第9話 デートの後・・・

「そろそろ帰るか」

日が落ちかけた頃、諒が腕時計を見ながら呟いた。俺は通話を終えた携帯をポケットにしまいながら諒を見上げる。

「今日、諒の母さん夜勤か?」

「そうだけど?」

「母さんが、夜勤だったらウチで一緒に飯食べてけって」

「あー・・・じゃあ、お邪魔しようかな」

そう言いながらふっと笑みを溢す。

「何だよ?」

「いや、まだ瑞稀といれるんだと思って」

「お前はまた・・・まぁ、いいや。明日も休みなんだから、ご飯食べたら部屋でゲームでもしようぜ」

「そうだな。じゃあ、早く帰って早くご飯食べよう」

諒は急ごうと言いながら歩き始めた。俺は何を言ってんだかと思いながら、歩き始めた。

実を言うと、今日は決行しようと考えていた事があった。

だけど、なかなか2人きりになれなかったから実行出来ずにいた。

昨日の夜、ずっと考えていた。最近、諒にリードされっぱなしだなと。

今までは俺がリードしていたはずなのに、ずっと押されっぱなしだ。

俺が恥ずかしがるのがいけないんだろうが、急にキャラ変してきた諒にどう接していいか戸惑うのだ。

でも、本当の諒はこの前話してくれた様に、俺の側に居たくて沢山努力も我慢もしてきたはずだ。

それが、今まで俺がリードしていたという「錯覚」をさせていたのかもしれない。

ただ諒が俺を想い、俺を尊重してくれて、色々譲ってきてくれてただけ。

そう思えば思うほど、今度は俺がちゃんと努力するべきだと思った。

それに・・・今、主導権を握っておかないと、俺は抱かれる側だ。

それだけは譲りたくない。

俺はまだ諒を守る側でいたい。俺は諒と比べてデカくもないし、かっこ良くもない。運動が少し得意なだけで、成績も諒より下だ。

想いが通じ合ったからこそ、諒が包み隠さず真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるからこそ、劣等感に似た感情が出てくる。

俺は不釣り合いでは無いのかという思い・・・友達として、親友としては出てこなかった思いが、俺を不安にさせる。

だからこそ、今日は俺が・・・それが正解かはわからないけど、少しは自信に繋がるかもしれない。


「なぁ、瑞稀。何を悩んでるんだ?」

ゲームのコントローラーをカチカチと動かしながら諒が訪ねてくる。

俺はドキリとするが、悟られないように前を向いたまま答える。

「別に何も・・・」

「嘘だ」

諒はいきなりコントローラーを床に置き、俺の方へ体を向ける。

「何だよ、いきなり。あっ、ほら、ゲームオーバーになっただろ」

ため息をつきながら俺もコントローラーを置く。

「話してくれ。何を悩んでいるんだ?」

「何も悩んでないって言ってるだろ?」

「瑞稀、ずっと近くで見てきた俺が気付かないと思ってるのか?俺は瑞稀の一番の親友で幼馴染だ。それに、今は恋人でもある。俺じゃ、力になれない事か?」

心配そうに覗き込む諒に、少しぶっきらぼうに答える。

「何でもない。ただ、キスするタイミングを見計らってただけだ」

「え?は?」

「昨日から考えてたんだよ。言っただろ?俺が背伸びするって」

「・・・・瑞稀、本当にそれだけだったら俺は嬉しいけど、悩んでるのは違う事じゃないのか?」

「どうしてそう思うんだよ」

「ゆっくり進みたいと言ったのは瑞稀だ。だから、俺も自分の中で折り合い付けて瑞稀と向き合ってる。そりゃ、この前、話した後からずっと今までの様な友達としての付き合いが続いたから、少しは不満に思って今日は手を繋いだけど、俺は瑞稀の気持ちは無視したくない。でも、急にそう思うって事は、他に悩んでる事があるからだろ?帰り道から変だった。ゲームだって、瑞稀の方が上手いのに失敗してばかりだろ?」

諒の言葉に俺は黙り込んでしまう。何も言い返せないからだ。

「俺じゃダメ?それは俺が恋人だから?友達だったら話せる事?」

切なそうに話す諒の声に目頭が熱くなる。

「・・・・ごめん。諒がダメとかじゃないんだ」

「・・・ゆっくりでいいから話してくれるか?」

「俺・・・諒と恋人になれて本当に嬉しいんだ。それは嘘じゃない。でも、実感すればするほど、変な考えにいっちゃうんだ」

「どんな?」

「この前、諒の話聞いて俺が諒を守っているってのは錯覚で、諒が沢山努力して我慢してきたからだってわかって、それから段々、俺は諒の恋人として不釣り合いじゃ無いかって思えてきて・・・」

そこまで話し終えると諒が大きなため息を吐く。俺は怖くなって俯いたまま顔を上げれず、話続けた。

「俺は背も小さいし、カッコ良くも無い。少し運動ができるだけで、成績だって諒より下だ。何もかもが劣るのに、諒の隣を陣取って、諒の縛ってるのは間違ってるんじゃないかって・・・」

「瑞稀、もういい」

怒りが混じった声に、俺の目からポタポタと涙がこぼれ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る