第4話 後半
昨日一昨日と学校を休んだ連中の殆どは今日も休みだった。即ち霧島も西宮も。一部の生徒と間では、この休みに関して色々な噂が流れていた。先生達も何故休んているか詳しく知らないのかはっきりとしない休み理由しか説明してない為、この様な噂が流れるのは当然と言えた。曰く、流行り病が蔓延しているからである。曰く、いじめ問題による物である。曰く、集団で詐欺を行いバレた為である。曰く、その休みはある宗教団体が関わっているからである。僅か3日であるが、この様に様々な噂が流れていた。そして、これをただの噂で片付けるには、どこか学校全体の雰囲気も暗かった。ただ面白半分で言ってる人も居たには居たがその多くは、深刻そうな顔をして語っていた。そして坂本巧は、いつも以上に気を張って白雪姫乃の回りを警戒していた。それは、学校の雰囲気で決めただけでは無く、野生の勘かそれとも経験が判断したのか分からないが、学校だけで無くこの島全体にどこか変な空気が流れているのを感じ取っていた。真綿で首が閉められる様にこのままほっとくと取り返しの付かない事になりそうな。だから教室に入っても気を抜かなかった。最も普段とまるで変わらない雰囲気を出してはいるが。
「ん?なんか暗いな皆どうしたんだよ」
筋肉大好き系女子広川が教室に入ってきて能天気に言った。
「さぁーてな。皆生理でもなったのでは?」
クスクスともう一人能天気の神条が反応した。
「…でも神条。流石に私でもこれは違うってわかるぞ」
「てか、広川さんって生理来てるの?」
「こんな見た目でも第二次成長は来てるわ!おい片岡どうにかしろ。この女」
席に座ってまたまた能天気に眠そうにしていた片岡が
「こないなネタは炎上するから止めなさい」
とだけ言うと西宮の代わりの様に机に突っ伏した。
「そうだね。関係者各社に謝るのは嫌だから止めとくわ」
「何言ってるか分からんが止めるならそれで良いや」
と腹黒ペアーと広川だけはいつも通りだった。
「てか片岡。森野は?」
坂本が空席になっている森野と西宮両方の椅子を見ながら言った。
「知らんわー!そのうち来るやろ?」
眠そうな割りにテンションはなぜか高い片岡が突っ伏した顔を正面にして言った。
噂が人を呼ぶのか森野が、丁度教室に入ってきた。只でさえ暗い空気のクラスがもっと重くなったようだった。見るからにテンションが低そうだった。
ボーーとしたまま挨拶もせず席に座った。
「あれ?元気無いね」
「あ?山下か、面会禁止だって」
「不貞腐れてんな。何や手術でもすんのか?」
片岡が眠そうな目を擦りながら話に入ってきた。
「患者の安定の為に数日禁止だって」
「たった数日かよ」
呆れたように話を聞いていた坂本があくび混じりで言った。
「バカ野郎。数日だよ数日それだけ会わないとどうなるか。只でさえ入院してから余り会ってないのに」
早口で捲し立てられた。ムカついたからか坂本が一発森野烈火の顔面殴ったら鼻血がだらだら出てしまった。お前それでもギャグ世界の住人かよと坂本は勝手に思ったが。
「いや、お前は確実に格闘漫画やハリウッドの筋肉映画の住人だよ」
そう片岡が突っ込んだ瞬間森野は倒れ保健室行きになった。その様子を見て神条と広川の笑い声がクラスに響き渡りクラスも少し明るい雰囲気になった。
「もう昼だってのに顔面がヒリヒリする」
雑に鼻にティシュを詰められた森野が飯を食べながら言った。
「流石にやりすぎた。すまんすまん。」
ハハハと反省が見えない坂本にイラッとしながらもあの筋肉の前ではなにも言えず心の中で地団駄を踏んだ。
「はぁ。西宮に会いたいなぁ」
「お前さんそればっかりやな」
「なら暇潰しに美術室でも来たら?」
神条の提案に考え込んで
「まぁ気が乗ったらな」
と生返事だけをした。そして飯を食べ終えた森野は再び机と平行の形になった。
