第4話 前半

 既に空は黄昏を迎えていた。春とは言えまだこの時間は少し寒い。しかしそれを吹き飛ばす程元気な森野ら六人はワイワイと今日は楽しかったなや西宮可愛い天使など適当に明日には忘れそうな内容を話ながら歩道を歩いていた。この歩道は人や車が滅多に通らなく危険が少ないと判断されてか車道との間にフェンスが無かった。そしてこの道を通る時西宮は、車道側を通っていた。

 だからここを狙ってきたのか。

 後ろから走ってきた一台の黒い車が六人の少し前に止まった。そしてそこを彼らが横切ろうとした瞬間扉が開き、先頭を歩いていた西宮の手を掴み車の中に入れようとした。まさしく一瞬の出来事だった。しかし咄嗟に森野はもう片方の西宮の手を持った。その為再び動き出した車に引っ張られてしまった。それでも彼女の手を離す訳には行かなかった。

 西宮を見て片岡と坂本は直ぐ反応した。坂本はすぐに追いかけようと走り片岡はスマホを取り出してどこかに連絡をとった。

「なんなんですの。あれは」

「お前らはここで待っとけ。おい片岡二人を頼む」

坂本は走りながら後ろを振り返らず言った。

(ヤバイヤバイ死ぬ)

森野は西宮の手を持ちながら何とか車相手に併走していたが徐々に車は加速していった。しかし人は居ないが市街地というのもあり余りスピードは出せてなかった。

「あぁん?なんだ」

車の中から声が聞こえる。

少し除くと中はキャンピングカーのように広く人が十分に立って居られる空間が広がっていた。

「余計なもんまでついてきやがった」

車の中には二人の男がいた。一人は西宮の手を持っていた。西宮は気絶しているのか静かに目を閉じていた。

「クソ」

森野は西宮の手を離さないまま懸命に走りながら吐き捨てた。車はスピードをあげていたが突然西宮を傷つけたくないのかだんだん遅くなった。

「これ以上手荒いマネはしたくないが。もう時間が無い」

西宮の手を持っている人が言った。するともう一人が

「桜花様の身柄さえ無事ならどうもして良いと言われてるだろ。それに、ここは俺らの教祖様のお陰で死なない町なんだ。少し乱暴になっても構わねぇよ。早くしないと手遅れになっちまう」

早口で言った。

すると一人が森野に向かって拳を振り下ろした。交わそうとしたがこんな状況の最中にそんな器用な真似は出来なかった。だから一か八か拳を顔面に受けた。そしてその瞬間に自分の空いている手でその男の腕を掴んだ。鼻からドロリとした熱い液体が流れたが気にしなかった。そして西宮から手を離し両手でその男の腕をガッチリと掴んだ。

「なにしやがる!」

森野は掴んだまま離さなかった。一方掴まれた男も落ちないように車の中にある柱を持った。それを見て車内の椅子を片方の手で掴み、そのまま地面を蹴って車内に乗り込んだ。

手を離した西宮はもう一人の男によって椅子に座らせられていた。車は市街地を抜けたからかスピードをあげ始めた。その為車内はかなり揺れてお互い立っているのがやっとだった。それゆえ誘拐犯二人と森野はにらみ合い状態になっていた。するともう一人が

「スピードをもう一回少し落とせ。奴を捨ててからいくぞ」

と言った。そしてゆっくりと地震が収まっていくなか一人が森野にパンチを仕掛けた。森野も同タイミングで殴りかかった。結果は相討ちだった。危うくまだ空いている扉から落ちる所だが何とか足に力を居れて踏みとどまった。

運転している奴が後ろを見て

「まだ!決着つかねぇのか」

と怒鳴った瞬間

ドーンと車がなにかに突っ込んだ音がした。森野がその衝撃でよろけながらもよく見るとなんと車が突っ込んでいた。完全に事故である。そして一人がその衝撃で倒れた。それを好機と見た森野は驚いている一人に一発パンチを食らわせると西宮を掴んで背負う形で既に止まっている車のドアから脱出した。

「大丈夫か?桜花!」

意識は無い様だが首に西宮の息が当たってた。それで生きていると判断出来た。何とか助かったと安堵の息を付いた。そして振り向くと西宮桜花を拐おうとした方の車は動かせるのを確認するとすぐに逃走を開始した。一方突っ込んだ車もそれを追いかけようと発進したが諦めたのが少し行った先で止まった。そしてしばらくすると坂本がこっちに走りながら聞いてきた。

「大丈夫か?」

しかし森野は医者では無い。気絶している西宮桜花かどんな状態かは分からず返事は出来なかった。

「なんとか間に合ったみたいだな」

少し遅れながら片岡も来て西宮と前がつぶれた車を見て言った。

するとその車から一人の男が出てきた。

「襲った車は逃走中です。追いますか?」

森野は誰に言っているかわからなかったが片岡が反応した。

「今はそっちよりこっちだ。…早く病院に」

そして少し待つとパトカーと救急車が来た。西宮は救急車に、森野達は事情を聞くため警察に同行する事になったが、ぶつかった車ら消えていった。片岡から小声であれと俺が知り合いって事は内緒でと言われた。

