第5話 狂戦士の後始末
数瞬時間が飛んだ感覚がした。
そびえ立つクリスタルがあるだけの部屋だったのに靄がたてこみ粉塵も舞っている。クリスタルが真っ黒だ。光も通さない暗黒色に染まってる。
眼鏡と記録係が部屋の隅に手をついて腰を下ろした格好してる何かに腰を抜かした様な有様だ。
騎士団長は私のすぐ横にいた。
何何何?何があったの数瞬で?
誰も言葉を発しないで数秒過ぎた。
どうしたらいいのかな?帰っていいよね?まだなんか測定あるかもしれないけど指示出る前に帰ろう。
今はわからなすぎで心許なくてエリザベス様にすら会いたいくらいだ。学園帰ってカバン持って帰ろう、担任教諭を部屋の外に待たせてるもんね。
私が緊張してるだろうからって自分の時の魔力測定の話してくれた担任教諭に今すぐ会いたい。彼はクリスタルを指で突いて笑われたって言ってたなクリスタルが沈むんだって事教えて欲しかったな。
最後は元気よく「あっざぁしたぁ!」
クリスタルに最敬礼して出口の扉に向かう、まだ三人とも気を取り直さないでね?私が部屋を出るまで。
逃げ帰ると思われないギリギリの速さで扉に向かう。あと一歩でドアノブだー。
「ちょっと待ってくださいませんか?」
騎士団長から声がかかる、さすが歴戦の勇士なのだろう立ち直ったよ!
そうでないと団長職なんてありつけないし家柄だけでは登れない地位だろう。なんかこの人家柄良さそうなんだよね爵位の上下はわからないけど絶対に貴族だ。
もう一歩進んで振り返る、もうドアは私の射程距離だ、背にドアをあてておく。
騎士団長は抜剣していたが納剣してこちらに近づく。私が何歩か歩いた距離を2、3歩で詰められる。
とりあえず待ってみる騎士団長からはきっと逃げられないし身体強化しても無理そうだ。
紫電の瞳は初対面の時と違い揺らいでいた「少し検討してからでないと返せないのでお待ちいただくようになります」
あっ少しって言ったね!「はい、少しでしたら問題ありません待たせていただきます」言質取ったぜ。
「椅子もなくてすみませんが魔術師団長と取り急ぎ打ち合わせしてきます」
くるりと背を向け今だ腰を下ろしている魔術師団長の元へ向かって行った。
いちいち紳士だな、妻帯者でなかったらよろしくお願いしたいところだわ。
記録係さんは顔色悪く話し合いに参加してない、魔術師団長に騎士団長は膝をつく格好で話し合ってる、いま帰ってもわからなくない?担任教諭に報告したいし。
「あの、お時間かかる事を担任教諭に連絡してきますねぇ」
諾を得ず外に出る、靄や煙が立ち込める部屋から抜け出すと夕方前のなんてことない日常が待っていた。
「終わりましたね!学園に戻りましょう」軽い調子の担任教諭に和む。
「簡単な報告書もらえるんですがね?係の方どうしたんでしょうね?」担任教諭が不思議がる。
少し待ってほしいと言われましたと伝える、コレ私だけ帰るわけにいかないかな?
担任教教諭に交渉しようかと思ってた時に魔術師団長と騎士団長が出てきた、魔術師団長復活おめでとう。
魔術師団長が担任教諭に向かって「少々確認事項があるのでえぇっとロゼット・ロジャース嬢を預からせてください、保護者の方にもこちらから連絡しとくので」
担任教諭は二人の迫力に狼狽えた顔してお願いしますとそそくさと帰って行ってしまった。
あっえっ1人にしないでー!ドントリーブミーアローン!
心の声は届かずに場所を移しましょうと言われ別棟の執務室の様な部屋に案内された。社長のデスクみたいな広い机と手前にテーブルを四方に囲むソファがある部屋だ、横に秘書が使うような事務机もある。
ソファの末席に座らされ前と横に2人が座る。
魔術師団長が真面目な顔してる。斜めから物事見てる風な中身が美形な顔に溢れ出てて苦手なキャラだったけど、真面目な顔は精悍さもある。
そんな黒髪眼鏡から「まず謝ろう、魔物を出現される魔力注入に躊躇していた様なので主に対魔物用に際限なく闘えるリミット外しの為の理性を失う呪文を施した、すまない」
ヒェ〜〜マジですか?
バーサク状態?
死んだ!
理性ないって何よ!
