第40話 余韻のあと
あぁ・・・俺は世界一幸せ者だ。
あの日から顔が緩みっぱなしだ。瑞稀に指摘されたが、俺は知らんふりをした。
だって、どうしてもあの日の瑞稀の姿が頭から離れなくて、口元が緩む。
あの日、暴走したから次の約束はまだないが、今はあの記憶だけで十分満足だ。
ニヤニヤしながら、瑞稀の帰りを待っていると携帯が鳴る。
可奈からだ。
「パン買えたか?」
「諒くん!それどころじゃないの!みっくんが女子に連れてかれた!」
「え?」
「あの子達、私に嫌がらせしてた子達よ!みっくんが危ないかも!中庭に行くっぽいから私つけて行く。諒くんも来て!」
可奈は早口でそう言い終えると電話を切った。
俺も胸騒ぎがして、慌てて教室を出る。
「何しているのよっ!」
中庭に着いた途端、可奈の大きな声が聞こえて、その声を辿ってその場所に着くと、可奈が数人の女子と言い合いをしていた。
「可奈、俺は大丈夫だから、後ろに下がってろ」
女子達と可奈の間に瑞稀が割って入り、可奈を自分の後ろに隠す。
そして、その瑞稀の頬が赤くなっているのに気付き、俺は怒りに任せて大声を上げる。
「お前ら、瑞稀に何をした!?」
ズカズカと歩み寄りながら怒る俺に、みんなの視線が集まる。
俺は瑞稀達の前に体を入れると、女子達を睨む。
あまり表立って怒った事がない俺の姿に、すっかり女子達は怯えていた。
「わ、私達は何も・・・」
「嘘よ!諒くん、この子達、みっくんに文句つけただけじゃんくて、みっくんを叩いたのよ!」
後ろから聞こえる言葉に、俺は更に怒りを表す。
「だって・・・諒くん、こいつ男好きだって知ってた?」
「そ、そうよ。諒くんの友達ぶって、本当は諒くんを狙ってたのよ」
「男好きとか、気持ち悪いじゃない」
その言葉に、俺はその女子の胸元の服を掴む。
それを瑞稀と美奈が止めるが、俺はその子を睨みながら低い声で口を開く。
「こんな事をしているお前達の方がよっぽど気持ち悪い。男が男を好きで何が悪い。ただ、人を好きになっただけろ」
俺の言葉に女子達が怯えながらも眉を顰める。
「言いふらしたければ言えよ。瑞稀は俺にとって大事な人だ。俺達の事で第三者に何を言われても痛くも痒くも無いんだよ。二度と瑞稀に近づくな。可奈にもだ。可奈も俺達の大事な親友だ。二度と手を出すな」
「諒・・・・」
「諒くん・・・」
「ご、ごめんなさい」
小さな声で泣きながら謝る女子の服を離すと、その子を連れて他の女子も急いでその場を去っていった。
俺は瑞稀へと体を向けて、赤くなった頬をそっと撫でる。
「可奈・・・ありがとう。お前が教えてくれなかったら、瑞稀もお前も酷い目に遭うところだった」
「ううん。私がもっと早く中に入ってたら、みっくんは叩かれなかったのに・・・みっくんも諒くんもごめんね」
涙声で謝る可奈に、瑞稀が笑って頭をポンポンと叩く。
「俺は大丈夫だ。可奈もあいつらに嫌がらせされてたから、間に入るのが怖かったはずなのに、俺の為にありがとうな。諒も、来てくれて嬉しかった」
そう言って俺に笑顔を向ける。
そんな姿に俺は涙が出た。俺がもう少し気をつけてれば、2人が、瑞稀がこんな目に遭わずに済んだのに、瑞稀の忠告を無視して幸せに浸ってた俺はバカだ。
「なんだよ。諒まで泣くなよ。まったく、2人とも変わんないな。なんか、昔を思い出したよ」
瑞稀は片手で可奈の頭を撫で、もう片方で背が高くなった俺の背中を撫でる。
そうだ・・・昔も俺と可奈が揶揄われて、それを瑞稀が助けてくれて、俺達は2人で瑞稀の前でただただ泣いていた。
そんな俺達を泣き止むまで、瑞稀が笑いながら頭を撫でて慰めてくれた。
そのせいで自分に傷が付いて血が出てても、平気だと笑って慰めてくれた。
今も昔も変わらない光景に、俺は悔しくてしばらく涙が止まらなかった。
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