第30話 それぞれのクリスマス

人間って衝撃的な事があると言葉が出ないって本当なんだなと実感する。

目の前で瑞稀が発する言葉も行動も、頭が付いていかない。

いや、嬉しいよ?

そこまで思ってくれてるのは凄い嬉しい。

でも、俺に相談なしに今?このタイミングで?どういう事?

パニックすぎて体が動かない。


「知ってたわよ」

静まり返った雰囲気の中、一番に口を開いたのは瑞稀の母だった。

「そうね。少なくとも私と母さんは知っていたわ」

美奈が続けて口を開く。その言葉に瑞稀は慌てて顔を上げる。

俺も釣られて視線をそこに向けた。

「だって、ここ最近の2人の雰囲気が何て言うのかしら?何か、こう、甘ったるいのよね」

瑞稀母が頬に手を当てながら、呟く。

「そうそう。前は一方的に諒くんが、お兄ちゃん好き好きって金魚のフンみたいに追いかけ回してたのに、急に2人ともベタベタし始めたんだもん。まぁ・・お兄ちゃんも昔からってのには驚いたけど・・・」

「と、父さんは、知らなかったぞ・・・」

1人だけアタフタする瑞稀父。その隣で可奈が盛大にため息を吐く。

「あーあ。諒くんの片想いかと思ってたから、ワンチャンあるかと思ったのに、これで完璧に振られたわね。みっくんも好きなら諦めるしかないわ」

可奈の聞き捨てならないセリフに、俺はつい可奈を睨みつける。

「あーやだやだ。昔から可奈ばっかり睨みつけるんだから・・・みっくん、本当にこんなヤキモチ焼きでいいの?」

「あ、あぁ。もちろんだ。それに、そんなにヤキモチ焼きではないぞ?」

瑞稀の返しに俺は嬉しくなって瑞稀へ視線向けると、可奈と美奈が同時にうわぁと声を漏らす。

「お兄ちゃん、言っとくけど諒くんの愛はかなり重いわよ」

「そうそう。みっくんの前だけ猫かぶってるんだから」

俺はそんな2人を睨みつけるが、瑞稀のそうなのか?という問いに、俺は慌てて首を大袈裟に振る。

「ち、ちょっと待ってくれないか?父さんは何が何だか・・・」

取り残された瑞稀父が、遅れて会話に入る。

その声に、また瑞樹が真面目な顔をして自分の父親に視線を向ける。

「父さん、俺、諒が好きなんだ。これから先もずっと一緒にいたいと思っている」

「そ、それは友達として・・・幼馴染としてじゃないのか?」

その問いかけに、今度は俺の番だと瑞稀より先に口を開く。

「瑞稀のお父さん、俺達、本気なんです。本当はもっと違う形で話す予定だったんですが、瑞稀がちょっと・・・」

「出た・・・瑞稀の謎の暴走・・・諒くん、ごめんなさいね」

瑞稀母が申し訳なさそうに俺に謝ってくる。

隣では少し不貞腐れた瑞稀がいて、俺はそっと手を握る。

「実はここ最近色々あって、俺達悩んでたんです。でも、純が俺達の背中を押してくれたというか・・・純の頑張ってる姿に感化されたというか・・・でも、そのおかげで色々互いに決心が付いたんです。多分、瑞稀はその事もあって、さっきの可奈の話もあって、俺の、俺達の為に話そうと思ってくれたんだと思います。

俺の母には昔から瑞稀と一緒になりたいと言っていたので、付き合う事も了承もらっているのですが・・・瑞稀のお父さん、お母さん、改めて俺達の交際を許してくれませんか?俺は生涯をかけて瑞稀を幸せにすると誓います。ですから、瑞稀を俺に下さい」

俺はそう言い切ると、深々と頭を下げる。

瑞稀も釣られてか、頭を下げているのが目の端に映る。


「認めるも何も・・・諒くんが瑞稀の事を大事にしてくれてるのは昔から知ってるし、それを瑞稀が受け入れて、2人で納得しているならそれでいいんじゃない?」

優しい声で瑞稀母が答えると、俺達は頭を上げる。

「まぁ、これから先は2人で頑張らないといけないから、そこは瑞稀も1人暴走するんじゃなくて、ちゃんと諒くんと相談し合うのよ。それでも、大人の力が必要な時はいつでも私達を頼りなさい。きっと、諒くんのお母さんもそう願ってるわ」

にこりと微笑む瑞稀母の言葉に、俺は目頭が熱くなる。

「よ、嫁にはやらんぞ?婿になら・・・」

「やだ、お父さん。何、そのセリフ?」

「いや、だってさっきの話だと、瑞稀を嫁にくれって言ってるようなもんだろ?」

「お父さん、嫁に行くのは私よ」

「おじさん、その調子だと美奈ちゃんが嫁に行く時大変よ?」

「美奈にはまだ早いっ!」

急に声を荒げる瑞稀父の言葉にみんなが笑う。隣にいる瑞稀も笑う。

その光景が本当に嬉しくて、俺はいつの間にか泣いてしまった。

そんな俺をみんなが心配してくれる。

俺にも母親がいて家族はいたけど、心配してくれる人がこんなにもいて、新しい家族が、大切な人達が増えた事が心底嬉しかった。

しばらく涙が止まらないくらい、俺は幸せだった。

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