第32話
借金を完済するなんて、まだまだ年単位で時間のかかる話だし。
取り敢えず今は俺の好感度を稼ぐ発言をしておこう的な感じか?
「痛った!なにやってんのフェンリル!」
フェンリルが突然後ろからタックルしてきたので、座っている木から吹っ飛んで顔面から地面に突っ込んだ。
どうやら卑屈すぎだと言ってるらしい。
と言ってもこの世界じゃ今まで周囲に敵しかいなかったし……
環境が違うし今はもう敵しかいないわけじゃ無いってのも頭の中では理解しているけど……
「ヨルムンガンドならともかく。フェンリルにどつかれるとは思わなかったよ……」
身体中に付いた土を払って口の中に入った土を唾と一緒に吐き出す。
このままだと信用できる仲間を手に入れる機会を本当に失うことになるぞ?と言う少し強めの警告ってところか。
口で言われただけじゃ俺の性根は変わらなかった変わらなかっただろうし。
「ご主人様!大丈夫ですか!」
「あぁ、問題ない。服も汚れちゃったし川に行って綺麗にしてくる」
「なら私も━━━━」
「必要ない」
フェンリルもさっきどつかれた理由分かってんだろって呆れた表情をしてたので魔法を解除して義体を消滅させた。
「少しやり過ぎたかな……」
川に向かうために1人で森の中に入って少しして、そうボソッと呟く。
今回の件に関してはフェンリルの方が全面的に正しいんだろう。
だけど、タックルされた事に対してムカつかない訳じゃない。
「と言う訳で少し八つ当たりさせてくれよ。俺が一人になるのずっと待ってたんだろう?」
パッと見、誰も居ないはずの森に向かって喋りかける。
言葉での返事ではなく、ナイフの投擲という形で返事が帰って来た。
1人で森の中に入るんだ。当然、〈スピリチュアルセンス〉を発動させてるので生き物がこちらに近づいてきているのは分かっていたし。
攻撃を防げるように〈影の茨〉も発動している。
バレないように茨は影から出して無かったけど。
真っ黒な茨が俺の影から出現して飛んできたナイフを止める。
よく見ると刃の部分に液体が塗られている。
「毒か……物騒なもん使うな〜」
視認できている魂が凄い速度で離れていく。
失敗したと思ったら直ぐに撤退か。
まぁ、折角の八つ当たりする為の相手を逃がすつもり無いけど。
魂が認識出来ているから何処に向かって逃げているのか判断する事は出来るけど。
相手の姿は分からないってのは面倒臭いな。
魂のある部分は心臓付近だから視認できてる魂を狙って攻撃すると殺しちゃうし。
生かして捉える時に少し不便だな。
仕方ない殺傷能力の無い魔法で捕まえるか。
「〈影の毒蛾〉」
俺から逃げる人に対して影で作った蛾を飛ばす。
俺から逃げて行く魂が止まり、ドサッと言う物音が聞こえてくる。
麻痺したかな。
確認しに行きたいところだけど。
どうやら迎えが来たみたいだ。
ご主人様ーって俺の事を呼ぶ声が聞こえてくるからな。
「はぁはぁ。ご主人様ようやく追いつきました」
「そもそも、ついてこなくて良いって言ったんだけどね?」
「私はご主人様の護衛ですので。危ないって分かっている場所に1人で行かせる訳には行きません……そう言って起きながら最初っから付いて行かなかったんですけど」
はぁ……
「わかったよ。それじゃ早速だけど、俺にナイフを投げて来た刺客を麻痺させて捕獲したからひっ捕らえにいこうか」
「毒の匂いがするとは思っていましたが……やっぱりご主人様のことを一発ぶん殴って良いですか?」
「なんとまぁ物騒な事を言う奴隷だ……痛いのは嫌だから。何かしらカレアの言うことを1つ聞いてあげるって事で許して?」
「そこで、なんでもって言わないあたりがご主人様って感じが凄いしますね」
「そりゃ。奴隷なのにご主人様に一発殴って良いですか?って聞いてくるような相手に何でも言う事を聞くなんて言ったら。何をさせられるか想像できない無いからね」
「私達の借金を全額払って奴隷から解放しろとかですか?」
「その程度のお願いで良いなら今すぐに叶えて上げるよ。お金は有るし。でも、カレアは俺に使える為だったら奴隷であり続ける事も受け入れるんでしょ?」
「はい。私の事信じてくれる気になりました?」
「あぁ、少なくとも今まであってきた人の中でカレアお前は一番信用出来る。だからこそ裏切ってくれるなよ?」
「もし、そんな事があったら躊躇無く私を殺してください」
「重いなぁ……いやまぁ、俺が言わせたようなもんだけどさ」
「ご主人様。女性に対して重いなんて言ったら後ろから刺されますよ?」
いや。そうじゃないだろ……
ニコニコしながら言ってるし冗談なのは分かってるけど。
「ところでご主人様。例の刺客何時までも放置で良いんですか?」
俺は〈スピリチュアルセンス〉で俺を攻撃してきた奴の魂が麻痺で倒れた場所から動いてないのを確認しているけど。
カレアからしたら放置したら逃げられるって思うよな。
「それもそうか。じゃ護衛頼むよカレア」
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