第35話 乗り越える時

デパートに入って少し買い物をした後、フードコーナーで休憩する事になって、純と諒が飲み物を買いに行ってくれた。

2人残された俺は今しかないと重い口を開く。

「あの・・・彰良さん、あの、変な事聞いていいかな?」

「何?」

「あの・・・その・・・俺と諒の事は聞いてるよね?」

「・・・付き合っている事?」

「そう・・・それで、あの、俺、先に進みたいと悩んでるんだけど、色々怖いし、不安で・・・・」

どうしても小さな声になってしまう俺の話を彰良さんはちゃんと聞き取って察してくれる。そして、ゆっくり口を開く。

「怖いよね・・・僕もそうだった。僕も初めてだったけど、先輩は今まで女の子と付き合っていたから、とても不安だった。でも、もっと触れ合いたい、先に進みたいと思うのは変じゃない。とても自然な事だよ。それだけが愛情表現では無いけど、幸せな気持ちになれるし、安心感もくれる。繋がりも深くなる。僕も幸せだった。でも・・・僕の場合は環境が良くなかった。高校が別になって離れた事で、互いに今までみたいに会う時間が少なくなって、そのせいで、2人でいる時に先輩に心配させたく無いって1人で我慢するようになって、結局、ダメになった。凄い後悔してる」

悲しそうな表情で話をしてくれる彰良さんに何だか申し訳なくなって、小さくごめんなさいと呟いた。

でも、彰良さんは大丈夫だよと微笑み返してくれた。

「怖さは拭えないけど、でも、それ以上に幸せな事だとだけ覚えていて。触れ合いたいって気持ちを大事にしてあげてね」

そう言いながら笑う彰良さんの笑顔が眩しくて、俺も釣られて笑う。

その時、背後から彰良さんの名前を呼ぶ声が聞こえて、一瞬体をビクッとさせた彰良さんの顔が曇り、俯く。

俺はその声の方に顔を向けると、同じ年頃の男達が三人ほどニヤニヤした顔で近寄ってくる。


「お前、学校やめたんだって?」

その言葉に俺はすぐさま彰良さんを虐めた奴らだと察して、男達を睨む。

「なんだよ、このチビ?あっ、お前の彼氏か?」

「あなたに関係無いですよね?」

俺はすぐさま立ち上がり、彰良さんを隠すように立つ。

「生意気なチビだな・・・お前、学校辞めて男とイチャイチャか?いい身分だな?さすが男好き」

そう言葉を投げつけ、男達は笑い合う。俺は、手を伸ばし胸元を掴む。

「あんた達のその無神経な言葉に、彰良さんがどれ程傷付いたのかわからないのか?」

「まじ、ウゼェ」

「お前達の方がまじ、ウザい。クソだ」

「なんだと?この野郎・・・」

男が俺の髪を鷲掴みにする。後ろで彰良さんが小さな声でやめてと繰り返すが、俺はその場を退かずに相手を睨み続けた。


「その手を離せっ」

その声に視線を向けると、怒りに震える諒の姿が見えた。

持っていたトレーを側のテーブルに置くと、ズカズカと歩いてきて男と同じようにそいつの髪を鷲掴みにする。

「離せ」

低い声で脅す諒に男は怯み、俺の髪から手を離す。その瞬間、諒は俺を庇うように間に入る。そして、いつの間にか諒の隣に来ていた純も男達を睨む。

背の高い2人が凄む姿に、完全に男達はびびっていた。

「こ、こいつから掴んできたんだっ!」

「お前達が彰良さんを侮辱するからだ!この、クソ野郎!」

飛び掛かろうとする俺を、震えた手で彰良さんが止める。

「純!こいつらだ!」

その言葉だけで純が察したのか、前にいた男の胸ぐらを掴む。

「な、なんだよ?友達を少し揶揄っただけじゃないか。な、彰良?」

「彰良なんて呼ぶな。お前らに呼ぶ資格はない」

「・・・・じゃない」

震える小さな声に俺達は振り返る。彰良さんは目に涙を溜めて男達を睨んでいた。

「お前達なんか友達なんかじゃない!僕はもうお前達なんか怖くない!」

その声に周りに人が寄ってきてざわめき始める。

「純、離してやれ。こんな奴ら殴る価値もない」

「そうだぞ、純。こいつらは因果応報で必ず報いを受けるんだ。ほっとけ」

俺達の言葉に純はため息を吐いて手を離す。

そして、低い声で言葉を発した。

「金輪際、彰良に近づくな。その時は命がないと思え」

その声に男達は一目散に去っていった。

その事に安堵したのか、彰良さんが嗚咽を漏らしながら涙を流す。

純は隣に腰を下ろし、彰良さんを抱きしめた。

頑張ったなと小さく囁きながら・・・。

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