第26話 風邪を引いた諒
「わぁ・・・」
俺は掠れた声で目の前の光景に感嘆のため息を吐いた。
重い瞼を開けたら、瑞稀のパンツ姿が目に入ったからだ。
「諒っ!起きたのか?どうだ?体は辛くないか?」
心配してベットの側に駆け寄る瑞稀に、俺はふふっと笑みを溢す。
「たまには風邪を引くのもいいな。瑞稀のパンツ姿、どのくらいぶりだ?」
俺のその言葉に、瑞稀は自分が着替えの途中でパンツ姿なのを思い出したのか、顔を真っ赤になって、隠しきれないのに手で一生懸命体を隠す。
「こ、これはだな、ただ着替えようと思って・・・」
「わかってる。ほら、早く服着ないと風邪引くぞ」
「わ、わかってる」
瑞稀はそういうと、脱いだ制服をそっと自分へ寄せ、ささっと羽織るとヒヨコ歩きでタンスへ向かう。
見えてるよと思いながら、必死に隠す瑞稀が可愛くて笑みが溢れる。
「目を閉じてるから、早く着替えて」
俺は瑞稀に声をかけながら、そっと目を閉じる。ガサガサと聞こえる音に、元気だったらバッチリ見て妄想を膨らますが、どうやらそんな元気はないようだ。
久しぶりに引く風邪が思ったより体に堪える。
「もう、いいぞ」
瑞稀の声に目を開けると、思ったより近い顔に俺はドキリと鼓動を鳴らす。
「熱、高いな。諒のお母さんが仕事終わったら迎えに来るって。それまで、ここで寝てろ。俺は邪魔にならないように下にいる」
そう言って立ち上がろうとする瑞稀の手を掴み、首を振る。
「マスクするからここにいて・・・」
懇願するように瑞稀に伝えると、心配そうな顔でわかったと頷く。
俺はそばに置いてあったマスクを取り、耳にかけ、口元を塞ぐ。
瑞稀のお母さんが念の為と持ってきた物だ。
俺がマスクを付け終わると、瑞稀が俺の頭を撫でる。
「諒・・・俺が言うのもアレだけど、我慢ばかりするな」
「え・・・?」
「辛い時も不安な時も、俺が側にいてやるから、何でも話してくれ」
「どうした?」
「いや、何かお前は我慢ばっかりしているなと思って・・・普段から我慢しいなのに、今では俺の事でも我慢ばかりさせてる。諒、お前こそ何かあったのか?」
瑞稀の言葉にまた胸がドキリとする。
瑞稀はいつもそうだ。
どんなに俺が隠してもすぐに気付いてくれる。俺の背が伸びた事ですぐにはバレないと思ってる時も、瑞稀は一生懸命俺を覗き見して、俺の表情や思いを汲み取ってくれる。
いつも俺にまっすぐ向き合ってくれる。
それが一番嬉しい。いつでも俺の心を救ってくれる。
「何でもない。少し考え事してたら、そのまま布団も被らず寝ちゃったんだ。何もないよ」
「本当か?・・・諒、俺、これからは恋人として絆を深めようと言ったよな?」
「あぁ・・・」
「それなら話してくれないか?本当に俺の杞憂か?どんな事でもいい。親友として聞いて欲しいならそうする。恋人としての不安なら、恋人として聞く。そうやってお互いに不安な事は2人で解決していこう。話したくない事を無理やり話せとかじゃないんだ。2人で解決できるかもしれない可能性を無視したくないだけなんだ。きっとその可能性を見逃した事が純達の未来を奪った。俺はそうなりたくない」
「・・・・そうだな。ごめん。瑞稀は何でも不安な事は俺に話してくれたのに、俺が隠しちゃダメだよな」
俺はいつまでも撫でてくれている瑞稀の手を掴み、マスク越しにキスをする。
それから、昨日、純に言われた事を話し始めた。
それと、俺も純の話に動揺している事も・・・。
俺から気持ちが離れる事はないが、瑞稀の気持ちが離れる事が怖いと思う事も、全部話した。
瑞稀は時折相槌を打ちながら、俺の話を黙って聞いていた。
俺が言葉を詰まらせる時は、大丈夫と言っているかの様に俺の頬に触れ撫でる。
瑞稀の優しさが俺の胸に染み渡る。
嬉しいと思う気持ちと、瑞稀が大好きだと思う気持ちで胸がいっぱいになる。
どこまで話したのかわからないくらい、俺は瑞稀の優しさに触れながら安堵していつの間にか眠りに落ちていた。
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