第2話 泥棒猫
なにそれ?それで私が泥棒猫なのか!でも疑問系で聞かれたから別人では?
「もしかしたら泥棒猫さんは新入生にいるんじゃないですか?どんな髪色とか覚えてますか?」
「覚えてないのよ、でも虫も殺せないような庇護欲そそるような可愛らしい方だったのよ、わたくしが平民ゆえに知らないことをアドバイスしただけで嫌がらせされたと殿下に告げたりする子だったけど」
「それは私ではないですね。虫なんて益虫でなければ殺します!害虫なんて巣ごとやっつけます!」
殿下と言われた人も無表情ながら僅かに引いている、しかし王族なんて厄介だ不敬罪で処刑されたらかなわない。
「こうしましょうエリザベス様!その前にお名前呼んですみません!私、殿下とは一切口もききません、視界にも入らないように気をつけます。それから入学式で泥棒猫っぽいかわいい子を見つけましょう!」
「いい案ね。入学式が楽しみになったわ。ロゼットさんとお呼びしても?」
「もったいなき僥倖です。私なんて『水色頭』でも『ロゼなんとか』でも構いません」
「おもしろい方なのね。黙っている方がいいとよく言われるでしょう?」
人格否定されながらも泥棒猫疑惑は払拭できたようだ。
入学式ではかじりついて鷹の目で新入生女子を物色した。エリザベス様はどこからか名簿を取り寄せていて、かわいい子見つけたら照らし合わせて貴族かどうか確認していた。
平民には泥棒猫らしき子はいなかった。平民は下位クラスに固まっていて髪色も落ち着いた色が多かった。下位クラスにストロベリーブロンドのかわいい子はいたけれど子爵家の令嬢だった、養子ではなく昔からかわいく評判のある子だった。その養子の線でもかわいい子を探したけれどオーラを消しているのか目ぼしい子自体いなかった。他にも綺麗で洗練されてる子はエリザベス様の昔からの貴族の顔見知りで夢の泥棒猫とは違うらしい。
振り出しに戻ったか?
しかし殿下は美形だった。濡羽の様な漆黒の髪に黎明の空の紫色の瞳で物憂げな表情で独特な色気というか憂いを帯びていた。見る分にはいいけどお付き合いとかしたくないタイプだ、私もいろいろ抱えてるので鬱々したものは抱えてやれない。
心配ないって笑って包んでくれる人がいい。でもダメだよね自分だけ寄り掛かろうなんてね、楽しさを分け合って孤独を癒し合ってパートナーとは対等でいたいものだ。
しかし殿下なんてありえない、だが心持ちを軽くしてやることはできるだろう!何か彼に言う機会があったら歯を見せて笑って親指立てて「心配ないぜ」って言ってみたい、きっとそんな機会はないだろうけど。
「いませんでしたね、2年生は平民の方いらっしゃらないんでしたよね?私以外に」
「そうなのよ、学年末休みに殿下から平民の編入生来るって聞いた夜に見た夢なのよ」さすが殿下!警備の面があるだろうから情報知ってるのか。
なんとなくクラスに私が平民だと言うのは伝わったらしい。お友達は諦めよう、今日のお昼も人気の無いところで食べたし図書館も広かったしなんとかなりそうだ。
それでも前の席と隣の席の男子生徒から話しかけてもらえた!伯爵家と子爵家らしい。卒ないところを見せれば侍女として雇ってもらえるかもしれない。
Aクラスでは8割くらいは王都出身やタウンハウスで寮暮らしは2割しかいない、お二人も王都の貴族で馬車通いということだ。
逆に私のように徒歩で通学するのはものすごくレアらしい、制服でわかりやすいから魔力持ちの誘拐事件あるから送って行くよなんて優しい言葉をもらえた。
ここでお言葉に甘えていい話ではないのはなんとなくわかる。危害を加えられそうになった事があるけど、その辺に屯している輩や破落戸レベルならやっつけた武勇伝を聞かせておいた。
木の枝に引っ掛けたとか腰から下を土に埋めた話を感心して聞いてくれるので飲み屋で綺麗なおねえさんに武勇伝語るおにいさんの気持ちがわかった。
帰り道は言われたように拉致られたら面倒なので身体強化して速力を上げ体を透明化させるインビジブル魔法をかけて風のように帰った。
登校初日を心配してか教会ではマック隊長が出迎えてくれた。
マック隊長とはこのセレアシャトン連合王国の王立聖騎士団の正騎士団の壱番隊隊長をしている。
黒髪で緋色の瞳、騎士服の上からでも筋骨量多いのがわかる身体だ。鋭く見える瞳なので軽く視線を投げるだけで邪な奴らは退散していってくれる。
孤児でこの教会で育ち実力で隊長まで出世した、普段は忙しく王宮にある宿舎で寝泊まりしている。
私が隣国での難民のような生活から連れ出してこの王国に連れてきてくれて今はもう家族のような人だ。
「ロゼット、学園はどうだった?」
「早速、貴族令嬢に絡まれましたよ!泥棒猫って!」
「泥棒猫?なんだそれ」と言われて笑われた、笑い事ちゃうのよ!
マック隊長に事の顛末を話し「言いがかりだな。困った奴らだ。貴族には気をつけ過ぎるくらい気をつけるんだぞ」と念を押された。
人口の1割ちょっとの貴族は絶大なる権力を持っていて平民など風前の灯だ。私が暮らしていた隣国トレバスは祭祀を司る皇家がある立憲君主制だったし生まれで差別される制度に敏感ではない。さらに渡ってくる前もそんな国だったから貴族なんて『ラッキーなやつだな』くらいの認識しかない。
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