第25話 風邪を引いた諒

諒から不思議な電話があった翌日、真っ赤な顔で俺の家に現れた。

熱があるのに気付いた俺は、慌てて母さんを呼ぶ。

諒は大した事ないから学校に行くと言い張っていたが、母さんに諭されて今日は学校を休む事になった。

諒のお母さんが日勤だった為、学校の連絡や世話は母さんがするから俺の部屋で眠るように言われ、諒はしゅんとしながら部屋に俺の部屋に入っていく。

小さい頃はよく風邪を引いてたが、大きくなるにつれて母親に心配かけさせたくないと、自分の健康には人一倍気をつけていた。

そんな諒だったから、俺は学校にいる間も心配でたまらなかった。


「瑞稀、今日は俺が可奈を連れて帰る」

放課後、急に現れた純に俺はきょとんとした顔で、え?と聞き返す。

「諒、熱出して寝込んでるんだろ?あいつの親、仕事で普段あまりいないだろ?早く帰って世話してやれ」

「そうだけど・・・塾は大丈夫なのか?」

「心配ない。少し遅れるくらい大丈夫だよ。それに、可奈が心配して俺にお願いしてきたんだ。可愛い妹は俺が守らないとな」

ニコッと微笑みながら言葉を返すが、小さな声でぼそっと呟く。

「それに、俺のせいかもだしな」

「・・・どういう意味?」

「いや、こっちの話。ほら、可奈、帰るぞ」

純の言葉に、カバンに荷物を詰めていた可奈が慌てて駆け寄ってくる。

「みっくん、諒くんに早く元気になってねって伝えてね」

「わかった。可奈、送れなくてごめんな。それに心配してくれてありがとう。純も・・・」

「いいって。俺のはほんの少しの下心付きだから」

「え?」

俺が問い返すのを、意味ありげに笑ってかわすと、可奈と2人仲良く帰って行った。俺はしばらく頭を悩ませたが、すぐに諒を思い出し、家へと走り出した。


「ただいまっ」

息を切らせながら勢いよく玄関のドアを開けると、ちょうど2階から降りてきた母さんと目が合う。

「お帰りなさい。諒くんは今、寝たとこよ」

「そっか・・・熱、高いの?」

「少しね。諒くん、お母さんに何も言ってなかったみたい。諒くんのお母さんに連絡したら、夜更かしして寝不足なだけだって言ってたらしくて、時間がなくてその言葉を信じて仕事に出かけたらしいの。とても心配してたわ。

仕事終わったら迎えに来ることになってるから、それまで寝かしてあげましょ」

母さんの話に俺は、黙って頷く。部屋に荷物置いて着替えだけしてくると伝え、俺はゆっくり二階へ上がる。

部屋のドアを開けると、相変わらず赤い顔で静かに寝ている諒の姿が目に入る。

そっと側によりおでこに手をあてると、冷えピタ越しでもわかるくらい熱い。

俺は諒の髪を撫でながら、諒の横顔を見つめた。

片親だからか、諒はすごく母親に気を使う。

昔、父親の写真を見ながら母親が泣いているのを見たとかで、それから諒は急に母親に甘えるのを辞めた。

きっと自分が支えなきゃと小さいながらに思ったんだろう。

それから自分の事はできるだけ自分でするようにしてきたし、料理の勉強も始めた。母親が仕事の時は、自分が食事を作りたいと頑張っていた。

それが実を結んだのか、諒はいつの間にかいじめられっ子から卒業していた。

俺が怪我したのもきっかけではあったが、何より母親を想った諒の優しさが諒を強くしていった。それと伴うように外見も逞しくなっていった。

他の人にはあまり心を開かない諒だったから、周りは気付いていなかったかもしれないけど、一番近くで見てきた俺は知ってる。

本当は寂しがり屋で、ほんの少し泣き虫だ。

昔の諒のまんまだ。

ただ、伸びた背と一緒に我慢強くなった。

逞しくなっていく外見が、より一層、強い自分を誇示しているのかもしれない。

「あまり無理するなよ」

俺はぽそりと呟いて、諒の頬にそっとキスをした。

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