第27話 乗り越える勇気

諒が帰ってから俺はすぐさま純へと連絡を取る。

(少しでいいから会えないか?)

その返事は遅くに返ってきたが、俺は居ても立ってもいられなくなり、すでに純の家の近くまで向かい、待ち伏せをしていた。

返事があってから30分後に純が現れる。重々しい雰囲気を出しているのか純が何かを察したように近くの公園に行こうと声をかける。

沈黙のまま公園に向かうと、懐かしいなと純が呟きブランコへと腰を下ろす。

俺も隣にあるブランコへと腰を下ろすと、重い口を開いた。

「純、驚くかもしれないけど、俺・・俺と諒付き合っているんだ」

「・・・・そうか」

「だから、あまり諒を揶揄わないで欲しい」

「揶揄うねぇ・・・」

純はそう呟きながらゆっくりとブランコを漕ぎ始めた。しばらく沈黙が続いた後、足を止めた純が口を開く。

「少なくても俺は本気だったよ?」

「本気って・・・?」

「本気で瑞稀の事、好きになりかけてた」

「え・・・?」

突然の純の告白に、俺はポカンと口を開いたまま純を見つめた。そんな俺を純はふふッと笑い、気付かなかったか?と聞いてきた。

「だって、純、いつも揶揄ってたし、もし好きだとしても諒の方だと・・・」

「んー・・・諒も好きだよ。でも、あいつは昔も今も瑞稀一筋だ。俺のはいる隙間はない。その点、瑞稀は外見はドストライク。その上、性格もいい。実を言うとさ、昔は少し瑞稀に嫉妬してたのもあるけど、憧れてもいたんだ」

「え?」

「俺は・・・なんて言うか、いい子ちゃんでいなくちゃいけなくて、忙しい両親に変わって妹の面倒も見なくちゃで、やりたい事も言いたい事も我慢ばかりだった。唯一、言えた事は諒が可愛くて大好きだという事だけ。それ以外は、親にもわがまますら言った事ない」

純はそう言いながら、今もだけどねと笑った。

「その点、瑞稀は物事をはっきり言える。良いものはいい、ダメな物はダメ。それもわがままではなくて、ちゃんと自分の意思を持った言葉だ。行動だって伴ってる。それに加え、誰にでも優しかった。俺は自分の事と妹の事で精一杯で、他の人に優しく出来ないでいたからね」

純は自分に呆れたような顔で話を続ける。

「そんな瑞稀が羨ましくて憧れだった。本当に強い男って瑞稀みたいな人なんだろうなって・・・それが、今も変わずに昔と同じ姿で俺達に接してくれるって事が嬉しかった。そこにドンピシャな姿だと、惚れるなってのが無理だろ?」

そう言いながら微笑む純は、どこか寂しそうだった。

「でも、早めに言ってくれて良かった。本気で惚れる前で良かったよ」

「純・・・何かあったのか?」

そう問いかけると、純は悲しそうに微笑んだ。

「バレたか・・・実はな、前に話した付き合ってた後輩がいたろ?」

「あぁ・・・」

「同じ高校に入った別の後輩から連絡来て・・・そいつ、自殺未遂したらしいんだ」

「え・・・?」

「何かさ、高校で俺と付き合ってたのがバレて、いじめられてたみたいなんだ」

「れ、連絡はしたのか?」

「それがさ、俺、怖くなっちゃって・・・俺も彼を傷付けたから。そんな事になってるって知らなくて、俺は酷いことを言った。そんなに俺といるのが恥ずかしいのかって、俺を好きなのは嘘なのかって問い詰めた。だから、彼を追い詰めたのは俺にも原因があったんじゃ無いかって思うと怖くなった」

そう呟くと純は俯いたまま黙り込んだ。俺は居た堪れなくなって立ち上がり純を抱きしめる。

「大丈夫だ。少なくても純も彼も想いが通じ合っていたんだろ?昔の純を見てればわかる。どんなに好きという気持ちを大事にする奴か・・・彼が・・・好きだったんだろ?今も・・・」

俺の言葉に、純はそっと俺の服の袖を掴む。その指先が心なしか震えているようにも思えた。

「純・・・もう後悔するな。連絡してみろ。彼もきっと待ってるはずだ。もし、元に戻れなくても、ちゃんと話するんだ。これ以上、後悔を残すな」

言い聞かせるように純へと囁く。純は黙ったまま小さく頷く。小さく漏れる嗚咽が胸を締め付ける。

周りの目がこんなにも人を悲しませるのかと辛くなる。

ただ互いに好きなだけなのに・・・・。

俺は諒から離れる気もないし、傷付いてもきっと大丈夫だと不思議な自信がある。でも、傷付くのが諒なら・・・?

現に諒の不安な気持ちを取り除いてあげたくて、こうして純に会いに来たけど、これは正解なのだろうか・・・?

俺はどこまで諒を支えてやれる・・・?

純に大丈夫だと言い聞かせながら、答えの出ない不安から俺は自分にも言い聞かせ続けた。

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