第23話 嫌いな奴
「おや、こんな所で会うとは奇遇だな」
王都にある大きめな書店。
そこはまるで図書館の様に大きな建物だった。
そこにベニイモに案内され、中に入ろうとした所で見知らぬ少年に声を掛けられる。
金髪碧眼ロン毛の、ベニイモと同じ年位の少年だ。
そいつの着ている服はかなり高級そうで、その背後には何人か同世代の少年達の姿も見えた。
立ち位置や格好的に後ろの子供達は手下や腰ぎんちゃくっぽく見えるので、先頭の奴は多分貴族か金持ちの子供なのだろう。
「げ……」
ベニイモが金髪の少年の顔を見て、嫌そうな顔をした。
どうやら知り合いの様だ。
まあ知り合いでも何でもないなら、奇遇だなんて声はかけて来ないから当たり前か。
ベニイモの知り合いなら、たぶん騎士学校の同級生あたりだろうな。
「何であんたが此処にいんのよ。自分の屋敷に図書館があるって自慢してた癖に」
「別に自慢じゃないが、確かに家に蔵書館はある。それも、国内有数の特大のね。だが悲しいかな、それでも全ての書物を収めるには小さすぎるのだよ。だから私は新たな書物との出会いを求め、こうやって自らの足で書店を訪れたという訳だ」
少年はきざったらしいうざい話し方をする。
いわゆる、鼻持ちならない感じって奴だ。
「あ、そ」
「なんだったら……君が望むのなら、我が家の蔵書館に案内しても構わないが」
「断る」
二人の間に、タロイモがゴツイ体を割り込ませた。
その顔つきは不機嫌丸出しで、まるで敵を見るかの様な鋭い眼差しを相手に向けている。
「う……タロイモ」
タロイモに睨まれ、少年が少し怯んだ。
背後の連中――取り巻かな?――も、不機嫌オーラ全開のタロイモに明らかに動揺を見せている。
14歳くらいの少年が、ごつくて厳つい奴に睨まれたらビビるのも無理はない。
まあその当のタロイモも14歳な訳ではあるが。
「もう一度言うぞ。断る」
「き、君には聞いていないだろう」
「妹に話を通したければ、俺を倒してからにしろ」
受け答えが完全に輩である。
ベニイモもそうだが、タロイモもこの少年の事が嫌いな様だ。
「え……エブス様に向かって生意気だぞタロイモ!お前なんかが……うっ……」
取り巻きの一人が、厳ついタロイモに怯えつつも声を上げる。
が、ギロリと一睨みされるとそのまま黙り込んでしまった。
いくらなんでもビビリすぎだろうに。
しかし、こいつがエブス・ザーンか……
ベニイモの手紙にあった、イモ兄妹にちょっかいをかけて来る貴族。
それがエブス・ザーンだ。
ベニイモ曰く、面倒くさくて鬱陶しいだけ。
タロイモ曰く、大した事のない雑魚。
見た感じだと、二人の評価通りの人物の様に見えるな。
これなら確かに、ソアラの手は借りる必要は無さそうではある。
「どうした?やるのかやらないのか?」
そう言いながらタロイモが首を軽く傾け、顏の前で指をバキバキと鳴らす。
傍から見たら完全に輩に絡まれたお坊ちゃんの図である。
「くっ……こんな場所で勝負しなんてしたら、周囲の迷惑になる。貴族である私がそんな真似をする訳にはいかないからな。いいだろう、引いてやる」
意訳すると『君と戦ってもボコボコにされるだけなのでやだ』って所だろう。
イモ兄妹の実力は、同学年は愚か騎士学園内でも屈指だそうだからな。
まあベニイモの書いた手紙にそう書かれていただけなので、実際はどうなのかは分からないが、少なくともタロイモとエブス・ザーンとの間には大きな力の隔たりがあるのは間違いなさそうだ。
「口だけは達者だな」
「ふん……」
エブスが不機嫌そうに鼻を鳴らし、その場を去ろうとする。
が、彼は足を止めて振り返り――
「ベニイモ君。蔵書館の本が読みたくなったら、いつでも言ってくれて構わないぞ。その時は僕が案内して上げよう」
そう言ってから取り巻を引き連れて去っていった。
本との出会いを求めてやって来た割に、店に入らずに帰っていいのかよ?
そんな事を思ったが、まあそれはどうでもいいか。
それよりも――
「なあ、ひょっとして……あいつってベニイモの事が好きなんじゃ?」
何となくだが、俺にはあのエブスって奴がベニイモの気を引こうとしていた様に見えた。
まあそれにしてはやり方が幼稚なので、只の勘違いって可能性もあるが。
「ひぃ……止めてくださいよ師匠。寒気がするから考えない様にしてるんですから」
俺の言葉にベニイモが凄く嫌そうな顔をする。
どうやら当たっていた様だ。
「ははは、頑張ったら貴族の夫人も夢じゃないんじゃないか?」
「勘弁してください。あんな嫌味っぽい奴、絶対にお断りですから。だいたい、私は自分より強い人じゃないと」
「それはまあ……ハードル高いな」
今のベニイモは騎士学園でもトップクラスだ。
なんなら、並の騎士相手にだって遅れを取らない程に強い――ゼッツさん談。
それもまだ14歳と言う若さで、だからな。
卒業して成人――この世界では16歳――する頃には、更に強くなっている筈。
そう考えると、彼女の恋人となれる人物はかなり限られて来るだろう。
「後、超顔が良くて。私を包み込んでくれる包容力が欲しいですね」
「その条件だと、下手したらタロイモより……」
タロイモのおひとり様を彼女は心配していたが、条件を考えるとベニイモの方が厳しい気がしてならない。
まあ今は若いから、自身の理想――難しい条件を打ち上げてるだけだとは思うが。
「好例がいるからって、それを基準に高望みしすぎだ」
タロイモが何故か俺をチラリとみる。
「ふん!妥協なんて情けない真似はしないわよ。それにまだ、負けが決まってる訳じゃないしね」
「何の話だ?」
兄妹だけの秘密の話だろうか?
「何でもありません!師匠は気にしないでください!さ、入りましょう」
気になって訪ねると、ベニイモは誤魔化す様に慌てて俺の腕を引っ張って店内へと向かおうとする。
どうも俺には聞かれたくない話の様だ。
ま、聞かれたくないなら仕方がない。
「おいおい、引っ張るなよ」
「まーまー、遠慮せずに」
いや、遠慮とか別にしてないんだが?
と言うか意味が分からん。
「やれやれ」
俺はそのまま、ベニイモに引っ張られて図書館みたいな書店に連れ込まれた。
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