第7話 恋人としてのお出かけ
あっという間にまた週末が来た。
俺は洗面所でなかなか直らない寝癖と戦っていた。
「お兄ちゃん、いつまでやってるのよ。私も出かけるんだから、早くどいてよ」
後ろから一つ下の妹、美奈が怒りながら声をかけてくる。
昔は諒と一緒に俺の後をついてまわっていたのに、中学高校と上がる度に可愛げがなくなってくる。
「諒くんと映画見に行くだけでしょ?そんな小さな寝癖なんか、周りも気付かないし、諒くんも気にしないわよ」
ぶつぶつと言いながら俺を肘で小ずく。
美奈よ、今日はただのお出かけじゃないんだ。恋人になって初のお出かけだ。
言わばデートなのだ。確かにこんな小さな寝癖、いつもなら気にしないんだが初デートはオシャレしたいものだろ!?
そんな思いをグッと堪えて美奈に鏡を譲る。
「瑞稀〜!諒くん、もう来たわよ」
遠くから母さんの声がして、慌てて返事をしながら玄関に向かうと諒が立っていた。
「おはよう。準備できたなら行こう」
笑顔で俺に話しかける諒の顔を見て、顔が熱くなる。なんで、そんなにご機嫌なんだ?
「じゃあ、おばさん。瑞稀をお借りしますね」
「はいはい。気をつけて行くのよ」
母さんが手を振りながら見送る。俺は少し照れと後ろ冷たさで、諒を引っ張り家を出た。
「諒、ポップコーン食べるか?」
チケットを買った後、売店を見ながら諒に声をかけると隣で諒が頷く。
「キャラメルだよな?すみません、ポップコーンのキャラメルとコーラを二つ下さい」
レジで店員に頼むと、横からスッと手が伸び諒がお金を払おうとするのを見て、俺は首を振る。
「やめろよ。今まで何でも割り勘しようって決めただろう?俺もお前も小遣いは大事にするべきだ」
俺の言葉に諒はわかったと答え、ふふっと笑う。
「今日くらいはと思ったけど、瑞稀は昔からこういう所、ブレないよな」
諒の言葉にふと昔の事を思い出す。
小さい頃、諒をいじめっ子から助けてた時に、よく諒がお礼だと言いながら俺にお菓子やら飲み物やらを頻繁にくれていた。
見かねた俺は諒に説教して、その時約束した。
(おばさんが頑張って稼いだお金を無駄遣いするな。俺はお菓子とかが欲しくてお前を助けてやっているんじゃない。大事な友達だから助けるんだ。俺達の間に差をつけるな)
我ながら大人びたセリフだと未だに思う。あの時の俺はまだ諒を可愛い弟くらいに思っていて、お兄ちゃんぶっていた。
美奈と一緒に俺が守らなきゃいけない存在だと思ってた。
それがいつの間にか・・・いや、きっと自覚してないだけで、あの時も俺はもう諒の事が好きだったんだと思う。
「何考えてるんだ?ほら、行くぞ」
諒の声に我に返り見上げると、片手に飲み物ホルダーを、もう片手で俺にポップコーンを渡してくる。
俺はそれを受け取り、何でもないと返事をした。
中に入り席に座ると、しばらくしてから電気が消え予告が始まる。
すると、手に温かいものが触れる。
見下ろすと諒の手が俺の手を握っていた。
「お前、何してるんだよ?」
小声で諒に言うと、諒はニヤリと笑って顔を近づけてくる。
「誰にも見えないって。こうして・・・」
そう言いながら、間にあった肘掛けの下に繋いだ手を潜り込ませる。
「これならいいだろ?」
満足そうな顔で俺を見つめる。ムズムズとこそばゆい感覚に襲われながら、諒の嬉しそうな顔に手を解けずにいた。
俺は照れ隠しにそっぽを向いて諒に答える。
「お前が見たいって言った映画だろ?これ以上変な事考えないで、映画見ろよ」
「わかってる。瑞稀、ありがとな」
諒はお礼を言うとスクリーンへ顔を向ける。
ドクドクと鼓動が激しく鳴る。握られた手から変な汗が出ないかと心配になるが、諒の温もりが嬉しくてふっと笑みが溢れた。
なんか・・・幸せだ・・・
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