小説の続き

 カクモノの大型コンテストは、カクモノコンと呼ばれ、毎年多数の応募がある。

 竹村啓里を名乗る奴が応募するつもりでいて、もし、入賞でもしたらと考えるとすごく嫌だ。

 カクモノの運営に言うことも考えたが、証拠となる文章はすでに消えてしまっている。

 竹村啓里の小説には、一杯コメントが付いていて、偽物は、それの一つ一つに丁寧に返事していた。

 中には携帯小説サイトの頃見ていた人が、いきなり消えたので心配していたと書いていたことに、"忘れられていなくてよかったです。”と書かれていて、ああ、この偽物は、忘れたくなかったのだと思った。消してしまった小説を忘れてしまったのは私だった。

 残念だけれど、竹村啓里は私ではなくなったんだなと思った。もう、すっかり偽物が本物化している。

 気になったのは、私が連載途中で消した作品の続きを書いていないということだった。


 私は純文学の長編を書いて、カクモノコンに挑戦することにした。

 カクモノコンの受付が始まるのは、七月一日で、応募が締め切られるのは、八月三十一日だ。私はドキドキしながら、七月一日の午前零時を待って、最初の話を投稿した。

 偽竹村のカクモノのページを見た。

 ただ一つ連載中の表記になっている小説をクリックする。

 あっと思った。ずっと、続きが止まったままの小説の続きが書いてあった。

 私の考えていた話としては、主人公が浮気をされたと思い込み、彼氏を疑うのだけれど、それは勘違いで、彼氏からサプライズの花束をもらうというラストだった。

 私は、浮気されたと思い込む所まで書いた。

 偽物は、その先をこう書いていた。

 浮気は本当で、主人公は彼氏に翻弄され、相手の女性に嫉妬されたあげく、駅のホームで立っていた所に、その女性に突き飛ばされて、電車にひかれる。一命は取り留めたが、植物人間になる。

 意識はあるのに、体が動かない主人公を誰も救ってくれない。

 そんなラストだった。


 何だか、小説というより現実を見せられたような小説だった。

 文章どうこうというより、話が暗すぎて、バッドエンドで読後感が悪い。

 これをコンテストに出す気なのだろうかと、もう一度、小説の表紙のページに戻ると、賞に応募していた。

 コメント欄を見てみる。

 今までの私の小説はハッピーエンドばかりだったせいか、戸惑う声が多かった。

 ラストが公開された後、偽竹村は、コメントにも返信せず、音信を絶っていた。

 あとがきが更新されたのは一週間後だった。

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