第19話

辺境の未開拓領域に向かって進み数ヶ月。

目的地までかなり近づき魔物の襲撃が多くなってきた。


と言うか未開拓領域自体には踏み入れている。

現在は開拓し易い場所を選定している段階だ。


「それにしてもフィレーム家からの刺客に襲撃されたりってのも無かったしな。少し警戒しすぎだったか?」


フィレーム家の連中だったら、それぐらやって当然だと思っていたんだけど。

王都から未開拓領域の移動中、そう言った貴族の刺客っぽい連中との戦闘は発生しなかった。


当然盗賊との戦闘とか魔物との戦闘はあったけど……


うーんそう言った連中が実は貴族の差し金って可能性は有るけど。特に苦戦はしなかったからな。


俺がスレイさんと出会うことになったフィレーム家の領地に作成された他国の基地の件を追求されて、それどころじゃなくなっているとかかな?


王都と離れているせいで情報が一切入って来てないんだよな。


既に町どころか村すら周囲にない未開拓領域の中に入ってしまっているからってのもあって余計に情報が入ってこない。


既に俺の事を邪魔に思っている貴族はフィレーム家だけじゃないだろうから油断は禁物か……


「ご主人様。刺客の有無関係なしに未開拓領域の中にいるんですから油断はいけません。真横で突然魔物が出現しても可笑しくないんですよ?……いやまぁ、ご主人様が油断するのも分からなくもないですが」


護衛をしてくれているカレアにそう注意されてしまう。

確かに魔力濃度が高いせいで、何処からでも魔物が湧くのが未開拓領域だからな。


と言っても、ロキのお陰で使えるようになった〈影の狼王〉が強すぎてな……


〈影の狼王〉は〈影狼〉の完全上位互換。


影でオオカミの姿をしたゴーレムを作り、一時的にロキの子供フェンリルの分体とする魔法。それが〈影の狼王〉


〈影の狼王〉は発動した後魔法陣の維持を含め全てフェンリルがやってくれる。

魔力もフェンリル本人から使ってくれるらしく本当に俺がやることは無い。

どうして欲しいのか指示をするぐらいかな?


と言うか、闇の狼王とか言っておきながら氷属性のブレスとか使えちゃうし……

フェンリルだからと言われたら納得するしかないけど。


フェンリル本体に比べたら1%ぐらいの力しか出せないし。耐久度は影で作られたゴーレム依存だけど。


十分にチート魔法だ。


因みに〈影の蛇王〉って言う〈影の狼王〉のヨルムンガンドバージョンも使える。


ロキは俺に世界を滅ぼさせるつもりなんだろうか?


まぁ、流石にフェンリルとヨルムンガンド本体に比べて貧弱すぎるから、この2つの魔法で世界を滅ぼすような事はできないだろう。

それに出来たとしてもしないけどね。


と言うわけで、現在は〈影の狼王〉を発動させて、フェンリルの分体に護衛して貰っている状況なので、ちょっと気が緩んでいる。

俺たちが開拓を始める場所を探している周辺は未開拓領域の中では比較的魔力濃度低い場所で、出現する魔物も弱い種類しか出現しない。


まじでフェンリル無双。


「師匠、師匠。俺の魔法の訓練もするって話じゃ?」


「そうだったね。おーいフェンリルさんやちょっと戻って来て」


そうやって声をかけるとフェンリルが走って戻ってくる。

因みにフェンリルはサラッと影収納が使えるようになっていて、フェンリルが倒した魔物はフェンリルの影収納に仕舞われている。


「フェンリルが周囲の魔物を殲滅してくれるのは安全で良いんだけど。この子の魔法の訓練をしたいから、先行して周囲の魔物を殲滅するんじゃなくて、俺の横で護衛する感じでついて来てくれる?」


分かったと念話で返事をされる。


北欧の神々が暮らす神界じゃ自由に戦闘できないし。力が制限されている状態でも自由に戦えるのが嬉しいらしく。

特に指示をしない場合。俺に敵意を向けている相手をサーチアンドデストロイするからな。


フェンリルに真横を歩いて護衛してもらうようにしてから歩いて数分。


「ご主人様。二足歩行型の魔物、恐らくゴブリンが5匹こちらに向かって歩いてきます」


カレアが耳をピコピコさせながら報告してくれる。


カレアとクリスは黒狼族と言う獣人。

嗅覚や聴覚が人間よりかなり優れている。

嗅覚とか聴覚どころか5感や身体能力全般、人間より優れているんだけどね。


俺には全く分からないけど、カレアがそう言うならゴブリンがこちらに向かって来ているのだろう。


「クリス一人で5匹同時に戦うのは流石に早いか……カレア。ゴブリンの数を減らして」


「かしこまりましたご主人様」


双剣を構えたカレアを先頭に進むと、俺にもギャッギャッと言う鳴き声が聞こえてくる。


ゴブリンを視認できる距離まで近づくとゴブリンたちもこちらに気づいたらしく。

カレアを指さしてこちらに向かってきた。


この世界のゴブリンはオスしか存在せず、代わりに、どんな種族でもメスならゴブリンを産ませる事が出来ると言うお約束の生態をしている。

だから、カレアを見て発情している訳だが…


「気持ち悪い。私を好きにしていいのはご主人様だけだ!」


そう言って闘気を全身に纏わせて身体強化をしてゴブリンに突っ込んで行った。


アレは、クリスが相手する数残らないだろうな……


それにしても、王都からここまでの移動にかかった数ヶ月の間で、カレアからの忠誠度が上がりすぎな気がするんだよね。


うーん。まぁ、いっか。



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読んでいただきありがとうございます。

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