第5章 異空間魔法
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同じ空間内を移動するだけなら、魔法のコツさえ掴めば、さほど難しい事ではない。
ある程度経験を積んだ者であれば、サッと空間魔法を発動して素早くその先へ移動する事ができる。
しかし『異世界間を移動する』となればそうもいかない。
それには多くの魔力が必要だし、扱う魔法陣もより巨大で複雑なものとなる。
そんな訳で、この世に存在するあらゆる魔法の中でも、異世界へ移動する為の『異空間魔法』は最高難易度を誇った。
通常それを発動する場合、複数人の魔法使いが共同でその魔法陣を展開する。
複雑な魔法陣を描く作業には長い時間を要するからだ。
しかしリルは今、森の中でただ1人異空間魔法を発動する準備に取り掛かっていた。
最高水準の力を持つリルにとってそれは、10秒もあれば完結できる単純作業に過ぎない。
◆
各種魔法陣を展開するにあたっては『体の中で展開する方法』と『体の外で展開する方法』の2通りのやり方が存在する。
魔法は特定の構図に沿って魔力を流す事で発動する。
それさえ可能なら、その場所はどこでも良いのだ。
魔法の発動スピードを重視する場合、体内の魔力を使用してその場で魔法陣を描きだしてしまうのがベストと言える。
魔力をわざわざ体外へ放出する時間が省けるからだ。
そのような、魔法陣を体内で描くテクニックの事を『インサイドポイント』と呼んだ。
それは魔法における高等技術の1つで熟練の手腕が必要となるが、リルは習得している魔法のほぼ全てをインサイドポイントで発動する事ができる。
しかしそんなリルであっても異空間魔法に限っては、体の外で魔法陣を展開せざるを得ない。
異空間魔法の巨大な魔法陣を体内の限られたスペースでは描写しきれないのだ。
リルは立っている場所から1メートルほど先の地面をキャンパス代わりに魔法陣を描き始める。
だがそこには多くの雑草が茂っており描く邪魔となりそうなため、少しだけキャンパスを空中へ上昇させる。
体から放出された魔力が流れ出し、それが円状に軌道を描いた後、その次に中央に向かって進み始める。
そしてそれが中心に到達する頃には、三角形を幾つも重ねたような幾何学模様をした大きな魔法陣が浮かび上がっていた。
「こんなものかな」
魔法陣の出来を確かめた後、その真ん中に立つ。
大抵の魔法は即時性を持つが、それはリルの意思をトリガーに発動の時間を任意に調整できるようになっていた。
行き先の座標を最後にチェックし、魔法の発動を頭の中で念じる。
その瞬間リルの体は白い光に包まれ、その後には2つの足跡が草むらの上に残されるだけだった。
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