第6章 懐かしき故郷とサタンの目




 白い視界が晴れた時には、周囲の景色は大きく変化していた。


 リルは移動先をサタン家の領内にある『軍岳地帯』と呼ばれる場所に設定していた。


 それは城下町の外れにある、とある小さな山を切り開いて造られたサタン家直轄の軍事基地だ。


 敷地面積の3分の1ほどを占める様々な軍事施設が物々しく重厚な雰囲気を作り出す。

 また、それらに囲まれる形で中央部には広い演習場が設けられている。


 平時には兵士の訓練場所として、戦争が始まれば様々な物資や兵団を輸送する為の拠点として利用される。


 そこにリルはポツンと1人で立っていた。


 先ほど人間界は夜だった。

 ならこちらの世界は既に翌日の朝を迎えている。


 魔界と人間界では半日ほど時刻のズレがあり、悪魔たちはその時間差を『魔界側が半日進んでいるもの』として扱っている。


 リルはゆっくりと左右を見渡す。

 

 何もない――。


 武器庫、格納庫、魔法実験棟や司令本部棟など本来ならそこにあるはずの見慣れた施設がどこにもなかった。

 

 そして、誰もいない――。


 兵士や警備兵はもちろんの事、常に誰か1人は駐留する決まりになっているはずの将校を含め誰1人としてそれらしき姿を認められない。


 その代わり大小様々な岩や石が辺りに転がり、雑草も伸び放題と言った有様だ。

 長い間手入れがされていないのは一目瞭然と言える。


 半ば茫然としたようにリルは立ち尽くす。


 ここはサタン家の軍事組織の中枢が置かれる要所の1つで、そう簡単に手放せるような場所ではない――。


 少し前に会ったあの人間の男女の話が現実味を帯びてくるような気がした。


 肌寒さを感じたリルは少し体を縮める。

 魔界の夏は終わるのが早い。

 この地はもう秋支度を始めたようだ。


 辺りの光景にリルは一瞬移動する座標を間違えたのかと思った。

 しかし先ほど確認した時、設定に何ら誤りはなかったはず。


 だとすれば、やはりここは例の基地に違いない。


 その場所からずっと遠くにある街並みをリルは見渡した。


 記憶の中にある景色とそれほど大きな差は見られない。


 5キロぐらい先で視界一杯に広がっている町並み。

 その中央付近にそびえる巨大な城。

 サタン家の本拠地だ。


 その周りを城下町が囲んでおり更にその周縁部を巨大な防壁が覆っている。


「とりあえず城まで行こう……」


 そう思ったリルは空間魔法を発動する。

 瞬く間に座標が移動し、気付いた時には遠くから見えていた壁が目の前に現れた。


「おかしい――」


 いつもならこの辺りにあるはずの通用門がどこにも見当たらない。

 それに壁の表面が妙にツルツルとしていて違和感を覚える。


 本来は強化レンガを積み重ねて頑丈そうな防壁として造られるが、それが今や壁全体が凹凸の無い滑らかな面に覆われ、まるで1枚の巨大なガラス板と言った風情を醸し出していた。


 無機質な黒い壁面がまるで出来の悪い鏡のようにぼんやりとリルの姿を映し出す。


 私の知っているものと全然違う……大きな衝撃を受けた。

 

 これは何の素材でできているのかと思い壁に近づいた時だ。


 突然、壁の中から羽虫のような物が2体飛び出してきた。


 球状の体に長く大きな羽を左右に2枚ずつ付け、それを高速ではためかせながら、こちらへ急接近してくる。


 それはリルの目の前まで来るとピタッと動きを止めた。

 上下に振動する羽から発せられるブーンと言う重低音がリルの鼓膜を震わせる。


(なにこれ……)


 その羽虫のような物の挙動を注意深く見守る。


 胴体の中央にまん丸い目玉が1つ付いており、それをキョロキョロと上下左右に忙しなく動かしている。

 

