第42話 俺たちの形
保健室に着くなり、保健師の先生がどうしたのかと慌てふためいた。
俺達は適当に誤魔化しながら、促されるままソファに座る。
先生がタライに氷水を作り、タオルを冷やして手渡す。
俺と可奈はそれをとって目に当てる。
瑞稀は口の中が切れていないか確認されてからタオルを頬に当てる。
幸い切れてないという会話を聞きながら俺は安堵する。
しばらくすると先生が職員室へ行くという声が聞こえ、足音とドアが閉まる音が聞こえた瞬間、俺は口を開いた。
「瑞稀、俺、怒り任せにバラしちゃった。ごめん」
そう、落ち着きを取り戻した俺はその事が頭を駆け巡っていた。
このまま俺達三人が教室に戻れば、事情を知る者、そこから詮索して噂する者が待っている。
その事で、瑞稀や加奈までが傷付く事になるのは嫌だった。
ふと昔の事を思い出す。
ずっと瑞稀に守れてきたと思っていた。瑞稀が俺の全てで、ヒーローだった。
だけど、話を聞いてるうちに可奈や純の事も思い出した。
おませな女の子達が本当は嫌だった。
だけど、それ以上に体が弱く体力がない俺は、あの活気な男の子達と遊ぶのはもっと嫌だった。
瑞稀は俺の為に誘ってくれてたけど、俺は瑞稀さえいればいいと思ってたし、鈍臭い俺を誘った事で、結果が見えてる先で瑞稀が男の子達から責められる事が何より嫌だった。
だから、結局は女の子達と遊ぶしかなかった。
その事で男の子達からは揶揄われたけど・・・。
でも、瑞稀の話を聞いてよく思い出せばそうだったと気付く。
俺の隣にはいつも可奈がいて、強引な女の子から守ってくれてた。
その輪から少し離れた所に、たまに純がいた事も思い出す。
可奈が庇いきれなくて困っている時は、純が俺達を連れ出してくれていた。
きっとそれは、妹を助けるついでに俺もという行動だったのだろうけど、確かにあの2人に守られていた。
今は俺は守ってやれる立場だ。瑞稀が大事にしてる親友達、少し・・いや、かなり面倒だけど俺も少なからず大事にしている2人を、守り返してやりたい。
そう思いながら沈黙の中、俺はひたすら瑞樹の返事を待った。
すると、何故か可奈が先に口を開く。
「大丈夫よ。私が守ってあげる。お兄ちゃん達を見てきたからこそ、守れる」
その言葉に、俺はタオルを取って可奈へと視線を向ける。
目の端には同じように驚いた表情で可奈へ視線を向ける瑞稀がいた。
「お前・・・知っているのか?」
俺は恐る恐る尋ねると、可奈はゆっくりとタオルを取りながら俺達へと視線を向ける。
「お兄ちゃんは家族に昔から好きな人がいて、その相手が男だとしか言ってない。事情があって離れてたけど、今度は一緒に添い遂げたから進学したら一緒に暮らしたいってね。でも、両親が忙しくてずっと2人でやってきたのよ。お兄ちゃんの変化くらいわかる」
可奈は手元のタオルを見つめながら話を続ける。
「実を言うとね、何度か彼を家に連れて来てたの。だから、付き合っているのは知ってた。その後、別れた事も。でも、なんで別れたのかは知らなかった。ただ、お兄ちゃんが凄い荒れてて未練タラタラだったのは知ってる。その後、噂で聞いたの。相手の男の子がいじめれてるって・・・本当はお兄ちゃんに言うべきだったんだけど、その頃にはやっと落ち着いてきてて・・・だから、言えずにいたの」
後悔してると言葉を足した後、可奈は口を閉ざした。
「・・・純にはその事を話したのか?」
そう瑞稀が問いかけると、可奈は小さく頷いた。
「正月に話があった後、正直に話して謝ったの。最初は少し怒ってたけど、一番近くにいた自分が気付けなかった自分が悪いって許してくれた。でも、その後、彼がどうなったのか聞いて、とても後悔した。だから、今度は私は全力でお兄ちゃん達を支えるつもり。もちろん、みっくん達の事も・・・大事な2人を失いたく無いから・・・」
言葉尻に声が小さくなる可奈に、瑞稀がそばに行き、寄り添う。
俺も可奈のそばに行き、瑞稀と2人で抱きしめた。
「俺は瑞樹が優先だけど、可奈も純もまとめて守ってやる。だから、俺達のイチャイチャの邪魔はするな」
少し冗談を含めて言ったつもりだったが、瑞稀にしっかりと怒られた。
可奈はそれを見て声を出して笑った。
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