第36話 乗り越える時

彰良さんが落ち着くのを待って、そのまま解散となった。

純はこのまま今日は漫画喫茶に泊まるから、俺達は先に帰るように伝えると2人で歩いて行った。

その後ろ姿を見送った後、瑞稀へと視線を向けると悔しそうに涙を溢していた。

「瑞稀、大丈夫か?頭は痛くないか?」

俺の言葉に小さく頷きながら、瑞稀は俺の服の裾を掴んだ。

「どこかで少し休もう。駅前に漫画喫茶あったな。純はしばらく彰良さんについてるだろうし、そこなら個室だから人目も気にならない」

瑞稀はまた小さく頷き、俺の服を掴んだまま足を動かした。


「悔しい・・」

個室に入るなり、瑞稀はボロボロと泣き出した。俺は瑞稀を抱きしめながら、背中を摩ってやる。

「そんなにいけない事なのか?俺達は間違っているのか?」

「違うよ、瑞稀。あいつらがイカれているんだ」

「言葉の暴力の方が根深く残るのに、あいつら、ニヤニヤ笑いながらあんな言葉・・・」

言葉を詰まらせる瑞稀の頭に俺はキスをする。

その後も泣き続けた瑞稀は、少しは落ち着いたのか、喉が渇いたと呟く。

その言葉に俺は安堵して、取ってくると言い残し、部屋を出る。

それでも心配で、早々とドリンクコーナーで飲み物を入れ、コップを両手に部屋に戻ると、膝を抱えて座る瑞稀の姿が目に入る。

俺は持っていたコップを一つ瑞稀に渡すと、自分のコップに口を付ける。

「瑞稀、できれば危険な事はしないで・・・。彰良さんを守る為に仕方なかったのはわかる。でも、そんな時はグッと耐えてすぐに俺を呼べ」

「・・・・」

「瑞稀の正義感が強い所は好きだよ。俺も昔はよく助けてもらった。でも、今の俺は体も大きくなったし、瑞稀を守れる男になったつもりだ。だから、1人で立ち向かおうとするな。俺がいる事を忘れるな」

「ごめん・・・」

「誤って欲しいわけじゃない。俺だって、きっとあの場にいたら同じ事をしてた。だけど、瑞稀が髪を掴まれてるのを見て心臓が止まるかと思った。それにムカつき過ぎて腑が煮えくりかえるかと思った」

「・・・・俺も逆だったら、そう思う」

「ふふっ、瑞稀ならすぐに相手に飛び掛かってるんだろうな」

俺は昔の瑞稀の姿を思い出し、声を出して笑う。

瑞稀もそうだなと微笑む。それから、とんでもない事を口走った。

「諒、俺、お前の誕生日にしたいっ」

「・・・・何を?」

「わかるだろっ!」

真っ赤な顔で怒る瑞稀に、俺は開いた口が塞がらず、ただただ瑞稀を見つめた。

「その・・・もう心は決めてたんだ。でも、不安とか怖いとかが引っかかって勇気が出なかった。だから、彰良さんと話したかったんだ」

赤い顔のまま瑞稀は俯いたまま話を続けるが、俺の頭は理解が追いついていかない。

「俺、諒と先に進みたい。彰良さんが言ってたんだ。それだけが愛情表現じゃ無いけど、繋がりが深くなるし、幸せな気持ちになれるって。俺、諒と深く繋がりたい。幸せな気持ちを2人で感じたいんだ」

そう言われて、俺の頭がやっと理解していく。

そして理解していくにつれて、瑞稀の言葉が嬉しくて、瑞稀を抱きしめた。

「本当にいいのか?」

「いい。だから、誕生日は2人で過ごしたい」

「めちゃくちゃ嬉しい・・・」

「俺、色々準備するから・・・・その・・・俺を抱いてくれるか?」

そのセリフに俺は興奮して頭に血が上る。

「・・・何で何も言わないんだ?・・・ん?なぁ、肩に何か・・・うわぁ!おま、お前・・・血っ!」

そう、俺は興奮しすぎてまた鼻血を出していた。

慌てた瑞稀に介抱されながら、俺は自分の不甲斐なさを恨む。

額に濡れたタオルを置きながら瑞稀が笑う。

「この調子だと無理かもな」

瑞稀のその言葉に、俺は全力で大丈夫っ!と返す。

そして、胸の中で妄想訓練をしようと誓った。

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