 こんな造形の虫は自然界に知らない。

 恐らく人工的な物だ。


 静止していた2つの虫が再び動きだしたかと思うと、1つは斜め縦方向にもう1つは横方向にリルの周囲を旋回し始める。


 そしてそれぞれ3回転ほどしたところで再び壁の中へスーと消えていく。

 

 すると次の瞬間、目の前の壁の一部がちょうど人1人が通過できるぐらいの大きさに消失したのだ。


 リルは驚愕の目でそれを見つめる。


 中に入れと言う事か――。

 そう理解したリルは警戒しつつそれに向かって歩き始める。

 壁は思ったよりも薄く、あっという間に潜り終える。

 それからまた元のように背後の空間が埋まっていった。


 恐ろしく先進的なテクノロジーがいつの間にやら備え付けられていた。


 ◆


 防壁を潜ってすぐのところの左右に2人の悪魔が壁に背を向ける形で立っていた。

 歩哨のようだ。

 しかし彼らの顔に見覚えはない。


 両人とも黒い鎧で武装しており胴体には『サタン家の家紋』が彫られている。

 ここがサタン家の領地である事を示している。


 リルは少し安心した気分になる。

 軍岳地帯が形骸化していた事からサタン家に良からぬ事が起きたのではないかと思ったが、最低でも家が存続している事に間違いはなさそうだ。


 2人の歩哨は壁の内側に何者かが入ってきた事に気付いたようで、少し体を捻りながらリルの方へ視線を向けた。


 サッと上から下に目線を移動させ、その後また何もなかったかのように前へ向き直る。


 それにリルはショックを受ける。

 サタン家の当主たる自分の顔を見たにも関わらず、それに仕える兵士が何の反応も示さない――。

 普段であれば礼の1つや2つぐらいあるものだが。


 やはり、それなりの月日が経過しているのかもしれない……。


 ひとまずリルは自分の城へ向かう事にした。

 

 目の前に敷かれている大きな1本道をまっすぐ歩く。


 位置からしてここは『中央1番通り』――もしくはそうであった場所だ。


 それは街の正面から城の手前まで続く街の大動脈的存在の通りで、身分や職業を問わず日々多くの者が行き来する。

 沿道には様々な建物が場所を奪い合うように建てられ、魔界でも有数の魔法都市を築いていた。


 しかし、遠くからは分からなかったものの、よく見ると様々な点で街の様子が変化している。


 街の少し上空では記憶にはないような飛行艇が慌ただしく飛び交っているし、車に関しては当時の主流であった魔獣に引かせるタイプではなく、何やら自律して移動するタイプの物が流れるように走っている。


 時代の進歩を感じられた。


 ◆


 街の様子を目に収めたところで空間魔法を発動し、一気に城まで距離を詰める事にした。


 ヒュン、ヒュン。

 何回か移動を繰り返し、あっという間に『城門』まで到達する。

 その遥か後方には背の高い城がそびえている。


 辺りの光景はリルの記憶の中にある物と似通っている。


(間違いない私の城だ)


