第5話 前半

 昼休みの時間クラスの連中の殆どは、外で学食や他のクラスに行っているのか少なく静かな空間で残っている皆が各々昼食を食べていた。

「最近の森野なんかキモいわ」

遂に坂本がキレた。

「なにがだよ」

 森野は愛情と冷凍食品が入った弁当を食べながら答えた。そんな森野の弁当とは比べ物にならない程豪華な弁当をお上品に優雅に食べていた白雪も

「そうですわね。私達と喋っていても暗そうな顔をしたと思ったら、追い詰められた顔をして、それで突然何か決心したような顔をしたりと。…死ぬ気なら誰にもそういう態度見せずにさっさとどうぞ。そんな態度取られると止めないといけませんかは」

「確かにキモいのは右に同じくー」

「同じくや」

そして白雪の言葉に腹黒二人も同意した。森野は唯一まともの山下に望みをかけ縋る様な目付きで見たが

「いや、まぁうんキモいかな」

とプチトマトを食べるついでに言われた。普段神条から受けている箇所とは違う所に大ダメージを受けた。

「で、なんでそんな顔コロコロしてんだよ。福笑いより愉快な面になってんぞ」

今日何度目か分からないな質問を坂本はした。これまでは、「なんでもない」の一点張りだったがこの時間になってようやく決心したのかキリッとした顔をして

「うん。病院行こうかなって」

そう言いきった。

「確か頭の病院なら前進めたよな?精神科の方か?」

「おい片岡。喧嘩売ってんのか?桜花の病院に決まってるだろ」

「……確か数日面会禁止じゃなかった?」

 山下が言った通り一度皆で面会に行ってから何が合ったか知らないが突如面会禁止と西宮から言われ、更に聞いてから西宮本人とも連絡が着かなくなった。一応西宮の家族に話を聞きに行ったが何故か困惑な表情とありきたりな理由だけ言われ相手にされなかった。

「我慢できん。俺は行くと決めた」

と決め顔でほざいたが

「……かっこ良く決めてもストーカーと変わらんよな。やっぱ精神科にでも連れて行くか」

「西宮ちゃんが嫌がってないし良いんじゃないか?おっ旨いな」

 クスクスクと片岡の弁当の唐揚げを取りながら神条は笑って答えた。

「このまま森野さんを放置すると何か問題起こしそうですし私達もついて行きますか」

「まじか。お嬢様らしく博愛精神にも目覚めたのか」

 坂本が気だるそうに言った。行きたくないと顔に書いてある。

「飼い主の西宮さんが居ない以上森野さんが何かしでかしたら私達に責任が行きますからね」

「本当は西宮ちゃんが心配の癖に。ここは森野みたいに素直に言った方がまだ可愛げが合って良いと思うぞ」

「…あれと同じはあんまりですわ」

「それもそうか」

クスクスと再び神条は笑った。腹が一杯になったのか残っている弁当の一部を片岡に無理矢理押し付けていた。

「取りあえずお前らを病院送りにしたい。てかお前らと行くのも不安だよ。なぁ山下も一緒にどう?」

と森野に誘われ食事中は余り喋らない山下は少し迷ったが

「じゃ僕も行こうかな」

と了承した。皆の弁当はほぼ空になった。


 そんなこんなで授業が終了した!

「さて出陣じゃ!」

 森野は終わりのチャイムが鳴ると同時に世界新記録を作れるくらいの瞬発力で教室を飛び出そうとしたが担任の教師(三十路独身ロリ)に服を捕まれ教室に戻されhrを受けさせられた。そして今度こそhrも終わりいよいよと飛び出したが今度は坂本に服を捕まれ失敗した。

「一緒に行くからちょっと待て。早漏野郎」

と坂本に言われた。二度も失敗しテンションが下がっていく森野だったが西宮に会えると考えて無理矢理またテンションをあげた。

「元気だな。森野君」

「空元気っぽいけどな」

神条と片岡は森野達のドッタンバッンを見届けると美術室に向かった。


 ソワソワしている森野とその仲間達は西宮桜花が入院している病院まで歩いていた。学校から病院への道は人通りが少なく、西宮桜花が誘拐されかけた道を思い出す道のりだった。