理性の塊ロゼットちゃんの理性奪うなんて〜社会的に死んだわ。
服脱いで騎士団長様に襲いかかったのかしら?好みだからって?妻と子供ゴメンよ怖い!もうほんと帰ればよかったよ泣きたい。
「すみませんでした」とりあえず謝っとこう!座ったまま太ももと胸をくっつけて最敬礼する。
「なんの謝罪かわからないけど、話を続けよう。クリスタルからは保存してある魔物の最高のワイバーンが出たんだ、手に余ると思い騎士団長が処理しようと君の前に出たんだが君が更に一歩踏み込んで炎と氷のそれぞれの剣を魔法で錬成して双剣で倒したんだ、クロスに切り込んで一撃だった。」
途中からなんかのファンタジー小説の勇者でしょうか?ワイバーンってドラゴンよね?調べたことあるんだけど一般の?ドラゴンは4本脚に翼だけどワイバーンは前足が翼のドラゴンだったはず、なんのために調べたんだっけな?って絶賛現実逃避中。
とりあえず騎士団長さまを裸で襲わなくてよかったデス。
「双剣は実体でなく増幅器として魔法で錬成したんだろうね、そこから集約させて炎と氷を出したようだ」分析してくれている。
襲わなかったことで少し気分がよくなったし喉が渇いた、何か飲みたいな水分。
私一人だけ落ち着いて二人を見てみると緊張感漲る表情していた、まるで珍獣になった気分だ。
檻の外からこんな顔して何人にも見られているのだろうな珍獣は。
仕方ない、この人たちの気分を和らげよう!王国臣民としての義務だ。
困った人には手を貸し、安らぎ与える、そんな義務あるのか知らんけど私の矜持は手の届く範囲の人が困っていたらできる範囲で助けることだ。魔法を授かったのもそのためだと自負してる。
魔力量はあまりなかったみたいだけど自分なりに得意分野を鍛錬して無詠唱でそこそこに使える魔法を培ってきた。
両手のひらを出して「ワイバーンってこんな感じのドラゴンですか?」光魔法の応用で視覚エフェクト魔法だ。
見せたいものを思念の外にデータベース化しておいて具現化して周りの人にも見せる魔法だ。
教室で見せたような風景や小さい光の粒などは部屋中に出せる、是非パーティーに呼んでほしい。盛り上げますよ!据え置きに価格にしておきます、競合他社いないだろうから。
手乗りのドラゴンを出して炎を吹かせる。全体を緑色にしといたし翼のカドには角をつけたり身体は鱗も付けといた、どうだろう?こんなのが出たんだよね?
手のひらの上でミニチュアワイバーンが翼を羽ばたかせ炎を吹いている。
これ火魔法組み合わせて本物の炎出したらライター代わり使えそうなだな!パーティーネタもう一つできた。
お二人から『そうそうこれこれキャハハ』とか聞こえてきてもいいのだが凝視されてる。
その時ノックもそぞろバーンとどびらを開けて「おい、何やらかしたんだ」ハアハア息を切らしてマック隊長がやってきた。
なんかずっと心許なくてもう幻獣くらいの扱いになったところにマック隊長やってきて泣きそうになる。
「ワイバーンの脚が何本かどうかよくわからなくて」
「はぁ?」
ゴメンなさい、保護者代わりに急遽に呼び出されてワイバーンの脚の話なんかされたら呆れるわ、お父さんありがとう。心の中で呟くが5つしか上じゃないからお父さんには早すぎるよね。
「なんか少しやらかしたらしいんだけど、保護者の方が来たし連れて帰ってくれたらいいみたいな心の声が聞こえてきたから帰りましょう。今日はどうもお世話になりました、ご心労ご足労おかけして申し訳ありませんでした」
そこそこの謝罪と感謝をしとく。
「さっきの手のひらのドラゴンなんだ?」
「私の中のワイバーン」
なんかこんなタイトルの小説ありそう。
「あとで説明しますよ喉乾いたし子供たちの食事作らないとだから急ぎましょう」マック隊長をぐるりと回して背中を押して部屋を出ようとしたのに「待ってください」
騎士団長復活する前に逃げたかった。
「すみません子供たちの夕食を作らなといけないのです、お腹を空かせて待っているので」騎士団長も立ち上がっていたので両手を合わせて見上げる、仕方ないが上目遣いウルウル攻撃だ、こんなモテそうな人には通じなさそうだけど。
「それにもう遅いので明日にしていただけませんか?」お願いしてみる。
「おいグレンそいつは魔性の女だから気をつけろよ」コラコラ、うるさいな誰が魔性だよ!
「ガキから老人までたらし込んでるだぞ」味方かと思ったら敵かよ、断じてたらし込んでなどいない敵を作らない生き方をしているだけだ。
頼るのは結局自分だけだ!
強行突破できるか簡易サーチしてみるがやっぱり強い。
「チリチリ来るね〜」魔術師団長がうなじを抑える騎士団長も同意してる、やっぱ強い奴らはサーチにも気がつくのね気をつけよう。
「これからの処遇について検討しなければいけないので待ってほしいんですよ」丁寧に言われると待ちたいけれどコレってさっきの反応から最悪で処刑なんじゃないの?!王国に仇なす魔女とか言ってさ!
「処刑ですかっ?処刑も明日にしましょうよ」
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