 魔界の建造物は総じて頑強な造りをしている。

 城など重要な施設ともなれば、その耐用年数が軽く1万年を超える事もある。

 仮にあれから3000年の月日が経過していようとも、サタン家の城が当時の面影を残す事に何ら不思議はない。


 親しみのある物に辿り着けて心に幾らか平穏を取り戻した時、右の奥の方で何かの気配を感じた。


 素早く目線を移動させると、そこには身長2メートルはあろうかと言う巨漢の男が立っていた。

 街の入り口で会ったあの歩哨達より一回り大きい。


 ただでさえ頑丈そうな体を分厚い鋼鉄の鎧で覆っている。

 その男の鎧や腰に差している剣の柄には、例の如くサタン家の家紋が彫られている。


 どうやらこの門の番人のようだが、やはりその男にも見覚えがない。


 相手の方もそれは同じようで「何者だ貴様!」と威嚇するような声で叫んだ。


 記憶通りであればここは城の正面門にあたる要所。

 他に誰かの気配は感じられない。

 その警備を1人で請け負っているのであれば、相当の手練れに違いない。


「どうやってここまで来た!? ここらには結界が張られているはずだ!」


 そう言われたリルは辺りの地面を見渡してみる。

 確かに何重にも重ねられた巨大な魔法陣が随所に見られる。

 この一帯を堅固に守っているようだ。


「……なるほど。でもサタン家の人間であれば無効のようね」


「サタン家……? お前のような奴、俺は知らないぞ!?」


 わめく男を見たリルは、これは一戦交える事になりそうだと思った。

 その男を注意深く観察する。


 悪魔と魔獣の混血か……。


 ゴツゴツとした骨格、肥大化した筋肉、濃い体毛……その見た目は確かに魔獣の特徴を示しているが、体内から発せられる研ぎ澄まされた魔力は悪魔のものに違いない。


 魔獣と言う生き物の大半は単純な獣に過ぎない。

 碌な知能も持たずにその辺の自然の中で本能のままに生きる。


 しかし一部の種は悪魔と同様、高い水準の知能を持ち、悪魔に混ざりながら高度な社会生活を営む。


 そのような高等魔獣は生来の高い身体能力を評価され、軍隊を始めとする肉体労働の場に採用される事が多い。


 魔獣の血を持つこの男も、そのような1人であるのかもしれない。


「さっさと立ち去れ! さもなくば敵と見なし攻撃する!」


 しかしリルはそれに動揺する事なく、ゆとりのある笑みを浮かべる。

 

 それが挑発として目に映ったのか、男は一切の隙も見せつけない素早い動作で腰に差す大剣を抜いた。


 男の体躯に見合う巨大な剣だ。

 ツーハンデッドソードのようだが右手1つで軽々と扱っている。


 その鋭い剣先を真っすぐリルへ向けた。


 両者の間に流れる空気が徐々に張り詰めていく。


 男は全身から凄みを漂わせており、今にも飛び掛からんばかりだ。

 リルは先手を打つ事はせず、じっと男の出方を待つ。


 ◆


 男は慎重にリルを見定めた。

 隙を突いて一瞬でケリをつけるつもりでいた。


 別に殺す必要はない。 

 ただ無力化できればそれで十分だ。


 確実に敵を取り押さえ、地下にいる尋問官達の元へ引き渡す――それが男に与えられた役目だった。


 正直なところ、相手が何者で何の目的でここまで来たのかなどは関係なかったし、生殺与奪の権利に関しては防衛本部が握っている。


 余計な事を考えず、ただ自分の仕事を忠実にこなす。

 全ては偉大なるサタンの為に――。


 男は攻撃パターンを何通りも頭の中で思い描く。

 重要なのは相手が戦闘不能に陥るだけのダメージを初撃の時点で与える事だ。

 それには相手の実力を上回る攻撃を的確に繰り出す必要がある。


 突然現れたこの女の技量は果たしてどれ程のものなのか――表情、動作、魔力の流れなどあらゆる情報をインプットしそれを見極めようとする。


 だが、妙だ。

 戦闘が始まろうとしているにも関わらず、女はただ腕を組んでじっと前を見つめるだけ。

 闘志と言うものを感じさせない余裕のある佇まいをしている。


 男の経験上そのような者は戦闘のイロハを理解しない未熟者か、或いは己の力に絶対的な自信を持つ異次元クラスの腕利きかのどちらかであった。


 前者に違いないと己の勘が告げた瞬間、男は攻撃に出た。


 全身の力の全てを振り絞り、その巨躯からは想像もつかぬような俊敏さで剣を向けたまま前へ踏み込む。

 そして剣先が相手の体に届く直前に光魔法を発動し強烈な稲妻を相手の全身に叩きつける。

 