「中学の頃はもっとまともだったのにな」

「そうだね。野球もやってて女子人気も高かったよ」

 坂本と山下が改めて今歩いている森野を見て残念そうに言うと、この中では唯一違う中学の白雪が

「…確かに今の姿見たら女子は引きますわね」

「お前ら一応聞こえてるからな」

 森野が低い声で言うと坂本が

「ハハハ来るか?受けてたつぜ」

と筋肉を見せつけながら言った。

「覚えとけよ」

 森野はそう吐き捨てた。もう何十回も見た光景である。

「着きましたわよ。馬鹿ども」

「……もしかして僕も入ってる?」

 白雪が病院に指差して言うと森野は興奮して走り出した。そしてすぐに病院に入っていった。

「走ると危ないよ」

「俺を止められるものは居ない!」

 勿論病院内は走るのが厳禁の為、中に入ったら走るのは止めたがそれでも受付もせずに、早歩きで西宮桜花の病室に向かっていった。遅れて三人も向かったが病院に入った時には森野の姿は無かった。

「しかし行動が早いね」

「女としても好きな人にならここまでされたら嬉しいもんですわ。…惚れてないとただキモいだけだけど」

白雪は少し赤くなって言った。

「てか西宮さんって森野の事好きなん?」

「そんなの好きに決まってますわ。あんなん好きじゃ無かったら普通に警察辺りに相談するか無視しますわ」

「酷い言い方だね」

山下は笑った。彼らは、相変わらずどこか暗い雰囲気が漂う病院内を、病室がある二階目指しながら歩いていった。

「確かこの辺だな。ん?」

 坂本は西宮の病室の前に立っている森野を見つけた。

「なんで病室に入らないんだろう?」

 山下が言ったように中に入る素振りも見せずにいた。

「おーい!どうした?」

 坂本が聞くと森野は見ろとばかりに病室に指を指してた。そして坂本らが病室を覗くとそこにはただ誰も居ないベットが四台あっただけだった。チラッと病室の名前プレートを見たがそこに西宮の名前は無かった。

「どっか別の所に移動になっただけだろ」

 坂本は放心している森野に言った。

「聞いたよ。もう看護師に。そしたら昨日退院したって」

「なら家にでも居るんだろ」

 予想が外れて少し罰が悪そうに坂本が呟いた。

「…多分家には居ないと思う。昨日桜花の妹に会ったけど退院したとか一言も言わなかったし、あいつの部屋も光が着いてなかった」

「別の病院に入院なら退院とは言わないですわよね?」

 うーんと手を頬につけながら白雪は言った。

「今連絡送ったけどなんの反応もない」

 森野はスマホを割れるぐらい握りしめていた。

「もう一回確認してきたぜ。確かに退院してったって」

「仕事が早くて良いですわよ」

知らない間に聞いていた坂本を白雪が尊大に誉めた。結局ここに西宮桜花は居ないのは確定になった。では何故居ないのかを皆で考えていたら

「君らここに入院している。……していた西宮さんの知り合いかい?」

 急に声をかけられた。振り向くと30を少し過ぎたくらいのよれよれの茶色いコートを着ている男と新品の様に汚れて無いスーツを着ているが、まだ若く着てるというより着せられてるという描写が似合う若い男の二人組がいた。

「誰ですか?」

 森野は警戒しながら返すと少し笑って最初に声をかけてきたよれよれシャツの男が

「そんな警戒すんなって言われてもまぁでも警戒するか。ほらこういうもんだよ」

と内ポケットから手帳を取り出した。

「あら?警察手帳ですわ」

真っ先に白雪が反応した。

「そっ。このお嬢さんが言うとおり大島って名前で警察をやってる者だよ。これで警戒されたら諦めるしか無いけど」

「警部これだと別の名前があるみたいですよ。どうも私は京田と言います」

 まだまだ新米なんでこいつはと大島は適当に言って再び同じ質問をした。

「で西宮さんの知り合いかい?」

「まぁそうです」

 代表して森野が答えた。明らかに敵意、警戒心があった。

「ハハハ手帳を見せても信用されないか。立派な知り合いが居て西宮さんも安心だね。」

 少しでも和やかな雰囲気にしたいのか穏やかに話しかける。森野もそれに乗り少し軽快に答えた。

「で用件はなんですか?」

「率直に聞くよ。西宮さん、どこにいるか知ってるかい?」

「家にでも居るんじゃないですか?」

 急に山下が入ってきた。坂本と白雪は気持ち少し後ろに行き会話には参加しないようにしていた。病院の廊下と言うのに不自然な程患者はおろかナースも通らず、ただただ彼らの会話だけが存在していた。