「じゃ美術室行きますか」
片岡が止まっている森野に声をかけ結局行くことになった。決して帰ろうとしたら神条から謎の目で見られこわくなって固まっていたのでは無いのである。
ただ西宮に会えなくてヤバイし時間が潰せるならどこでも良いやとの考えも森野には合った。
「てか急に入っても良いのか?」
「まぁ担任の先生とか居ないしええやろ」
美術室には、霧島を除くいつもの人たちが居た。
「あら?森野君じゃない」
同じ天文部の深浦が森野を見て反応した。
「おう!皆のヒーロー森野っちだぜ」
「森野っちカッコいい!レッツゴー」
森野は武勇伝でも語りそうなポーズをして言った。合いの手を居れたのは勿論片岡である。
「………」
「………」
一度見ている深浦はともかく初めて見た奇行に何も言えない美術部三人だった。
「やっぱ桜花が居ないとやる気でないな」
「確かにね。キレが全然だった」
後ろで見てた神条が言った。
「って事は桜花が居る時はいけてるって事か!」
「今のを1点とすると何時ものは1.35かな」
「少数まで出すんか」
「近似値だぜ」
無駄にどこぞのアイドルの様なポーズしながら神条は言った。森野や深浦は呆れていたが
「くそ可愛いな」
と片岡には好評だった。
「確かに片岡と神条さんの友人だけは有るな」
天月が言うと大島が反応したが
「そうだね。変人も変人だね」
「……変人度なら大島さんも負けてない気が」
「?!いくらなんでも酷いですよ」
ほっぺたを膨らませながら大島が言った。天月は心の中で死にそうになった。
「一つ言うとっけど俺はマトモや」
片岡が席に座りながら言った。森野も適当に空いているいつも皆が居るテーブルじゃない方の席に座りながら
「ほざけ。俺のがマトモだ」
と言うとあ?とキレながら片岡が後ろを向き森野と向かいあった。
「まぁ結論から言うと私が一番マトモだけどな♥️」
それはないとほぼ全員が突っ込んだ。
「……まぁそうかもしれん」
片岡だけはポツリと言って少し考え始めた。皆がそれを聞いてさらにあり得ないと思い、しばらく空気が動かなかったががしばらくして
「やっぱ変や」
と言った。
そして楽しそうに神条は笑った。本当に本当に。
そして皆が雑談しながら美術部らしい活動を行っているなか、片岡と森野は二人で喋っていた。するとふと森野がトイレに行くと立つと片岡も一緒に付いてきた。二人は廊下に出ると、やはり朝から漂っていた暗い雰囲気を感じられた。まだ学校に人は残っていたが、先週までの活気は無かった。
「なぁわざわざ付いてきてお前って神条と俺どっちが好きなの?」
「圧倒的に伊織やけど?。まぁ話があるんや」
長い付き合いだ。それだけで森野は合点がついた。
「…あの宗教についてか」
「せや。要点だけ言う。マテリアル教の胡散臭い教祖と西宮さんが実は…親戚関係なんや」
「………本当か」
森野はそれを聞いて驚いた。どう考えてもあんな怪しい宗教を作っている確実にやべぇ輩と西宮桜花が血が繋がっているとは思えないからだ。
「落ち着け。と言っても西宮の家自体は直接の関係は無い。ただ母方の親族ってだけや」
「………そうか」
森野は、一緒に帰った時宗教を見ていた事やクローゼットに入れられたお守りの記憶を思い出した。
「でも前桜花の家に行った時クローゼットの中にお守りが落ちてた。もしかして宗教に入ってるのか?」
クローゼット?片岡は疑問に思ったがそれを流して
「…多分入っては無いと思う。ただ影響は多少受けているかもしれん。そしてここからが本題や」
「まだ何かあるのかよ」
森野はゲンナリして言った。