 目の前からビリリと湿っぽく甲高い音が発生した。

 生体を電気が貫いた証だ。


 これでもうこの女は防御行動にも攻撃行動にも出る事はできない。

 全身を貫く激烈な電流は神経回路をショートさせ相手の動きを封じ込めるのだ。


 後は糸の切れた人形も同然と化した女の体を剣で貫けば終わる。

 痛みと大量の出血によるショックであっという間に気を失うだろう――。


 光魔法を炸裂させた次の瞬間には女の体表に剣先が達したのが分かった。


 鋭い刃が柔らかい服の生地や皮膚を切り裂く感触、筋繊維を断ち切り硬い骨にめり込む感触が柄を通じて手に伝わって来た。


 確かな手応えだ。

 全ての攻撃は時計の秒針が1秒を刻む暇も無く完結した。


 男は女の体に突き刺した剣を勢い良く引き抜くと、剣を振って血を払い鞘に収めようとした。

 だがその時だ。

 

 キーン――。


 甲高い音が響き、男の持つ大剣が根本から切断され、その剣身がゆっくりと地面に落下する。

 女の体がスッと目の前から消えたかと思えば、背後に強い気配を感じ、慌てて後ろを振り返る。


 あまりの衝撃に目を見開く。


 今倒したはずの女が平然とした顔でそこに立っていたのだ。

 その体にも、身に纏っている黒いドレスにも傷1つついていない。


「馬鹿な……確かに攻撃は当たったはずだ!」


「なかなか良い腕をしている。高いレベルの体流魔法に光魔法、それに剣術と体術の心得もある」


 いつの間に出現させたのか、女の手には槍状の魔剣が握られている。

 そしてそれが自分の喉元に突きつけられた。


「命が惜しいなら、そこで大人しくしていなさい」 


 男は全身を脱力させその場で尻もちを着いた。

 女の瞳に、とあるが浮かび上がっていたのだ。


「サタン家の紋章……!? あり得ない! それはロディア様しか……」


 それは『紋章』と呼ばれる魔界七家の当主の目にだけ現れる特殊な生体模様だった。


 そのデザインは家によって異るが、女の瞳に浮かぶ物は紛れもなくサタン家固有の紋章に違いなかった。


 しかし……現在それを持つのはこの城の主である『ロディア・デューク・サタン』ただ1人のはず。


 女は城門の方へ静かに歩いていく。

 すると両開き式の鋼鉄の扉が重々しい音を立てながらひとりでに開き始めた。


 男は絶句した。

 その門には紋章に反応して自動で開閉する機能が備わっている。

 この城の主にだけ認められる特権だ。


 女は武器を収めると、慣れた動きで城の中へ進んでいった。




 8




 サタン家の城は1000ヘクタールを超える広大な敷地面積を有する。


 城主の居住スペースや玉座の間などが設けられている本館まではそれなりの距離がある。


 かつては魔獣に引かせた車で移動する事もあったが、もうそんな物は無いような気がするし、そもそも迎えも来ないだろう。


 時代に取り残された者の悲しき宿命かもしれない。


 軽く空間魔法で飛ぼうかと考えていた時、耳をつんざくような大声が辺りに響き渡った。

 

「何者だお前! 止まれ!」


 その後、複数の足音が近づいて来たかと思えば、リルはあっという間に5人の兵士に取り囲まれた。

 

