第31話

「何これ、スープに入れただけで物凄くお腹が空いてくる匂いが……」


料理中のスープにスパイスカリブーの角を粉にしたものを入れた瞬間。


今すぐ食べたくなるような何とも言えない良い匂いがスープから漂ってくる。


粉にしただけじゃなんの匂いもしなかったのに。

高温を加えると、スパイスのような旨味が滲み出て来るみたいな感じなのかな?


詳しい原理はどうでも良いか。

俺の期待以上に凄いスパイスって事だけわかってれば十分か。


今すぐ食べたいぐらいだけど、まだ最後の味の調整があるとかでもう少し時間がかかるらしい。


「こんな良い匂いさせといて、待たないといけないってかなりキツイな」


なにか作業して時間をつぶすか。


折角だから日中に少し考えた。魂を可視化する魔法の作成でもやってみようかな。


自分のテントに戻り、索敵用の魔法として考えた魂を可視化する魔法の魔法陣の作成を始めた。


「良し。これで取り敢えず形になったかな」


さて、そろそろスープも完成しているだろうと思って立ち上がろうとするとテントの中でクリスとカレアが地面に敷いた毛皮の上で寝ているのが目に入って来た。


もしかして……と思ってテントの外に出てみると空が段々と明るくなって後2時間もすれば日の出と言う時間だった。

懐中時計で時間も確認したので間違いない。


魔法作成に集中しすぎちゃったみたいだ。

夜ご飯を食べずにオールで魔法を作っていたらしい。


通りで眠い訳だ。


エリクサーを1滴舌の上に垂らして眠気を覚ます。


「あのスープを逃したのは、かなり痛いけど。自分の責任だし仕方ない」


スパイスカリブーの角は大きかったし。

昨日食べられなくたって食べる機会はまだまだ有るだろうし。


「そんな事より、スパイスカリブーの角から作ったスパイスを使った料理をすっぽかしてまで作った魔法を早速試してみよう〈スピリチュアルセンス〉」


魔法を発動させると狐火のようなものが見えるようになった。


テントの中で寝ているクリスとカレアの魂も見える。

魂のみとは言え壁とかも透過して見える訳か……

視界が悪いところで戦闘になった時に敵の位置を把握する方法としても使えそうだな。


現状だと半径10mの円上の範囲しか効果範囲じゃないけど。

ゆくゆくは魔法陣をもっと最適化して効果範囲を広げていきたい。


後は魂ごとに判断できるようにするとか。

今は、どの魂も全くおなじ狐火みたいなものとして見えるけど。魂だけで誰なのか判別できるようになれば利便性が更に増すだろう。


それはそうと目がすっごい疲れるなこの魔法。


「慣れるまで長時間継続して使うのは難しそうだ。まぁ、少しづつ使って慣れるしかないか」


目の疲れを軽減する目薬とか作ったりするのも効果時間を伸ばすのに良いかもなと考えつつ〈スピリチュアルセンス〉をきる。


目頭を揉んで数回瞬きする。


「ご主人様」


「おはようカレア」


「何度も声をかけても返事をしてくれなかったので……放置する形になってしまい申し訳御座いませんでした」


「気にしないで、悪いのは俺だし。呼ばれても返事をしないぐらい魔法陣の作成に熱中しちゃってた訳だし」


ひとつの事にそこまで熱中できるってのは悪くないと思うけど。

欠点でも有るよな。魔法作成に集中している時に襲われたら気づかないうちに殺されちゃうだろうし。


「そこまで熱中できるからこそ、新しい魔法を作れるんだと私は思いますし。悪い事じゃないと思います」


「まぁ、確かに熱意がなきゃここまで色んな魔法は作れなかったかもね……開拓仕事を始めるのにまだ時間はあるし少し雑談に付き合ってくれない?」


「喜んでお付き合いさせていただきます」


引っこ抜いて〈影収納〉に仕舞ってある木をテントの横に置いて椅子がわりにする。


「……ほんとに雑談するんですね。私を人目の少ないところに連れていく方便だと思ってたんですけど」



「カレアは俺の事なんだと思ってるの?」


「こっちから誘っているのに、ガンスルーする酷いご主人様です」


全く……いつの間にこんなに好感度を稼いだのか。

何度考えても全く分からない。

そもそも、奴隷として使われている時点で俺への好感度なんてマイナスだと思うんだけどね。

やっぱり、俺に信用させて最終的に寝首を搔く為の演技とか?


「ご主人様?雑談すらしてくれないんですか?」


「それもそうだね。雑談しようって言った本人が黙っちゃうのはダメだったね。と言ってもな〜正直話題がない」


「そうなんですか?じゃあ私から質問してもいいですか?」


「そうしてくれると助かる……って思ったけど。その前に1つこっちから質問させて。カレアは借金を返し終わって自由の身になったら何かしたい事とかある?」


何となく嫌な予感がしたので、カレアから質問される前にこちらから質問する事にした。


「このままご主人様に使えさせて頂きたいと考えてます」


そう真剣な表情で即答した。


「即答か……俺の近くに置く人間は裏切らないように奴隷だけって言ったら?」


「それなら、借金を返し終わった後も奴隷のままご主人の護衛を続けます」


「そこまでしてか……」





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読んでいただきありがとうございます。

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