第3話 学園生活


 ラッキーな奴らは敬われたくて仕方ないらしいから慇懃無礼の少し前くらいに大袈裟に敬って差し上げてる。街の教会に来る貴族は下位貴族だから尚更だろう、貴族社会の憂さを平民社会で晴らしているようだ。


 Aクラスのお貴族様は若いせいもあるのかノブリスオブリージュこそが正義!な感じで『なにここ臭いわ平民の匂いがする』とはまだ言われていない。


よかったよかった。


もしそんなことを言われたら民主主義の素晴らしさと選民思考の愚かさを知らしめて成熟した近代的思想を植え付け革命を起こさないかと演説しそうだ。


 演説後に治安警察に連行されるな。


 隣席貴族はなにかと世話をやいてくれて授業の進行上の細かい決まり事など教えてくれた。

「ロゼットさん教会育ちならどこかの貴族の子どもかも知れないですね」なるほど落とし胤というわけか。

 実際に平民でそこそこの魔力を持っているのは落とし胤率高いのだ。

「実は隣国だったトレバスから来たんです」それをいうとお気の毒にという顔をどこでもされる。


 私が暮らしていた隣国のトレバス国は一夜にして滅亡した。


 他国に滅ぼされたわけでなく膨大なエネルギーを持った火山噴火により近代都市として集約されていた都市部が火砕流とマグマに焼かれた。

 セレアシャトン連合王国とトレバス国は隣だというのに国境は3,000メートル越え急斜面の山脈が南半球まで連なり、アイゼン履いてピッケル持ったアルピニストでなければ超えられないので交流が全くなかった。

今トレバスの方向は山脈の向こうに頭頂部だけ見える山から白い煙が上がっている。

 大噴火の夜の夕方にちょっとした大事件を起こして私は都市部から逃走していて難を逃れた。あの時は頻繁な地震に沸騰する池に皆が不安を抱えてイライラしていた。

 住む家も知り合いも全て無くして郊外の山小屋で暮らしていたところをマック隊長に保護された。

インビジブルで隠れていたんだけど「匂いでわかるぞ!そこにいるんだろう女!」とか叫ばれて木の陰に居ましたって体で出てきて「若いのがこんなとこにいるなよセレアシャトンに行こうぜ」って話になって山脈をまさに滑落して王国に着いた。


「あの山脈はどうやって超えたんですか?」

「屈強な騎士様と滑落…じゃなくて上手く滑り降りてきたというかアハハ」笑って誤魔化すしかない!


 僅かに残ったトレバス民でセレアシャトンに来た人なんて知らない。他は反対方向の海側に向かったか森林部で非文明的な生活をしているだろう。

 マック隊長との山降りは岩肌に足を滑らせマック隊長が弾みで頭を打ったのかしばらく気絶していて私は重力魔法と身体強化魔法を駆使してマック隊長を抱えて肉塊にならず擦り傷のみで二人で山を降りることができた。必死だったから出来たことで二度と出来ないと思う。本来は一流の登山家でもビバークテントで3日かけて下山する急斜面だ。


 マック隊長もあれきり難民探しに行ってないそうで命が惜しいなら二度と行かないでほしい。


 私は魔法が使えることはトレバスでは公言していなかった。工業がある程度発達していて魔物を見ることもないし魔法使いを公言している人もいない状態だった。セレアシャトンでも魔法使いは物珍しい存在で異端な気がしてずっと使えないことにしていた。

 係員が台所をトイレと間違えるまでは。


 そして週末のお休みにクラスのお二人から湖に行かないかと誘ってもらえた。お貴族様のお友達が集まって釣りとピクニックをするらしいが大丈夫なのだろうか?それこそ『お母さま平民がいるよ!』『指をさしちゃいけません』てなやりとりくらいされそうだ。


 しかし行ってみたい。


 ここはセレアシャトン連合王国の王室が住まわれている王都で魔物の侵入を防ぐ城郭都市だ。私はセレアシャトンの王都に来て一度も城郭から出ていない。

 ちなみにセレアシャトン連合王国が周囲の小国と多民族の地域もまとめて広大な国土がありながら連合王国として帝国と名乗らないのは諸般の事情があるみたいだ。教会での古い教典の説法も王国、王国と読まれているので変えられないのではないかと密かに思う。



 城郭外は魔物がいるらしいけれど滑落後に山の麓から王都まで移動した時はお目にかかれなかった、マック隊長にびびって出なかったかと思ったけど街道沿いはそうそうでないらしい。

 お貴族様が城郭外に出るときは私兵がいれば同行するしそれ以外は騎士団に護衛バイトを頼めるらしいのだ、商人や薬師の魔物群生地に薬草取りに行くときも護衛バイトを頼めるらしい。


 湖で『平民風情が〜』などと貴族に言われたら政治的な演説をすればいいか!

服装も余所行きワンピースと帽子に花を飾れば街で見かける下位貴族くらいには擬態できると信じている。

 馬車移動みたいだけど車窓から魔物見れたらいいな!離島に向かう船でイルカ見れたらいいなくらいの感覚である。それくらい城郭都市内部は平和だ。


 編入してまだ3日ほどしか経ってないけど殿下と呼ばれていた男子生徒の視界に入らないように行動してたし泥棒猫疑惑は払拭できたのではないかと思う。

 エリザベス嬢に夢の終わりは国外追放か断頭台か聞いてみたいところだ。娼館エンドや隣国王太子求婚エンドまで幅があるよね。

 隣席貴族も優しくしてくれていて湖の他にもお昼をご一緒させてもらっている。

 Aクラスには少ない女子とも仲良くしたいけれど過ぎた願いだろう、今は隣席貴族の義務感に甘えているだけなのだろうし。


 そつなく学園生活できそうな気がしてきた。













 

















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