 城の中と外とでは異なるセキュリティ体制が敷かれるものだ。

 もし外の守りが突破されようとも、中で警戒に当たる別動隊がすぐに侵入者を迎え撃つ。


 やってきた兵士たちは全員鎧や兜で顔と体を固めている。

 目の前に立っている先ほど怒鳴りつけてきた兵士は声や体格からしてどうやら女のようだった。

 その兵士が言葉を続ける。


「どうやって正面から入って来た! ジェネラルはどうした!?」


 ジェネラル……あの門を守っていた男の事か。


 ジェネラルと言う門番がやられたと思い込み、兵士はいきり立っているようだ。


 リルは冷たい笑みを浮かべながらその兵士と目線を交わした。

 この場を収めるにはこれで十分だ。 


 思った通りその兵士に動揺が走る。

 身に着ける甲冑の両肩が小刻みに震え始めるのが分かる。


 リルは何事も無かったかのようにその脇を通り抜けると、少し先まで歩き、空間魔法を発動して姿を消した。


 ◆



「おい、どうした! 何をボーとしている!」


「まずい、侵入を許してしまったぞ!」


 その始終を見ていた他の兵士たちから非難の声が上がる。

 しかし女兵士は呆然としたように呟く。


「アイツ……目に紋章を持ってた。しかもうちの物だ……」


 どよめきが起こる。


「馬鹿な……そんなはずはない。何かの見間違いじゃ無いか?」


「お前ともあろう者が何を狼狽えている! このまま見過ごす訳にはいかないだろ」


 兵士達は慌てふためく。

 あの不審者は空間魔法を使って高速で移動している。

 急いで捕まえねば大変な事になってしまう。


 そう思い彼らが駆けだそうとした時だ。


「見間違いなんかじゃない! ダメだ、私たちでは対処できない……!」


 その兵士が声を張り上げた。

 水を打ったように場が静まり返る。


 1人の兵士が「おい、落ち着け。このまま何もしないほうがまずいだろ……?」と言うが、兵士は何も答えない。

 未だに自分の見たものが信じられないでいたのだ。

 

 確かにあれはサタン家の紋章だった。


 だが現状それを保有するのはこの城の主だけ。

 紋章は時の当主から次の当主へと世代を通して受け継がれていく。

 ゆえに当代につき1つしか存在しない。


 それにも関わらず、どうしてあの者が紋章を――。


 もしかすると精巧な偽物か?

 しかし……。


「あれを見た瞬間、本能的な恐怖を感じて体が動かなくなった。あの感覚は本物と同じだ……」


「……そうは言っても紋章はロディア様しか持っていないだろ? 見間違えか、偽物かのどちらかしかあり得ない」


 だがその時、班のリーダーを務める老兵が「1つだけ可能性が無い事もないが……」と呟いた。


 他の兵士たちは驚きの目で老兵を見つめる。


「仮にあの悪魔にかつてうちの当主を務めていた経験があるなら、紋章を持っていたとしてもおかしくはない」


「なに? ちょっと待ってくれ……。紋章は時の当主から次の当主へと譲渡される。だから当主の座を降りた時点で保有者ではなくなる。当主の経験があろうと、代替わりしたにも関わらずまだそれを持っているのはおかしい」


「一般的にはそうだな。だが、もしそれが誤りだとすれば?」


「どう言うことだ……?」


「紋章は受け継がれるんじゃない。代ごとに新たな物が出現するんだ。ゆえに身を引いたとしても紋章は前の当主の目に残り続ける。そう言う噂を耳にした事がある」


「まさか……」


「ま、信憑性のほどは不明だがな」


 それを聞いていた別の兵士が口を出す。


「でも、もしそれが正しかったとしても疑問が残る。かつての当主たちはもう既に死没しているではないか。それが今更姿を見せるなんて、死者が蘇りでもしない限りあり得ない」


「その点は俺も分からない……」


 先代は先の大戦により命を落としているし、それ以前の当主もとうの昔に永眠している。


 謎の女が去って行った方を兵士たちはじっと見つめた。


 ここをずっと先に行けば、やがて当主が居を構える本館へ辿り着く。


 もしあの悪魔と主が出会ってしまったら……何か大変な事が起きるのではないか。


 そんな漠然とした不安が兵士たちを襲った。


「どちらにせよ城の奥まで侵入を許してしまった以上、もう我々だけの問題ではない。すぐに本部へ連絡を入れて指示を仰ぐ」


 渋い顔をしながら老兵はそう言った。

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