第2話 告白

「わぁぁぁ・・・・」

突然置き去りにされた俺の口からはため息にも似た間抜けな言葉が出た。

さっき瑞稀の口から出た言葉が頭の中をリフレインする。

俺は今、何を言われたんだ?

瑞稀が俺を好きだと?いつからだ?何故、今日?突然、何?

その前に、何故俺を置いて逃げ帰ったんだ?

リフレインの後をハテナが頭を占める。

しばらくそれを繰り返すと、自分の口元が緩んでくるのがわかり、自然と口元に手をやる。

ずっと俺の片想いだと思っていた。

小さい頃の俺はいじめられっ子だった。容姿の事で揶揄われ、その事ですぐ泣いていた俺はかっこうの餌食だった。

それをいつも救ってくれたのが瑞稀だった。

あの頃から俺の中での瑞稀はヒーローで、初恋の相手でもあった。

ある時俺を庇って怪我をした時、このままじゃダメだと思った。

強くなって瑞稀を守ると決めた俺は、順調に成長し、体付きも大きく、身長も187センチと大きくなった。

それに反して瑞稀は中学から身長が止まったようで、167センチのまま。

それがまた可愛くてしょうがない。

顔付きも変わらず幼さが残り、それでいて正義感が強いままなのも変わらず、少し喧嘩っ早い所がある。

その度に俺はハラハラした。幸いデカイ俺がそばにいる威圧感で大きな喧嘩にはならずにいたが、それでも目が離せない。

惚れた弱みか俺は瑞稀には逆らった事がない。

だから未だに瑞稀の中での俺は、弱い諒のままだ。

弱い諒、守るべき人間、そう思って俺の側にいてくれる事が心地よく、嬉しかった。

ずっと親友として、幼馴染として、弟分として側に入れればいいと思っていた。

それが何だ?俺の事が好きだと?

世の中にこんな嬉しい事があるのか?

もしかして俺は明日、死ぬのか?いや、でも瑞稀の口から出るとは思えない言葉を聞けたんだ。

いつ死んでも悔いはない・・・・いや、違う。

せめて恋人として、手を繋いで、あわよくばキスをしてから死にたい。

「はぁ・・・瑞稀・・・」

両手で顔を包みながら名を呼ぶと、今頃、心臓が激しく鳴りだす。

「はっ!俺、返事してない」

肝心な事を思い出し、顔を上げポケットに手を突っ込む。

携帯を取り出し、履歴から瑞稀の名を探す。

発信音が耳に鳴り響くが取る気配がない。

「なんで出ないんだ?はっ!もしかして、俺がすぐ返事しなかったから、断られたと思ったのか!?」

自分の顔が急に青ざめていくのがわかる。

慌ててメールを打つと、勢い良く立ち上がり帰路を急ぐ。

(話がしたい。家で待っててくれ)

短い文章だが、今の俺にはこれしか打てない。

瑞稀も勇気を出してくれたんだ。俺も直接、言葉にして伝えたい。

もう弱い振りはやめる。

ただの親友も幼馴染もやめる。

瑞稀が好きだ。



息を切らし、瑞稀の家のインターホンを押すと瑞稀の母親が出てきた。

「あら、諒くん」

「あっ、おばさん。こんにちは。あの、瑞稀は帰って来てますか?」

「えぇ。でも、今日は一緒に出かけたんじゃないの?」

「あ・・そうなんですが・・・すみません。家に上がってもいいですか?」

「もちろんよ。また、あの子が何かして困らせたんでしょ?まったく・・・瑞稀は部屋にいるわ」

「ありがとうござます。あと、お邪魔します」

話もそこそこに俺は慌てて家に上がり、2階にある瑞稀の部屋へと急ぐ。

部屋の前に着くと、息を整え、深呼吸してからドアをノックする。

「瑞稀、いるんだろ?」

俺の呼びかけに返事はないが、ゴソッと中で動く音がする。

「入ってもいいか?話がしたい」

「・・・ごめん。今は無理」

「・・・・わかった。じゃあ、そのまま聞いてくれ」

俺はドアに手を添え、額を合わせるとまた大きく深呼吸をする。

それからゆっくりと口を開いた。

「瑞稀、俺も・・・俺も瑞稀が好きだ。小さい頃からずっと瑞樹が好きだった」

そういい終えると、中からガタガタと大きな音が鳴る。

「すぐに返事ができなくてごめん。びっくりし過ぎて何を言われたのか、わからなかったんだ。嫌いとかそんなんじゃない。だって、俺はずっと叶わないと思っていたから・・・ずっと俺の片想いだと思ってたから・・・なぁ、瑞稀の言った好きは俺と同じだよな?一緒なら顔を見せてくれないか?」

懇願するように声をかけると、ドアが勢いよく開かれて瑞稀が顔を赤らめて中から出てくる。

「お、お前、こんな所で何を言ってるんだ。家族に聞かれたらどうするんだよ」

瑞稀が睨みながら俺を見上げる。

いつの間にか背が逆転して、瑞稀が俺を見上げ、俺は瑞稀を見下ろす。

いつも距離は近いはずのに、この20センチの差はいつも俺をためらわせていた。

それは友達としての距離。それ以上近づくのは友達としてではない距離。

ずっともどかしかった。

近づいて抱きしめて、顔を寄せたかった。

「おい、聞いているのか?と、とにかく中に入れっ」

黙り込んだまま瑞稀を見つめる俺の手を引き、部屋の中へと引き入れる。

その後ろ姿を俺は抱き寄せた。

瑞稀は驚いたのか体を強張らせるが、俺の中の我慢の糸が切れる。

「やっと近づけた。瑞稀、大好きだ」

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