第24話 自称天才

書店は図書館張りの大きさで、色々な書物が置いてあった。

魔法の図形が記された書物なんかもある。


「たっか……」


ゴツイ棚に置いてある魔法書の値段を見て、俺は思わず呟く。

超お高い。


ダンジョンに行くにあたって、追加で使えそうな魔法でも覚えようと思っていたのだが……


「村にいた時はゼッツさんが取り寄せた物を使わせて貰ってたから知らなかったけど、魔法書ってこんなに高いんだな」


もちろん高い事自体は知っていたが、流石に此処までとは思わなかった。


「魔法書はマジックアイテムとしての効果が付加されてますから、普通の本に比べてかなり値は張りますね。私もこの首都で初めて値段を見た時は、ビックリしましたよ」


魔法は球形の陣だ。

平面でそれを完璧に記すのは難しいため、本を開くと立体映像の様な物が浮かび上がる特殊なマジックアイテムとなっていた。


「魔法書はソアラにでも頼むとしよう」


親からの仕送りはあるが、早々贅沢の出来る額ではないからな。

まあダンジョンに行けば魔法書を買えるぐらいの金なら稼げるのだろうが、タダで済む物にお金をつぎ込むのも馬鹿らしい。


最悪ソアラが駄目なら、ゼッツさんの方に頼むと言う手もある。


「お金のかかる物をソアラ師匠に工面して貰うって……なんかヒモみたいですよ。師匠」


「友人として頼むだけだ。嫌な言い方すんな」


アイツには散々振り回されているんだ。

魔法書の融通ぐらいして貰っても罰は当たらないはず。


「あら、貴方達とこんな場所で会うなんて珍しいわね」


魔法書を眺めていると、急に見知らぬ人物から声を掛けられる。

黒衣のローブに黒の三角帽子をかぶった、いかにも魔女といった感じの格好の赤毛の少女だ。

その横には、神官っぽい青い服と丸帽子の糸目の少年が立っている。

二人とも年齢は俺より少し上って所だろうか。


「アークアとクリフじゃない。魔法書を買いに来たの?」


どうやらベニイモの知り合いの様だ。


「まあね。で、そっちの子は?初めて見る顔だけど」


「どうも初めまして。アドルと言います」


丁寧に名乗る。

イモ兄妹は弟子なので溜口だが、基本的に目上には敬語だ。


「アドル!?アドルってあの!?」


あのってどのだよ?


アークアと呼ばれた少女の激しい反応。

間違いなくベニイモに余計な事を吹き込まれているな、これは。


「へぇ。君が二人の師匠の、天才少年ね」


クリフと言う少年も興味深げに俺を見つめる。

まあ目が細くて判断が難しいので、実際は関係ない所を見ている可能性もないとは言い切れないが。


「その通りです!あのゾーン・バルターの再来と名だか――あいたっ!?」


興奮して声高に叫ぶベニイモの脛を、俺は素早く蹴り飛ばす。


「ちょっと、何するんですか師匠」


「お馬鹿な発言を大声で垂れ流すな。他のお客さんに迷惑だし、それにお前の発言を真に受ける人間が出たらどうする?」


「うぅ……迷惑なのは言われてみれば、お恥ずかしい。ですけど、私の発言に嘘偽りはありませんよ」


ホントにこいつだけは、当たり前の様に俺の事を垂れ流しやがるな。


ぶっちゃけ、天才なんて称号は嫉妬の種でしかない。

地味に生きていくうえでは完全にマイナス要素だ。

冗談抜きで、一度きっちり教育してやった方がいいかもしれん。


「どうも凄い師匠ってのは本当みたいですね」


「ええ。あのベニイモが蹴られてこんなにしおらしくしてるなんて、ちょっと考えられないもの。普通なら相手はボコボコものよ」


むう。

一連のやり取りでこの二人に確信を持たれてしまった様だ。

咄嗟に蹴ってしまったのは失敗だったか。


ていうかベニイモ。

お前周りからどんだけ凶暴な人間って思われてるんだ?


「ごほん、ごほん。まあ私の事は置いておいて、とにかくアドル師匠は凄い人ですから」


「それはもういいっての」


「アドル君は随分と照屋みたいね」


別に照れている訳ではなく、マイナス要素になりかねない情報の流布を好まないだけなんだが。


「そうなのよ。私、師匠はもっと自分の事誇っていいと思うの」


なんか延々この話が続きそうだ。

取りあえず話題を返させるとするか。

俺以外の物に。


「所で、二人を紹介してくれないのか?」


「あら、あたし達の事が気になるみたいね」


「同じ騎士学園の生徒じゃないんですよね?二人とも見るからに魔法を使いそうな出で立ちですし」


この見た目で魔法書を買いに来てるのなら、まず魔法を使うクラスと考えて間違いないだろう。

騎士学園は戦士クラスでないと入学できないので、必然的に彼女達は学園外の人物と言う事になる。


「アークアとクリフは魔法学園の生徒なんですよ」


魔法学園か。

確か、魔法を使うクラスの受け皿的な学園だったな。


「ふふ。天才ウィザード、アークア・パルマンとは私の事よ」


自分で天才って言うのは、正直どうかと思わなくもない。

けどまあ、この年頃なら仕方がない事なのだろう。


いわゆる、厨二って奴だな。

年齢もほぼドストレートな訳だし。


因みにウィザードは、魔法使いの上位クラスだ。


「アークア・パルマン……って事は、貴族の方な訳ですか」


この国で姓があるのは貴族以上だけだ。

つまり彼女は、貴族の御令嬢と言う事になる。


「まあ貴族とは言っても、辺境の木っ端男爵家だけど。それより君、天才の部分は華麗にスルーするわね。普通貴族かどうかより、食いつくならそっちの方でしょうに」


いや自称天才より、平民からしたら貴族って方がよっぽど重要な部分なんだが?


まあ感覚の違いかね。

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