第37話 想いを重ねて

「いよいよ明日だ・・・・」

俺は目の前のカレンダーを見ながらポツリと呟く。

2月14日、世間ではバレンタインデーで騒がしいが、この日は諒の誕生日だ。

いつもならおばさんと諒を招いて、うちで誕生日を祝う。

今年は2人ですると家族に伝え、諒もおばさんには伝えてある。

諒は俺がカミングアウトした翌日、母親に話した様で良かったねと喜んでくれたと言っていた。

だからか、俺の家族もおばさんも2人で誕生日をやる事に、すんなり了承を得た。

明日は学校から帰ってきて、夕飯は外で食事をして、その後・・・・。

妄想に顔を赤らめ、俺はベットにダイブする。枕を抱き寄せて、声が漏れないように叫ぶ。

日が近づくにつれて平常心でいられない。

2人でいる時はぎこちなくなる。

諒もわかっているのか、互いにぎこちない。

でも、俺は諒と触れ合いたい。

この気持ちはあの日からより一層強くなった。

俺はベットの下に隠してあった袋を取り出すと、その中身を見つめる。

男同士の仕方をずっと調べていた。

これは、そのために必要なものだ。

一つ一つ取り出しながら、手順を確認していく。一度家に帰るから、風呂に入る前にコレを、風呂に入ってコレを・・・そう考えながら、顔の火照りを耐えていた。



「待たせてごめんっ」

慌ただしく階段を降りてリビングに入ると、母と可奈とで談笑していた諒が振り返る。

「待ってないよ。見て、おばさんと可奈からプレゼントもらった」

そう言いながら嬉しそうに包みを俺に見せる。

良かったなと返しながら、そろそろ行こうと諒を誘い出す。

「今日は諒の家に泊まるから」

「真奈美さんに迷惑かけちゃダメよ」

母の言葉にわかってるとぶっきらぼうに答える。真奈美さんと言うのは諒の母親だ。

いそいそと玄関を出た後、諒がそっと手に触れる。

俺は辺りをキョロキョロした後、諒の手を取る。

一瞬びっくりした顔をしていたが、すぐに嬉しそうに満面の笑みを浮かべて俺の手を握り返した。

「瑞稀、本当に俺の家でいいの?」

「・・・仕方ないだろ」

「うん・・・でも、運よく母さんに仕事が入って良かった」

嬉しそうに話す諒に、俺も照れながらそうだなと返した。

本当はどこかホテルにでもと計画を立てていたが、さすがバレンタインデー。

どこもホテルは予約が満杯だった。

それもそのはず。あとでネット記事を見てわかったのだが、世の恋人達はこの日の為に数ヶ月前から予約をするらしい。

先月決めた俺達に、予約を取ることは不可能だった。

だけど、おばさんが気を利かせてくれたのか、今日は仕事を入れていたのだ。

その事に安堵と感謝はしたが、これからの事を思うと罪悪感と恥ずかしさでいっぱいだった。


どこも混んでいるからと、諒は駅前のラーメン屋を選んだ。

流石に今日、カップルでラーメン屋に来る人はおらず、すんなり入れたが店内は男だらけでいっぱいだった。

気のせいか、その姿には哀愁すら感じる。

カウンターに座り諒の好きな塩ラーメンを食べ、帰り道でケーキを買う。

最初は楽しく会話していたのも、家が近づくにつれて互いに黙り込む。

心なしか諒の足取りが早く、いつの間にか繋がれていた手を引くように歩く。

その事に俺は恥ずかしくて俯いてしまう。

家に着いてドアが閉まるなり、諒がキスをしてくる。

余裕のない激しいキス・・・。

しばらく身を任せていると、諒の手が服を弄り、中に入ってくる。

その甘美な雰囲気にうっとりしていると、手に持っていたケーキの箱を落としそうになり、我にかえる。

「ちょ、ちょっと待て」

慌てて諒を引き剥がす俺に、なんで?という残念そうな表情で見つめてくる。

「ケ、ケーキ食べよう。それに、プレゼントも渡したい」

「・・・・あとじゃ、ダメ?」

身を屈め、俺の顔を覗き込む。いつものおねだり顔だ。

その顔につい許したくなるのをグッと堪える。

「時間はまだまだあるんだから、まずは一緒に祝おう」

俺の言葉にしゅんとしながらわかったと答え、俺の手を引いて家の中へと入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る