第11話 背伸びの仕方
「今日は何しようかな・・・・」
HR中に俺は部屋にある物を思い浮かべる。
漫画はもう読み切ってるし、ゲームもそろそろ飽きて来るかな・・・そんな事を考えながら、HRが終わるのを今か今かとソワソワしながら待っていた。
あのひと騒動があってから、諒の提案でもっと恋人としての時間を持とうと言われ、ほぼ毎日の様に2人での時間を作るようにしていた。
・・・と言っても、今までと特別変わる事なく放課後は一緒に帰り、互いの家を行き来する・・・それだけの事だが、明らかに違うのは部屋に2人でいる時は、手を繋いだりスキンシップを心がけるという決まりを作っていた。
最初はスキンシップの言葉に身構えたが、諒は俺の気持ちを押し測ったように無理強いはしなかった。
本当に手を繋ぐ、髪や頬に触れる、友達とはほんの少し違う触れ方をする、そんな程度だった。この前、膝枕してくれと強請られた時はドキマギしたが、それも友達の延長だ。ただ違うのは、膝枕しながら髪を撫でてくれという諒のおねだりくらいだ。
そんな日々を一ヶ月も続けていれば、部屋でやる事もなくなってくる。諒は構わないと言うが、俺はあの甘ったるい雰囲気に未だに慣れずにいた。
チャイムが鳴ると俺は慌ててカバンをひったくる。
廊下に出た瞬間に、諒が目の前に現れた。俺を見つけた諒は、いつも満面な笑みを浮かべる。いつもと違うのは、その笑みに優しい目付きとほんのり赤らむ顔の色だけだ。
「瑞稀、今日は俺の家に行こう。面白い映画見つけたんだ」
「お、おう」
「ほら、早く帰るぞ。絶対、瑞稀が好きそうな映画なんだ」
諒は急かすように俺の背中を押す。諒の触れた手が熱く感じて顔が赤らむ。
落ち着け、俺!そう言い聞かせながら、帰路を急いだ。
「瑞稀、飲み物持ってくるから、先に部屋に行ってて」
家に着くなり諒は冷蔵庫へと向かう。俺は慣れた足取りで諒の部屋へと向かう。諒の家は2LDKのアパートだ。玄関から入るとすぐキッチンがあり、その奥にリビングと部屋が並んでいる。
元々諒の家族はここではなかった。結婚してすぐにマンションを購入したそうだが、おじさんが亡くなって、広い部屋に2人は寂しいし、金銭的にも余裕がないからとそのマンションを売って、俺の家の隣にあるアパートに引っ越してきた。
ちょうど幼稚園に上がる頃だった。
諒の部屋もすっかり見慣れた光景だった。俺はドアの側に鞄を置くと、テーブルの前に腰を下ろす。
諒の部屋は正直手狭だ。それと言うのも、高校に入り諒の背が一気に伸びた為、ベットを買い直した。この10畳はあるこの部屋の大半を占めるのが、このデカイベットだ。ベットを置く為に、勉強机を処分したくらいだ。
テーブルの上にはパソコンが置いてあった。
何気にそれを開き、これで映画を見るのかとあれこれいじっていると、トップ画面にあった写真フォルダーが開かれる。
「なんだ、これは・・・・」
目の前には俺の幼少からの写真がずらりと並んでいた。ふと目をやれば、タイトルが小さく書かれていた。
(瑞稀メモリアル)
キモイ・・・キモすぎる・・・その時、ドアが開かれ諒が入ってくる。
「お前、これはなんだ?」
「あーそれ?いいだろう?俺の瑞稀コレクション。ずっと集めていたんだ」
悪びれる事もなく嬉しそうに自慢する諒に、キモイとついボソっと呟く。
「キモいって何だよ。俺はずっとこれ見て瑞稀に触れたい欲求を満たしていたんだ。健気だろう?」
「いや、益々キモい・・・というか怖い。この写真を見て何をしてたんだ?」
持ってきたトレイからコップを移動させていた諒が、手を止め俺を見てニヤリと笑いながら、聞くか?と尋ねる。俺は怖くなりブンブンと首を横に振った。
「冗談だよ。ただ、普通に愛でていただけ。ほら、この瑞稀かわいいだろ?」
写真を指差しながら嬉しそうに話す諒を見て、少しだけ安堵する。
「ほら、映画再生するぞ」
そう言って諒は俺の手を取って、パソコンの再生ボタンを押す。
曲が流れ映画が始まる。
「諒、本当にこんなんでいいのか?」
繋がれた手を上げ、諒に見せながら俺は尋ねる。すると諒はにこりと微笑む。
「いいんだ。これでも瑞稀にとっては十分すぎるくらいの背伸びだろ?嫌がらずに受け入れてくれてるのが俺は嬉しいから、今はこれでいいんだ」
諒の優しい言葉に心臓がギュッと痛くなる。俺は画面に顔戻す諒の名前をもう一度呼ぶ。今度はうん?と言いながら前を向いたままだ。
その横顔にそっと近づき、頬にキスをする。
びっくりしたのか諒が振り向くが、俺はにこりと笑ってありがとうと呟いた。
それを聞いた諒は固まったまま黙り込む。
そして、俺はお礼のやり方を間違えた事に気付く。
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