「そう思って確認したけど、母親が居るけど合わせられないって。どうも暫く様子見てたけど家には居ないと感じてたな。適当に手掛かりを探してるんだよ」

京田と名乗った若手の男に喋りすぎですよと注意されているが気にもせずに

「しかし知り合いにも退院を言ってないのか」

ふむと大島は考えて始めた。

「そっちじゃなくて。…桜花、西宮さんに対してどんな用件があるって事を聞きたいんだよ」

 それを聞くまでは警戒は取れないと言った感じで聞くと

「うーん?言って良いのか」

 すると京田が小声が大島に耳打ちをした。

「なるほど。君達はあの誘拐未遂事件に居合わせた人達か。なら知る権利はあるかな」

 ピクッと森野の全身に血液の様に、嫌な予感が駆け巡った。出来るならこれを聞かないで後を去りたいと思う程に。しかしこの嫌な予感以上に頭が警告していた。ここで何もしないと西宮桜花と二度と会えないと。

「教えてください」

 真剣な眼差しの森野を見て大島は口元に浮いていた笑顔を引っ込めた。森野はこれが本来の顔でさっきまでの笑顔は演技かと勝手に思った。

「うん良いだろう。…率直に言うとあの事件は、今流行りのマテリアル教と言われる新興宗教の連中が犯人とほぼ確定した。最も信者同士がお互いに庇いあってと証拠の少なさから逮捕は厳しそうだけどな」

 森野が何となく予想した通りだった。片岡からも、その宗教が危ないと聞いていたからだ。

「それであの宗教が一回の失敗で諦めるなら良いんだけどな。宗教団体ってのは諦めが悪いからな。だから警護する為に彼女を探している。本当は最初からしたかったんだけど、ここの病院が認めなくてな。監視程度しか出来なくてな。そんで少しマークを外した瞬間にこれだ」

 今の話が本当なら既に誘拐されている可能性も出てきてる。そう森野が考えたのを読んだのか

「誘拐は絶対とは言えないけど今の所は無いと踏んでる。もしされたなら病院もなんか言うだろうし親も警察に通報するしな。ただ親か病院がグルだと……いやそんな可能性まで考えてたらキリがないな」

ふと右の腕に着いている腕時計を見て

「少し喋りすぎたな。京田行くぞ。なんか合ったら連絡してくれ。じゃーな連絡待ってるぜ」

名刺を財布から取り出し渡して去っていった。


「警部にしては珍しく喋りすぎでは無いですか。暴走して危ない目でも合ったら…」

「ついな。良い目をしてたもんであの少年。それにここは幸運なの島らしいし大丈夫だろ」

「……本当かどうかまだ確定ではないですけどね。」

 二人は辛気臭くどこか見張られている感じのする病院から出た。そして大島は内ポケットからたばこを取り出し吸って

「この事件で分かるさ。…勿論幸運のが良いけどな」

煙が空に消えていった。


 森野達も西宮桜花の居ない病院に居る理由も無く警察が去ったあとすぐに出た。出る時に、二人くらいナースにじっと見られている様な気を感じた。そして森野の家の近所の公園に来ていた。既に夕陽で公園全体が照らされていた。

「警察の人達は否定していたが一番可能性があるのは誘拐か」

 ここまで誰もが無言だったが坂本がその沈黙を破り言った。

「…多分あれは否定じゃ無くて心配させない為に言ったと思うよ」

「そうですわね。確定ってほどじゃないけど一番疑っているって感じですわ」

「てか森野大丈夫か?」

坂本が聞くと森野はいつもの様に

「大丈夫じゃない!全く会えるのはいつになるんだよ」

ここまで黙っていた鬱憤を払うように大声で言った。あくまで高校からの付き合いである白雪ですら無理していると感じた。山下は話題を少しでも変えようとスマホを見て言った。

