第14話 誕生日

俺は一体何の話を聞いているんだろう。目をぱちくりしながら瑞稀を見つめる。

「いいか、世のお付き合いしているカップルは、2、3回目のデートでハグをするらしい。それから手を繋ぐ。初めてのキスは一ヶ月が目安だ。それから、3、4ヶ月でその、アレだ。初めて同士はもう少し時間をかけてもいいらしい」

真面目な顔でそう語る瑞樹。

ついそれはどこのデータですかとツッコミたくなる。

「俺達は何もかもすっ飛ばしている。恋人としてのデ、デートもまだ一回しかしてない」

「デートしたいのか?」

「そ、それは・・・・したい」

あぁ・・・どうしたらいいんだ。この可愛い生き物を・・・デートがしたいって照れてるやつに、俺の中の理性が壊れそうだ。

「でも、タイミングって人それぞれじゃん。俺は瑞稀ともっと触れ合いたい」

「それは・・・そうだけど・・・」

「なぁ、俺言っただろ?瑞稀が待ってほしいなら、いくらでも待つって。そりゃあ、この前は暴走したけど、その事で瑞稀の気持ちが追いつかなくて、あんな風に避けられるのは嫌なんだ」

瑞稀は俺の言葉に小さくごめんと呟く。俺はふぅっと小さなため息をついて微笑む。

「謝って欲しいんじゃない。瑞稀がゆっくり進みたいのもわかるから。少しずつ変えていくんだろ?友達から恋人としての関係を・・・」

「諒・・・ごめんな。いつも諒は俺の気持ちを尊重してくれてるのに、俺は諒に上手く合わせられない」

俺はしょげてる瑞稀の手を取理、それを自分の頬に当てる。

「十分合わせてるよ。ほら、前だったらこうゆうのも恥ずかしがってたけど、今はこうして受け入れてくれる。俺はこれでいい。俺が瑞稀を好き過ぎて暴走した時は止めてくれ。そしたら、俺はいくらでもセーブをかけるから。それは嫌じゃない。でも、無理して進んで瑞稀を傷付けるのは絶対嫌だ」

瑞稀の手で頬をさする。それから、手の甲にキスをした。


ケーキを食べた後、少しだけゲームをして風呂に入る。

瑞稀が風呂に入っている間、俺は布団を出しながら後悔のため息を吐く。

正直、少し・・・いや、かなりカッコつけた。

あんな事言った手前、一緒に寝れる訳がない。この部屋に布団を敷くとかなりキチキチだけど、俺の試練だと思えば何とかなる。

綺麗に伸ばせていない敷布団を見ながら、苦笑いをする。

「諒、お風呂ありがとう。次、どうぞ」

髪をタオルで拭きながら、瑞稀が部屋に入ってくる。

あぁ・・・やばい。色っぽい。風呂上がりでほんのり染まる頬、髪から滴る水滴、どれもいい・・・俺はグッと拳を握り何かを堪える。

「み、瑞稀、髪ちゃんと乾かせよ」

「あ、そうだな。部屋にドライヤーあったよな?」

俺は棚からドライヤーを取り出すと瑞稀に手渡す。

「俺がやってやろうか?」

「んーでも、風呂入らないとだろ?」

「終わってから入ればいい」

「じゃあ、頼んだ」

瑞稀は俺にドライヤーを渡しながら、ベットに背もたれするように座る。俺はベットに乗り、瑞稀の後ろへと周り、コンセントに差して瑞稀の髪を乾かし始める。

「何か、人にやってもらうと気持ちいいな」

瑞稀はそう言いながら気持ちよさそうな表情で目を閉じる。瑞稀から香るシャンプーの匂いにドキドキしながら、乾かし終わるとすぐに立ち上がり風呂場へと直行した。

戻ってくると、敷いてあった布団が畳まれているのに気付く。ふとベットに目をやれば布団に潜っている瑞稀と、並べられた枕が目に入る。

「瑞稀・・・俺、あんな事言ったけど、これはちょっと・・・」

「俺が・・・俺が慣れたいたから、隣で寝ろ」

布団の中から瑞稀の照れたような声が聞こえて、思わずふふッと笑う。俺は簡単に髪を乾かすとベットに潜り込み、部屋の電気を消し、小さな灯りだけを灯す。

「おやすみ、瑞稀」

「おやすみ・・・」

なかなかこっちを向かない瑞稀に少し寂しく思いながら、目を閉じる。すると布団の中からボソボソと声が聞こえた。

「瑞稀、ごめん。なんて言ってるのか聞こえない」

その声に瑞稀は勢いよく顔を出すと、俺を睨みつける。

「俺、色々すっ飛ばしたと言ったけど、キ、キスするのは嫌いじゃないから。軽いのだけなら沢山したい」

瑞稀の言葉にポカンとしている俺に、瑞稀はそっとキスをする。

「お、おやすみのキス・・・」

そう言ってまた布団に潜る瑞稀を布団ごと抱きしめる。可愛くてたまらない。

「なぁ、瑞稀。三ヶ月ならいいのか?」

「・・・・・」

「わかった。なら、瑞稀。俺を抱け」

俺の言葉に反応して瑞稀が勢いよく頭を飛び出す。俺は出てきたなと笑い、瑞稀のおでこにキスをする。

「俺は瑞稀と触れ合えるなら、どっちでもいい。だから、瑞稀のペースで、瑞稀が覚悟できたら俺を抱いてくれ」

瑞稀は顔を真っ赤にして口をパクパクさせていたが、俺はすかさず瑞稀の首裏に腕を回し、足でがっちりホールドして目を閉じる。

腕の中でまだ固まっている瑞稀と、チャリッと小さくなるネックレスの音に俺は安心して眠りについた。


翌朝、よく寝れた俺とは対照に、瑞稀はなかなか寝付けなかったのかげっそりした顔で帰っていった。

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