第6話 それぞれの想い

「抱くのは俺だって・・・・?」

瑞稀の捨て台詞が頭をリフレインする。

いや、どう考えても俺だろ?体格も俺が上だし、瑞稀は俺を弱くて可愛いと思ってるかもしれないが、俺は今まで瑞稀の前で猫かぶってただけで、瑞稀に変な虫が付かないように威嚇してたせいか、周りからは怖がられてるんだぞ?

それに朝からそんな話をするなといいながら、瑞稀の方が大声で恥ずかしい事を口走ってるじゃないか。

いや、その前に、なんでいつも俺を置いて行くんだ?

走り去った瑞樹の背中を呆然と見つめていると、小さくなった瑞稀の姿に気付き、慌てて後を追う。

ダメだ、一度じっくり話そう。抱く抱かないは、追々決めればいい。

もし、瑞稀が本当に嫌なら、俺は覚悟を決めるっ!でも、その前にちゃんと話をしないといけない気がする。

瑞稀は思い込んだら突っ走る癖があるから、ちゃんと話して俺の気持ちも伝えないと、せっかく両想いになったのにすれ違ってしまう。

やっと届いた想いも、チャンスも逃してたまるもんかっ!

俺は息巻きながら瑞稀の後ろ姿を追いかけた。


結局、クラスが違う俺達は話ができなまま放課後を迎えた。

昼休みは学校で話す事ではないと瑞稀に遮られた。ならばと放課後にHRを終えたと同時に教室を飛び出し、瑞稀を確保する。

家で話そうか悩むが、ゆっくり進みたいと警戒する瑞稀には2人きりの空間は耐えられないだろうと、近所の公園に誘う。

小さい公園もあってか、人も子供もまばらだ。空いてるベンチを見つけ、座る様に促す。

瑞稀が辿々しく腰を下ろすのを見届けたあと、俺は俯きながら口を開く。

「瑞稀、ごめん。俺が先走り過ぎた。俺もずっと不安だったんだ。どんどん差がつくこの身長と一緒で、近くで顔を見る距離も触れられる距離も離れていった。

それが寂しかったんだ。この離れた距離は、友達としての距離で近づけるのは、友達以上の誰かだと思ってたから。

でも、ずっと触れたかった。近くで顔を見たかった。だから、両想いだってわかって今まで我慢していたのが溢れ出てしまったんだ」

「諒・・・」

瑞稀が呼ぶ声に俺は顔を上げ、瑞稀を見つめる。

「瑞稀、知ってるか?いつも近くで笑ってた瑞稀の笑顔は、いつの間にか瑞稀が見上げてくれないと見れなくなった。すぐに気付けた瑞稀の辛い顔も俺がこうして目線を合わせないと、わからなくなったんだ。それが、怖かった。一番の理解者でいたいのに気付けない俺がいる事が、瑞稀の笑顔を一番に見れない事が怖かったんだ。でも、これからは近づいていいんだよな?いや、近付きたい」

真っ直ぐに瑞稀へと想いをぶつける。瑞稀は少し黙ったあと、ゆっくりと口を開く。

「俺もこの差はもどかしいと思ってたよ。なんか、諒の声もだんだん遠くなっていくし、今まで可愛いと思っても俺にはもう昔みたいに諒の頭を撫でる事もできない。諒・・・俺も頑張って背伸びするから、諒の気持ちに追い付けるように背伸びするから、見守ってくれないか?」

瑞稀は俺の手をぎゅっと握り、俺へと真っ直ぐに伝える。それが嬉しくて俺は笑みを溢す。

「時々でいいんだ。時々背伸びしてくれると嬉しい」

「わかった」

瑞稀が満面の笑みで答える。その顔がたまらなく可愛くて・・・ムラムラする。

「なぁ、どこまでならOKなんだ?」

「どこまでって・・・・」

「まぁ、人前でなければ手を繋ぐのは大前提として、キスとかは?軽いのまでとか、深いのまでとか・・・」

「おまっ、お前は話した側からっ!」

「だって、そこは先にはっきりしないとだろ?俺はもうエロ魔人でいいと思ってる。それくらい瑞稀を見てると可愛すぎてムラムラするんだ。あっ、そう言えば、俺も抱きたい派だから、それは追々2人で相談しよう」

俺の言葉に瑞稀は顔を真っ赤にして、俺の手を思いっきり振り放すと、黙ったまま立ち上がり歩き始めた。

「おい、瑞稀。その前に毎回俺を置いていくのをやめてくれ」

「知るかっ!」

真っ赤な顔で声を荒げる瑞稀が可愛くて、俺は笑いながら追いかけた。

あぁ、そう言えば俺って小さい頃からずっとこうやって瑞稀を追いかけてたな。

あの時は泣きべそかいた俺を、いつも仕方ないなって振り向いて手を差し伸べてくれたっけ・・・懐かしい光景を思い浮かべてはまた笑みを溢す。

すると、瑞稀が突然立ち止まる。

「おい!早く来い!」

そう言ってぶっきらぼうに俺に手を差し伸べた。

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