第32話 それぞれのクリスマス・・・side可奈

「今日はベットで一緒に寝よう」

ベットの側にあった布団を掴んだ可奈に美奈が声をかける。

「狭いかもしれないけど、今日は寒いし、久しぶりに一緒に寝よう」

そう言ってニカっと美奈は笑い、置いてあった枕をベットに並べる。

可奈は小さく頷いて布団に入る。

美奈はリモコンで電気を小さくすると、可奈の隣に潜り込む。

「明日も時間あるんでしょ?映画でも見に行かない?」

「そうね。何かやってたっけ?」

可奈はそう言いながら携帯で映画情報を調べ始める。

「この時期はベタな恋愛物か、子供向けのアニメよね?」

「そうみたい。1人もん同士には厳しいわね」

可奈はそう言って笑う。その笑顔を見て美奈もそうねと笑う。

「映画はやめて、買い物かカラオケでも行く?」

「そうね、可奈が楽しい方でいいよ」

「何、それ?」

クスクスと笑う可奈に、美奈は良かったと呟く。

可奈は不思議そうに何が?と尋ねると、苦笑いしながら答える。

「まだ、笑えてる」

「・・・・・」

「偉いぞ、可奈。頑張ったね」

美奈はそう言って可奈の頭を撫でる。すると、堰を切ったように可奈が声を潜めながら泣き始める。

「本当に好きだったのよ?小さい時からずっとずっとみっくんが好きだった。いつか会えると信じて誰とも付き合わなかった。やっと、側に来れたと思ったのに・・・」

「そうだね。昔の可奈は本当にお兄ちゃんにぞっこんだったものね。その一途さは純くんと一緒だ」

そう言って笑う美奈に、一緒にしないで!と可奈は怒る。

「お兄ちゃんは、高学年に上がる頃には既にモテモテだったのよ?それに鼻かけてあの子と付き合うまで、彼女がふたりもいたのよ!?どちらとも長続きしなかったけど・・・・ねぇ、美奈、お兄ちゃんはうまくいったかな?せめて、お兄ちゃんだけでもうまく行ってほしい。クリスマスに兄妹で振られたってなったら最悪よ」

鼻を啜りながら可奈はブツブツと言い始める。美奈は体を起こして、側にあったティッシュを取ると可奈と手渡す。

「ごめんね。お兄ちゃんの事、気付いた時点で話せば良かった」

「いいのよ・・・再会した時、諒くんの態度見て、相変わらずみっくんが好きなだってわかってた。でもね、少しくらいはチャンスがあると思ってたのよ?みっくんは変わらず優しいし、変なやつに絡まれてる時、昔みたいに守ってくれた。

本当に昔みたいに接してくれるから、少しだけ期待しちゃったの」

「そうね・・・お兄ちゃんの悪い所だ。天然人たらし」

「ふふっ、本当、人たらしだわ」

「でも、お兄ちゃんが諒くんを好きだなんて知らなかったわ。諒くんは昔から一ミリも変わらずあの調子だったけど、身長が逆転してもお兄ちゃんはずっと弟分みたいに接してたから・・・逆に逆転したから魅力的に見えたのかしら?」

「きっとそうよ。学校の友達も2人を知ってる子は、皆、諒くんは背が伸び始めてからモテ始めたって言ってた。あれかな?太陽が近づいた分、無駄にキラキラ見えるのかしら?」

可奈の真剣な返事に、美奈は声を出して笑う。

「本当よ?太陽効果を舐めちゃいけないわ。お兄ちゃんだって、背がぐんと伸びてから無駄にキラキラし始めたもの」

「太陽効果って・・・」

お腹を抱えて笑う美奈に釣られて、可奈も吹き出して笑う。

「ねぇ、美奈ちゃん。久しぶりに美奈可奈コンビができたのよ。来年は彼氏でも作ってクリスマスはダブルデートでもしよっか?」

「ダメよ。私は来年受験だもの。恋人より高校よ」

「そうかぁ・・・でも、たまには私とも遊んでくれる?」

「はいはい・・・もう、寝よ。早めに起きて準備して、憂さ晴らしに行こう」

美奈はそう言ってまた布団に潜り込む。可奈は小さくありがとうと呟いて目を閉じた。



「最悪・・・・」

可奈は目の前にいる2人に向かって、悪態をつく。

お昼にと入ったフード店でばったり鉢合わせしたのだ。

「お兄ちゃん達、何してるのよ?」

「美奈・・・いや、あの・・・」

両手にトレイを持ちながら、顔を赤らめてアタフタしている瑞稀を他所に、諒が瑞稀に抱きついて2人を睨む。

「いいだろ?なんだかんだで、予定してたイブにデート出来なかったから、デートのやり直ししてるんだ。邪魔するなよ?」

「したくないわよ・・・」

呆れた声で返す可奈。そこに、冷たい声で美奈が口を挟む。

「このテーブルは私達が見つけたの。邪魔なのはそっちだから、どっかに行って」

「いや、美奈。せっかくだから一緒に座ろう。席が満杯なんだ」

瑞稀の返しに、諒と可奈が嫌そうに瑞稀を見つめる。

「仕方ないわね・・・可奈、座りましょう。こんなのに時間取られるのは勿体無いわ」

「そうね・・・じゃあ、私はみっくんの隣!」

そう言って瑞稀の腕を掴むと、諒がすかさず剥がそうと可奈の頭を捕まえる。

それを瑞稀が女の子に乱暴するなと諒を叱咤する。

結局、瑞稀が真ん中に座り、狭そうに肩を寄せて食事をする羽目になった。

その光景を懐かしむように美奈が見つめて微笑んだ。

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