第31話 それぞれのクリスマス・・・side純
「彰良、寒いだろ?これ、着ろよ」
純は着ていたジャケットを脱いで、ベットに座る彰良にかけてやる。
彰良は微笑んで、肩にかけられたジャケットを手で摩る。
「先輩、もうすぐ受験でしょ?もうここに来なくてもいいよ。僕はもう大丈夫だから、受験頑張って」
少し悲しそうな微笑みを向ける彰良に、純は優しく微笑み返す。
「俺が彰良に会いたいんだ。会えないと、勉強頑張れない」
「ふふっ、何を言ってるんだか・・・」
小さく笑う彰良に本音だと純は呟く。
「母さんから聞いたよ。僕達の事、話したんだって?」
「あ・・・勝手にごめん。この前来た時に俺達の関係を聞かれたんだ。多分、お母さん、学校の事があったから警戒してたんだと思う。凄い心配してた」
「そう・・・今回の事で両親にはバレちゃったから、それで先輩に聞いたんだと思う。お母さんは僕は何も悪くないって抱きしめてくれたけど、お父さんとはずっと会ってない」
「そうか・・・。なぁ、彰良。まだ、俺を許せないか?」
純の問いに彰良は困ったように微笑む。
「言ったでしょ?先輩に対して怒っていないって・・・ただ、僕が弱くて、それで先輩を信じきれなくて一方的に別れたんだ。先輩は悪くない」
「でも・・・俺がもっと慎重になってれば、もっとお前の気持ちに寄り添ってやれれば、彰良がここまで追い詰められる事も傷つく事もなかったんだ」
「そんな事ない。僕がもっと信用して話していれば良かったんだ。きっと先輩なら僕を一番に想ってくれたはずなのに、僕は怖くなったんだ。僕が傷つく事も、先輩が傷付く事も怖かった。先が見えなくなったんだ」
彰良は大丈夫だと言うかのように、純の手を取り、優しく撫でる。
「もう僕は大丈夫だよ。ずっと誰にも言えなくて苦しかったけど、母さんが僕を抱きしめてくれた。それに、先輩もこうして会いに来てくれた。それだけで十分だよ。僕は1人じゃないってわかったから・・・」
そう呟く彰良の表情がとても悲しそうに見えて、純は胸を締め付けられる。
そして、彰良を抱きしめた。
「彰良、俺、今でも彰良が好きだ。大好きだ。許されるなら、俺はまた彰良の隣にいたい」
彰良は黙ったまま純の腕の中に身を預ける。
「彰良、本当は急かしたくないし、受験が終わってから話すつもりだったんだけど、俺が大学受かったら一緒に暮らさないか?」
「え・・・?」
「高校中退する事、お母さんから聞いた。俺は大学進学後は1人暮らしが決まってる。出張が多い親についていけないからな。だから、俺と一緒に暮らさないか?」
「でも・・・」
「俺と一緒に暮らしながら、通信学校に通えばいい。それで、高卒認定を貰えばいい。その先の事はゆっくり決めていくんだ」
「でも・・・」
「俺が彰良を支える。だから、彰良は俺の隣で笑いながら俺を愛してくれないか?」
黙り込む彰良から体を剥がし、純は鞄からハンカチに包まれた何かを取り出す。
それを彰良の手のひらに乗せると、それを見た彰良は目を大きく開く。
「これ・・・」
「覚えてくれてたか?」
「だって・・・これ・・・」
「そうだ、俺達の一年記念に俺が彰良にプレゼントしたお揃いのリングだ。お前が別れるって俺に押し付けたリング、どうしても捨てられなくて今まで持ってたんだ。もう一度、これをプレゼントしたい。受け取ってくれるか?」
彰良は目に涙を浮かべて、何も言わず純を見つめた。
純は手の平にある小さなリングを取ると、彰良の指に通す。以前はピッタリだったそのリングは、少しスカスカで彰良の指が細くなった事を、体そのものが細くなった事を実感する。しばらく、その指を摩ったあと、大きめのリングを彰良にぎゅっと握らせる。
「受験が終わるまで来れないかもしれないけど、毎日連絡するし、終わったら必ず会いにくる。その時に返事をくれるか?もし、受け入れてくれるなら俺にこれを付けてくれ」
純はそう言って、涙を溢す彰良をまた抱きしめた。
「必ず受かって見せるから、俺と一緒に生きよう。今度はずっと離れない。何があっても彰良から離れない。ずっと彰良だけを信じて、愛していく。だから、彰良も俺の気持ちを信じてくれ」
腕の中で静かに涙する彰良は小さく頷く。その仕草を感じて、純はぎゅっと強く抱きしめ返した。
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