「その教祖とやらは、幸せを操る事が出来るらしい。ほらやから宣伝してるやろ?この島が幸運の島なんは自分のお陰とか。その力が本当かどうかは置いといて少なくとも信者はそう思うとる。ただ最近は色々と失敗続きでな力が無くなりかけてると言われてるんや。そこで自分は引退して新しい誰かを後継者にして力を譲り渡したって事にでもして巻き返しを考えたんや。んで何故かここで白羽の矢がたったのが」
「桜花って訳か」
三流映画のパンフレットでも見ている気分だった。まずそもそも無くなりかけているってそんな夢みたいな、願ったら何でも叶うみたいな力なんて持っている訳無いだろと。そんな狂人の妄言に他人を巻き込むなと。それに何が幸せか。俺の西宮桜花をそんな目に合わせといて。
「そう言うこった。……ただ誘拐も失敗したし暫くは目立った動きはしないと思う。西宮さんを狙ったのも血の繋がりだけやしな。難しいと判断したら諦めるかもしれん」
前にあの宗教に感じた嫌悪感を越える感情が森野の脳内に宿った。今すぐにも頭を突き破って出てきそうだった。
「まぁそういう事や。話は取りあえず終わり。気付けてくれ。こっちも出来る限り色々してみるわ」
「ありがとな。二人とも気を遣わせちゃって」
美術室の帰り道に森野はお礼を言った。
「じゃ今度なんか奢りやな」
「奢りなら私下着が良いな」
森野はなんてリアクションすれば良いか分からなかった。色々と無茶だった。まず一人で女性下着に入れないし恋人でもないのに下着を送るって。てか恋人でも十分変態なのだが。あと片岡の感情はどうなのかと森野は思ったが突如新しい可能性を閃いた。あっそうか多分片岡がそう言うのが好きなんだ。他の男が選んだ下着を彼女が着ると興奮するそういう特殊なフェチなんだ。
「……森野一発殴るな?」
「てか実際下着売場に行くのは一人じゃ無くて森野と真だぜ?真が選んで森野が買う。あっ!流石に恥ずかしいから森野は見ないでよ」
二人は見たくもない未来を強制的に見せられた。そして顔を見合わせてると同時にダッシュした。これ以上この悪魔の妄想を聞きたくなかったからだ。クスクスクと背後から笑い声が聞こえる。
「やばい!全然声が離れん」
「これは振り替えったら敗けの奴だ。森野!前だけ見ろ」
結局暫くして神条の笑い声が聞こえなくなると心配になった片岡がチラッと後ろを振り向いた瞬間ガバーと押し倒されしまった。森野はそれを音だけで聞いて捕まったと判断した。だが無視してそのまま逃げた。
「片岡生きてたらまた明日な!神条はもう知らんー」
(ありがとな)
森野は心の中でもう一度二人にお礼をした。二人のお陰で寂しさを少しは癒すことができた。
「森野の様子可笑しかったけど良く考えればまだ1日西宮さんと合ってないだけじゃねーか」
「……休日とかどうしてるって話ですわね。…あそこまで愛されるとちょっとキモいですわ」
どれだけ悪いことをしたらここに住めるんだと言う位でかい家のリビングで白雪と坂本は喋っていた。愛されているの所でチラッと白雪は坂本の方を見たが特になんの感情も自分に示さなかったのを見て少しショックを受けたのは内緒である。
この朴念仁め。あんだけ愛されている西宮や神条が少しだけ羨ましく思った。
流石に次の日からはある程度の人が学校に来た。皆が心配して聞くと揃って風邪引いただけだからと返した。不自然な位皆機嫌が良くニコニコしていた。まるでもうすぐ良い事が起きるみたいに。不気味と言って良いかもしれなかった。勿論霧島も登校した。大島と深浦がそれに気づいて、他のクラスの席に座っている霧島に話しかけに行った。霧島だけは他の休んでいた連中とは違って明るい雰囲気は無く、思い詰められた様子だった。休みの理由を二人が聞いたら
「だ、大丈夫。風邪だよ。もう治ったし」
と無理にニコニコしながら答えた。
そして
「あっ!あ、あと今週はちょっと部活は行けない。ごめん」
と座っているのに頭を深々と下げて謝った。深浦は
