増大
光は直ぐに収まり、すぐにまた暗黒に包まれたような球体の宇宙の姿に戻る。
「い、いったいどうなったんだ。なにが起こったんだ。」
「博士、これですよ、これでこの宇宙は。」
「一体君は何を言っているんだ。この宇宙に何が起こったんだ。」
「幾つもの星や恒星、ガス惑星が銀河丸ごと焼けたんですよ。超新星爆発が同時に複数、いや何千何万と起きたんですから、それはもう明るいはずですよ。」
助手は近くの研究机に置かれていたタブレットを持ち出し、この宇宙に起こった変化をデータから読み取ろうとし始める。
「見てください。エントロピーの数値を。もう既に変化が出始めていますよ。」
助手がエントロピーのグラフの項目を拡大し博士にこれでもかという風に見せつける。
そのグラフには一旦数値が崖の様に落ち込んだ後、一気に数値が跳ね上がりそのまま上昇を続けている様が映し出されていた。
「そんな、ありえない。反応が早すぎる。」
「現に目の前で起こっているのですよ。これで私も、あなたも、この宇宙も救われる。何もかも全てこれでよいのです。」
大真面目な顔をして博士の方を向く助手を、なんてことをしてくれたんだと腹の底で嘆き憤りつつ博士は見返す。
すると突如、ビープ音を伴う警告音が研究室の中を駆け巡り始めた。
今度は一体なんだと博士は極小宇宙の制御装置の元へ駆け寄り、警告音の原因を探り始めるものの、全く想像だにしない原因である事に驚きを隠せなかった。
「なんてことだ。宇宙の体積が増えている。何故だ。君、エントロピーの総量は今どうなっている。あれは宇宙全体のエントロピーの総量だ。絶対に変わらない筈だ。」
「博士、少しづつではありますが増えています。この宇宙は更に進化しているのですよ。」
「いったい何が起きている。こんな事は。」
博士が制御装置の前を離れ急いで極小宇宙の元へ駆け寄り改めて様子を見始めると、ボコっ、ボコっとその宇宙の表面に水膨れの様に膨らみ、そしてその膨らんだ分の体積が極小宇宙の中に吸収されていく。
「これは一体。まさか、まだ空想の果てにしかない技術だぞあれは。宇宙の外の何もない空間を吸収しエネルギーとして変換する。ゼロポイントエネルギーだ。この宇宙の外は真空で満たされているからこそできうる。だがこれは先に言ったとおり空想上の物だった。まさか本当に実現するとは。」
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