食事中に君が食らいついてた話のことだよ〜。ねぇ、本当にどういうことなの〜? 」

メイドは失礼します、と断ってからその報告書を手に持った。


数秒の沈黙のあと、彼女は口を開いた。

「…………おそらくですが、この魔術師は『空』と『水』の両方の魔術を使用できるようですね。空からあられを降らせることは『空』の魔術のみでも当然できますが、流れ着いて発生した水溜りから氷を発生させることは不可能です」

シューベルトは、でもなぁ……と不思議そうにしている。

「そりゃあ、理屈はわかるよ。確かに、鋭い霰を降らすことは『空』の魔術師がよくやる手だし。ただ、二つの魔術を使えるなんて魔術師聞いたことないよ〜! 」

レイカは数十枚の報告書を卓上に置き、彼を見つめた。

「これまでの数百年間で、魔術師が二つ以上の魔術を使用できるという伝説はありましたがどれも不確かでした。しかし、現在戦っているマスティック国は他の国と比べても科学技術がかなり進歩しています」

「それはつまり、マスティック国が極秘に開発したによって二つの魔術を同時に使用できるようにした、ということかな……? 」

シューベルトの書斎の本棚を見ていたレイカは、かなり昔から置かれっぱなしに見える一冊の本を手に取った。

「……この本を見てください。マスティック国を流れる川から流れ着いた低級魔術師の変死体が、数年前から十人ほど見つかっています。可能性の話にはなりますが、マスティック国は魔術に関する人体実験をしているかもしれません」

彼は驚きを隠せていなかった。

「た、確かこのときは理由もよくわからないまま放ったらかしにされたんだよねぇ……。っていうか、よく覚えてたね! ありがとレイカちゃん〜! 」

彼女は全く動じずに、さっさ扉から出ていこうとする。

「は、はっや! もう帰っちゃうの、なんか寂しいなぁ……」

顔だけで嫌悪を訴え、扉を閉めようとしたその時。


シューベルトが真剣な眼差しをして言った。

「……本当にいいの? このままだと、がまた僕の提言ってことになるよ」

彼女は振り向かずに呟いた。


「…………別に、構いませんよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る