第8話 恋人としてのお出かけ
よくやった、俺!上手い事、瑞稀を宥めて手を繋いだぞ。
ニヤケが止まらないまま、スクリーンを見つめる。
昨日、デートに行こうと誘った時は、若干引き気味だったけど見たかった映画があると何とか説得した。
きっと、出かけるのは問題ないが、俺がデートだと言った言葉がひっかるんだろう。
でも、こうして振り解かないのは瑞稀も少しは嬉しいと思ってくれてるからだよな・・・それが俺は嬉しい。
瑞稀は背伸びしてくれると言ってくれたけど、あれから何の進展もしてない。
今まで通りの友達を続けている。
それはもう、俺が白昼夢を見たのでは無いかと思うくらい、いつもの日常だ。
瑞稀は話し合った事で、変な方向に完結してしまった。
瑞稀の気持ちは尊重したいが、これではいつまで経っても進まないと判断した俺は少しでも恋人としての実感を持って貰うために行動する事にしたのだ。
その一歩が、今まで2人でただの「お出かけ」を「デート」と位置付ける事だ。
焦らずあくまでも瑞稀の気持ちを優先に、それでいて、そこに俺のほんの少しのわがままを入れていくんだ。
今はそれでいい・・・頑張れ、俺の理性!
「すげぇ、面白かったな!」
満面の笑みで喜ぶ瑞稀。最初はあんなに緊張してたのに、途中からは俺の手の存在を忘れ、すっかり映画に夢中になっていた。
仕方ない。瑞稀が好きそうな映画を選んだ俺のミスだ・・・瑞稀が喜んでくれたならそれで良しとしよう・・・。
「なぁなぁ、俺、腹減った。寝過ごしたから朝ご飯食べてないんだよ」
お腹を摩りながら顰めっ面をする瑞稀・・・うん、可愛い。
思わずニヤける俺を瑞稀が見上げると同時にきゅっと、無表情を作る。
「なんだ?楽しみで寝付けなかったのか?」
誤魔化すように口から揶揄うような言葉が出て、しまったと慌てて瑞稀を見ると、顔を赤らめ俯いている。
「・・・・悪いかよ」
「え・・・・?すげぇ、可愛いんだが?」
「なっ、お前はすぐそう言う事を言う!」
真っ赤な顔で睨みながら俺を見上げる。押さえ付けていた理性にヒビが入る音がする。
「いいから、飯行くぞ!・・・あのな、言っとくけど、可愛いのは俺じゃなくてお前だからな・・・」
背を向けながらぼやく瑞稀にムラムラが止まらない。帰るまで持つだろうかと不安になりながら、俺の中の理性を総動員して耐えた。
それから、あらかじめ調べておいた瑞稀の好きな有名ラーメン店に行き、ショッピングモールへと向かう。
すっかり秋めいて来て、時折ひんやりとした風が吹くようになってきたから、服を見たいと瑞稀が言ったからだ。
前回も服が見たいと言って出かけたが、ソワソワして落ち着かない瑞稀は結局何も買い物をしなかった。
今思えば、その後に俺に告白する予定だったからだろう。
瑞稀が服を物色している間、ふと隣のアクセサリーショップに目が行く。
「そう言えば、もう9月か・・・」
俺はポツリと呟いて、ガラス越しのアクセサリーを見つめる。来月の10日は瑞稀の誕生日だ。
プレゼントにアクセサリーとか重いだろうか・・・できればお揃いのやつ買いたいな・・・・そう思いながら並べられているアクセサリーを順に見ていくと、一枚のカードに目が止まった。
(大切な人へのプレゼントに、あなたの言葉を刻みます)
どうやら、プレートネックレスやリングに文字を彫るサービスのようだ。
リング・・・チェーン・・・俺の頭の中で妄想が膨らむ。
言葉を刻んだリングにチェーンを付けたプレゼントを嬉しそうに着ける瑞稀。
お礼にキスをしてくる・・・ダメだ、またムラムラしてきた。
俺はため息を吐きながら振り返ると、すぐ側に瑞稀が立っていた。
「諒、アクセサリーが欲しいのか?」
「違う。少し見てただけだ。見てて思い出したんだけど、今年の誕生日は何が欲しいんだ?」
「あ・・・そうか、もうすぐか・・・」
腕を組み考え込む瑞樹に、アクセサリーであってくれと邪な俺の念が飛ぶ。
しばらく考えた後、瑞稀は俺を見上げて笑う。
「やっぱり、諒が考えてくれよ。いつもみたいにさ」
「・・・いいのか?」
「いいに決まってるだろ?俺、お前からもらったプレゼントは今でも大事にしてる。どれも嬉しかったから。それに・・・」
「それに?」
「こ、今年は恋人としてくれるんだろ?だから、諒が決めてくれ」
自分から言葉にしておいて、終わり頃には声が小さくなり顔を赤く染める。
可愛すぎる・・・ムラムラした気持ちが、邪な俺の妄想を実行しようと騒ぎ立てる。
「もし・・・あれを買ったら付けてくれるか?」
俺はさっき見たカードを指差すと、瑞稀はその指の先にある物を見つめ固まる。
「・・・・リングは無理だぞ」
ぼそっと呟く瑞稀に、俺は目をキラキラさせる。
「目立つのはしないっ!目立たなくて、それでいていつも身に着けられる物にする!」
「・・・わかった。楽しみにしとく・・・」
「約束だからな!」
俺は嬉々として瑞稀に迫ると、瑞稀は小さな声で約束だと呟いた。
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