「もうすぐ片岡達来るって。…家に訪問は来てからだね」

 彼らがここの公園に集まったのは西宮家の様子を見るのが目的であった。暫く特に会話を無く待っていると片岡と神条が表れた。

「なんか変態な事になったらしな」

 片岡はこれまでの出来事を山下からスマホで聞いていたのか普段より低いトーンで言った。

「やれやれ変態なら真と森野で間に合ってるって言うのに」

 しかし相変わらず神条は何時も通りに話していた。こっちは森野とは違い演技ではなかった。

「…あいつも変態ですわよ」

白雪も神条を見習ってか少し明るく言った。

「あれはエマニエル夫人的な変態じゃないからセーフだ」

「エマニエルってなんや」

「凄いエロい女」

「…確かに片岡の場合は神条さんに調教されたのが原因だし合ってるな」

「うるせぇ坂本。お前もお前で種類がちゃうだけで変態には違いないからな。この筋肉野郎」

 結局言った神条では無く言われた片岡と坂本の二人がにらみ合いになった。

「早く桜花に会いたいから行くぞ」

 今回珍しく仲介したのは森野だった。


「一つだけ思い当たる節がある」

 向かってる最中電灯が付き始めた道で森野は呟いた。

「警察も言ってたがマテリアル教だ」

 むしろそれしかないと同じく話を聞いていた白雪と山下も同意した。そして片岡も

「まぁ気づかない方が可笑しいレベルで怪しいからな」

「脳ミソまで変態筋肉野郎以外は皆あれが怪しいと納得してますわ」

「そこまで馬鹿じゃないわ」

「もしかして他の休んでた人もその宗教に関係有ったんじゃ」

山下が二人が言い争うで脱線しそうになるのを感じて口を出した。

「休んでた人の家の殆どにこういうアンテナが合った」

 片岡は言いながらスマホからアンテナの写真を出した。

「マテリアル教が売っている物や。月の裏側からの電波をキャッチしてこの力を元に教祖様とやらが能力を使ってこの町に住んでる連中を幸運にしたり、死なない様にしているらしい。まぁ眉唾もんやな」

 この島は幸運の島と言われている。たまたまと考えるかそれとも他の何かに原因があるか各々別の考えを持っているが、それでも全員がこの胡散臭いアンテナと教祖様の力では無いと一致していた。

「確か桜花の家にも有ったな。アンテナ」

 思いだした様に森野は言った。別に言わなくてももうすぐ答えが出るが

「別に西宮さんがその宗教に入っているかどうかより今何処にいるかじゃないか?」

 脳筋変態野郎坂本が言うと白雪が仕方ないですわね。この脳筋変態野郎と言わんばかりに

「家に居ない、若しくは家族が何も言わないとなると、手がかりが完全にゼロになりますわ。そう考えると少しでも情報は多い方が捜索する時に有利になりますわ」

「そうだね。理由や動機これらも解ればかなり探すのが楽になるしね」

「でも、もし誘拐なら早く見つけないとな。…言いたくは無いけど万が一も有るかもしれないし。それとどう奪還するか」

「万が一は恐らくは無いとは思う。勿論確証は無いが。殺してもええなら、あの誘拐の時もう少しランボーにやると思う。坂本みたいに」

 片岡が坂本を見て少し笑いながら言い更に

「そして奪還に関しては最悪ランボー坂本に任せれば良いやろ。サイボーグすら倒せそうな奴にはうってつけだ」

「売れない芸人みたいに俺を呼ぶな。馬鹿」

「まぁ、それしか特徴ありませんしね」

ホホホと白雪は笑った。

「確かにお前らがいれば何とかなりそうな気はするな」

 森野は皆にお礼を言った。山下らはそれを見て公園の時よりはマシになったと思った。


「やっぱあったな」

 坂本はため息と共に西宮の家に取りついてるアンテナを見た。

「人の気配が感じられないけど。一応ピンポン鳴らしてみる?」

 山下は静寂としている家とメーターが回ってない電力量計を見て言った。じゃあと森野がピンポンと押したが何の反応もなかった。ただ虚しく音が家に響くだけだった。もう一度押しても同じだった。

「外食にでも…」

白雪が可能性を言ったが

「退院祝いでか。…この状況で楽観視は出来ないな」

神条が言った。何時もの陽気さは陰に潜めていた。

「そんな、深刻になるなよ。白雪さんの言う通り外食かもしれんし買い物にでも行ってるだけかもしれんし」

 でもと言う山下や坂本を押さえ森野は続けて

「とりあえず今日は解散しようぜ。夜も遅いし」

「…確かにそれが一番やな」

 片岡もそれに賛成した為皆それぞれ家に帰ることになった。誰もが深刻な事態になったと思いながら。

 家に帰ったあと森野は妹に西宮妹の様子を聞くと休みだったと言われた。更に疑惑が深まるが心配はさせない様になるべく普段通りに家で過ごした。ただ今日は何となく何時もより早く寝ることにした。

「明日は良い日だと良いな」

 そう言って就寝しようとした瞬間だった。突如スマホがブルブルと振動し音が鳴った。誰だろうと眠りを妨げ少し苛立ちながら身を起こしてスマホを見ると西宮桜花からだった。森野は急いで出た。苛立ちは消えていた。