「風邪とかは治りかけが肝心って言うからね。そうした方が良いかもね」
と言ったが
「折角霧島ちゃんと久しぶりに部活出来ると思ったのにデ~ス」
プーと大島は頬を膨らませていた。
「成瀬くんとかが心配してたから顔だけ出して行かないデ~スか?」
大島の提案に少し悩んで
「す、少しだけなら」
と霧島は答えた。
「そういえば霧島さん来たらしいよ」
「そうらしいな。大丈夫なのか?」
「昨日ラインに返信来たし大丈夫じゃなか?」
天月と成瀬は美術室で喋っていた。すると
「今日も疲れたデ~ス」
ガラガラと誰かが入ってきた。
「…大島さんまたなにかアニメ徹夜で見てたのか」
「フフフ今日の私は無敵デ~ス!」
なぜか無駄にくるくる動きながら席に座った。
「ついてこれんな。で霧島さんは?」
「顔だけは見せに来るって言ってましたデ~ス。一緒に部活出来なくて残念デ~スね。成瀬君」
なにやら暗黒面に落ちた顔でニヤニヤしながら言ってきた。
「あ?別にそ」
「顔に残念って書いてありま〜す」
全部言うよりも前に大島に被されてしまった。まだまだ猛攻は続く
「ほらほら素直に認めるデ~ス。霧島さんに会えなくて残念デ~スって」
「おい天月助けてくれ」
あの成瀬が珍しく人に助けたを求めたが天月はプププと笑いを堪えていた。
「……」
絶望した!昨日進められて読んだ漫画の影響かそれしか言葉は出てこなかった。
「絶望って私達って言うより霧島さんが来ない事にでしょデ~ス?」
遂にこれを終わらせる為成瀬は決心して
「はいはい。霧島さんが居なくて寂しいですよ。おいもうこれで良いか」
言ってから成瀬は右から物音が聞こえた。チラッとまさか霧島に聞かれたと思って見るとそこに居たのは……神条と片岡でした。
成瀬はそれを見て何も言えずただただ放心するばかりで神条はとても良い顔をしていた。そして天月がボソリと「まだ本人に聞かれた方がましだったな」と呟いた。
神条は無言でニヤニヤした顔をしながら席に座った。片手に持っていたスマホをこっちに見せてきた。録音画面だった。死にたいと成瀬は思った。いや多分死んだと
そして実は成瀬のあの告白は丁度美術部に向かっていた深浦と霧島の二人にもバッチリ聞かれてしまった。
「どうする?」
「教室入るのはも、もう少しだけあとで」
霧島は気持ち悪い笑顔が無くなり何時もみたいな慌てた顔に赤色がついていた。
「ハッハッハ暑いね。じゃもう少し冷めてから向かいますか」
と美術室からはちょっと離れた階段で待機する事にした。水筒から水を飲み少しは、落ち着き顔の赤色もとれた。
「そういや失礼かもしれないけど今日の笑顔より今の笑顔の方がよっぽど霧島さんらしくて良いと思うよ」
深浦がそう言った瞬間突如霧島は下を向きジーート固まった。そして
「…でも。幸せには」
と小声でかすれかすれ呟き再び顔を上げた時には完全に赤みが引いて真顔だった。深浦がごめんと謝ろうとした時
「ごめんね。もう時間帰らないと」
無理やり話を終わらせて下駄箱に向かって歩き始めた。
「気にさわったなら謝るよ。ごめんだから待って」
と言って追いかけ肩に手を付けて、止めようとしたが
「ごめん。離して」
といつもの霧島とは違ったトーンに驚いてしまった。何も出来ずただ後ろ姿を見送るだけになった。深浦は結局一人で美術室に向かった。そして入ってすぐ他の人に聞かれる前に
「霧島さんやっぱ用事で帰るって」
となるべく明るく言った。しかしこれまでの明るい雰囲気の美術室が少し暗くなった。
「仕方ない今日だけは成瀬くんに優しくするか」
神条が普段からかけ離れた優しい音色で言った。
「結構だ!」
成瀬は怒りの限界か大声で怒鳴ってしまった。
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