第28話 乗り越える勇気

回復に1週間もかかった・・・。

瑞稀からは疲れるだろうからと朝と夜にしか連絡がなく、それも短い会話だけで、ずっと会えない事に不安が募っていった。

幸い今日は土曜だ。

昨夜、瑞稀に会いたいメールを何度も送ったおかげか、ぶり返すのは避けたいから部屋まで来てくれる事になった。朝からドキドキが止まらない。

いくら風邪を引いたからといって、こんなに連絡がないのは初めてだ。

それに瑞稀の性格からして、看病に来てくれるのだと思っていたが、それも一切なかった。

俺が弱気になって愚痴ってしまったからかと不安でたまらない。

ソワソワしながら待っているとチャイムが鳴った。

俺は恐る恐る玄関を開ける。そして、瑞稀の一言に目が点になる。

「悪い。今から出かける準備をしてくれないか?」

「え・・・?」

「純から急に連絡があって待ち合わせしているんだ。少し遠出になるから服は沢山着てくれ」

訳がわからないまま俺は瑞稀に促される様に支度を始めた。


純と合流した後、電車に揺られ、乗り継いで、バスに乗って3時間・・・。

何故か、とある病室前にいた。

「やばい・・・緊張で震えが止まらない」

「大丈夫だ。向こうから会いたいと連絡くれたんだ。ちゃんと話してこい。いいか、もう後悔はするな」

目の前で瑞稀に手を握られ青白い顔の純が何度も頷いている。一体、何を見せられているんだ・・・?頭の中ではたくさんのハテナマークが飛び交う。

意を決した純が中に入るのを見届けた瑞稀は、俺達も話しようと病院の外へと歩き出す。俺の頭の中はまさにパニック状態だ。

芝生の前のベンチに腰掛けても尚、だんまりな瑞稀に痺れを切らし、ポツリと呟く。

「瑞稀・・・俺は今、頭がパニックだ」

そんな呟きに瑞稀が苦笑いして、ごめんと謝ってきた。それが何のごめんなのかわからず、変な汗が出始める。

「見舞いとかいけなくてごめん。ゆっくり休んで欲しかったのもあるけど、俺も色々考えちゃって・・・それに、純の事もあったから・・・」

そう言葉をかけた瑞稀は、その後も言葉を続ける。

俺が寝込んでいる間、純に俺達の事を話した事、その時、純から元カレの話を聞いた事、今日会いに来たのはその彼からやっと連絡きたが、1人ではいけないと言われて心配で着いてきた事、それから・・・と言葉を繋ぐ。

「勝手に俺達の事を話してごめん」

「それは・・・俺は嬉しかったから大丈夫」

「俺、純の話聞いて周りの目がこんなにも人を追い詰めるのかと思った。それで、俺はどこまで諒を守れるのか悩んでしまった」

「瑞稀・・・」

「でも、考えてもわからなかった。だから、諒。これからは我慢せずに何でも話してくれないか?俺は諒の事、誰よりもわかってるつもりだ。だから、諒が何か悩んでいる事にも気付ける。でも、言葉にしてくれないと中身まではわからない。たださえ、この身長の差が気付きにくくしている。だから、昔みたいに何に傷付いたのかがわからない。お願いだから、ちゃんと話してくれるか?」

心配そうに俺を見上げる瑞稀。その表情が愛おしくて頬を撫でる。瑞稀は真っ直ぐに俺を見つめ、また口を開く。

「俺はこの先もずっと諒といたい。諒の気持ちが離れてしまえば諦めるしか無いけど、そうでないなら諦めたくない。こんなに好きなのに、他の人の目や言葉で別れたくない。俺はもう怖がらない」

瑞稀の力強い言葉に胸が熱くなって、瑞稀を抱き寄せる。

こんなに想ってくれるのに、俺はなんで不安になってたんだろう。

瑞稀はちゃんと俺に気持ちを向けてくれてて、俺の事を一生懸命考えてくれて、俺との未来を見てくれてる。

それがこんなにも幸せな気持ちにさせてくれる。

「瑞稀、俺も大好きだ。この気持ちは昔も今も、この先もずっと変わらない。俺もずっと瑞稀といたい。別れたくない」

「あぁ。ずっと一緒にいよう。一つずつ一緒に悩んで、一緒に前に進もう」

瑞稀は優しく俺の背中を摩ってそう答えた。俺はなんだか泣きたくなって、その温もりを感じながらグッと涙を堪えた。


一時間くらい経った頃、純からメールが来て病室に来て欲しいと言われ向かう。

そこで彼を紹介された。

少し痩せ細ってはいたが、可愛らしい顔で微笑んでくれてた。

帰り道、純がありがとうと呟く。

元に戻るのかはわからないが、これからゆっくり話していくらしい。

互いに話合えなかったことをこれから一つずつ話して、純はできればもう一度付き合いたいと言っていた。

でも、彼にまだ好きだと伝えたが、彼は何も言わず微笑んでいたそうだ。

瑞稀は純の背中を摩りながら、ゆっくり話していけばいいと声をかけた。

「あそこまで追い詰められたんだ。その傷を癒す事から始めればいい。きっと純の想いは伝わるよ。受験もあって大変だと思うけど、頑張れるよな?」

「あぁ。今度は後悔しない。やれる事はやるつもりだ。それでダメなら今度はきっとキッパリ諦め切れる。今の所、食い下がるつもりはないけどな」

そう言って微笑んだ純を見て、俺も後悔はしないように瑞稀と寄り添おうと誓った。

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