「桜花か?大丈夫か」

最初は無言だったが暫したあと

「私は大丈夫」

そして一拍置いてから湯水が流れるように言い出した。

「…大丈夫だからもう心配しなくて良い。もう居ない物だと思って」

 森野にとって、到底受けいるの事は出来ない言葉だった。

「…あの宗教に何かされたのか?」

「…確かに私はその宗教に居る。でも自分の意思だから」

「何だよそれ」

「……」

何時もよりも西宮の無言の時間が多い。

「……私が宗教に居ることで……この町が平和に、皆が幸せになるの。これが一番正しいのそれに私がそれを望んだの」

普段の西宮とは、思えないぐらい感情の入った声だった。

「何言ってんだ!どういう」

 森野烈火は西宮桜花が好きである。そして短い付き合いでも無い。だから分かる。決して強要されている訳では無いと自分の意思で今話していると。力強くスマホを握っていたのがだんだん弱くなるのを感じる。そして何かを言おうとする前に普段通りのいや、

「もう話し掛けて来ないで。………迷惑だから」

何時もよりも細いまるで線香みたいな声だった。この言葉だけは嘘だと思った。

そして最後に

「さようなら。さようなら」

と言って電話が途切れた。森野は放心しながらも、もう一度電話したが西宮の声は聞こえず、女性の機械音声だけが永遠に同じ言葉を紡いでいた。


 結局眠れなかった。そして朝になった。

「おーい!お兄ちゃん起きろ遅刻するよ」

 可愛らしい声により森野は起きた。

「私より遅く起きるって久しぶりだね。疲れてるの?」

「たまには寝坊くらいするよ。起こしてくれサンキューな」

 ポンポンと妹の頭に手を置いた。

「じゃ早く着替えて来てね。朝食出来てるから」

 ういういと返事をして、ベットから気だるげな体を起き着替える事にした。森野は何時もの如く朝食を食べ準備をして学校に向かった。寝坊と言っても普段が早いため特に急ぐこと無く学校に向かった。

「おい。元気か?」

 後ろから話しかれられ振り向くと心配したような坂本と白雪がいた。あの西宮の電話のあと森野は坂本など友達に西宮から連絡があったとLINEで一応送っていた。

「寝坊する位には元気だよ。全く学校ってほんとだるいな」

 ふはぁーと大きなあくびと共に返した。

「なら良いけど」

「二人は元気ないな。朝までよろしくやってたんか」

 森野が半笑いで神条が言いそうな事を聞いてきた。

「…セクハラで訴えますわよ」

 ジト目で白雪に見られた。坂本はまだ気を遣っているのか何も言わなかった。

「神条ならセーフなのに俺はアウトなのか。差別だ男女差別だ。」

「残念だけど。私だからセーフで合って他の人は女でもアウトだぜ」

 勿論そう言ったのは、神条本人で有った。

「お前らは元気が良いな?朝までよろしくやってたんか?」

「今日はやってないな」

 片岡が返すとなぜか白雪の顔が少し赤くなり

「ハレンチですわ」

と言ったのでキョトンとした感じで片岡が

「桃鉄の何処がハレンチなんだよ?温泉か?」

「…純粋無垢なお嬢様の白雪様は朝までよろしくで何を考えたの」

 ニヤニヤし始めた。白雪姫から赤ずきんに進化した白雪は

「しゃもと、しゃかもと何とかしなさい」

と小さな暴君と化して命令を出した。それを見た坂本が

「な?もうそろそろ」

と筋肉を見せるように言うと森野と片岡は黙った。

(これはヤバそうやな)

と片岡は思ったが今どんな声をかけられても元気にさせられる自信がなくむしろ森野の性格的に逆に皆に気を遣って無理にテンションを挙げるのが見えていたので何も言えなかった。こうした微妙な空気のなか学校での一日が終わった。

 森野は、学校が終わり帰宅したら一段ともう良いやと投げ槍な気分になった。少しあの電話のあと宗教団体を調べてみたが録な情報は出なかった。もし桜花が自分の意思で宗教に入ったなら何も俺からは出来ること無いじゃないかと。自分もいい加減小学校の初恋を卒業して新しいステップにいくべきだ。どうせ脈は無かったんだしと。

(…世界ってのは、思ったより残酷だな)

 涙は幸いにも出なかった。寝て明日になればその感情は消えることを期待し今日の帰りは誰とも喋らず一人で帰った。片岡らが心配してくれていたが何て返したか記憶にはなかった。と言うか今日一日何をしたのかをまず覚えてなかった。気が付いたらもう深夜を回っていた。

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