 西宮は救急車に自分の体が運ばれる時少しだけ意識が目覚めていた。

…本当にそうなった。森野がまた助けに来てくれた。あの時助けて欲しいと願ったから。

でもそのせいでまた傷つけてしまった。前は野球をやめて欲しいと願ったから……。

西宮は半分しか機能してない意識の中でそう感じた。

そしてある過去を思い出していた。

「…おじちゃん。どうすれば皆幸せになるのかな」

「安心してくれ。必ず私が皆を幸せにしてみせるから」

「うん。頑張ってね。おじちゃん。私も協力するから」


 警察からの事情聴取は、何時間もかかり森野烈火が家に帰れた時には、短い針は一番上を指していた。西宮は、あの後直ぐに目を覚ましたらしい。特に異常は見られたなかったが念には念を入れて少し入院する事になったらしい。腹も減っていたが食べる気も家族と会話する気も無かったので、家に帰ってすぐに布団に入ろうと自分の部屋に行こうとしたが、母親が風呂には入れと言われたので入る事にした。疲れた体にまた入れ直してくれたのか暖かいお湯と母親の優しさが染みた。ある程度は事情を知っているのか、特に深く聞かず風呂に入ったら家族は特に何も聞かなかった。暗く自分の匂いが染み付いた部屋に戻った。電気を付ける事すらせずベットに入って寝ようとした。そこでようやく一息をついた。

 そして森野は考え始めた。勿論今回の事件についてだ。あれは明らかに桜花を狙っていた。警察は、どう考えているかは分からないがあれは無差別では無いと確信を持って言えた。

(桜花がなにか巻き込まれるとしたら何だ。考えろ。あの美貌か。可愛いからな)

だがそんな雰囲気ではなかった。なら彼女が特別な才能持っててメチャクチャ頭が良いとか不思議な力を持った超能力とか?…あとは宇宙人とか?

(どこの三流小説だよ)

‥‥冗談は、置いといて一つだけ思い当たる事がある。あの宗教。そうマテリアル教だ。片岡がかなりヤバイと忠告をしてくれた。だが何故西宮桜花を襲ったのかはまでは全く分からなかった。

この後も考えたがなにも思い付かなかった。取り敢えずあの宗教が怪しいとだけを頭に残す事にした。そして突如襲ってきた眠気に逆らわず意識を離した。


 次の日やはり西宮桜花は休みだった。未だ入院中である。しかし退院の目処は付いているらしく何とか森野の気持ちは最悪の一段階上であった。今日はせっかくの月曜日で天文部があったが彼女が居ないのでサボろうとしたがそれを見つけた神条が片岡に捕まえるように命令され、無事に捕まってしまった。

「折角見舞いにでも行こうと考えていたのに」

とぶつくさ諦めきれずに言ってると

「なら一緒に行こうや」

と片岡が森野の服を押え逃げないようにしながら提案した。

「俺は一人で行きたいんだよ」

「お前一人だと西宮さんガッカリするだろ」

「なぁ自分の意見を他人借りて発表しないでくれる?」

「でも私が行くって決めた以上は強制だけどな」

最後は神条によって勝手に決められた。

非常に満足してないが神条には勝てないと体と心に染み付いている。結局一緒に向かう事になった。だが心の中ではいつか絶対出し抜いてやると心に決めた。

「私と戦うつもりならまず真に勝ってからじゃないと」

「心の中を読まないでくれませんか」

「俺は森野には勝てんよ」

なぜかドヤ顔で片岡は言った。

「ふーん。でも……じゃ今から二人戦え」

「もういいから早く行くぞ」

するとここまで黙っていた筋肉の塊が言った。

「坂ちゃん居たんだ」

「私もちゃんと居ますわよ?」

忘れんじゃねぇよと上品を捨てたお嬢様が言った。

「じゃ山下は?」

片岡が回りも見ながら言うので森野も確認して見るといつものメンバーで山下だけは居なかった。

「さっきまで居たので誘ったのですが天文部行くらしいですわ」

「だってよ他の天文部の皆さん」

坂本はこっちを見たが

「山下居ないと一年の男があいつだけになるしな」

「確かにそうだな」

ハハハと部活休むと言うのに悪ぶれる様子も無く笑ってた。

「この二人がこの程度で罪悪感覚える訳ないだろ」

クスクスと神条も笑って言った。勿論神条も天文部である。

「はぁ」

と坂本はそんな彼らを見てため息をついた。それにムカついた森野と片岡は

「「自分だけ常識人ぶってんじゃねぇーよ。ステロイド野郎」」

二人の馬鹿の声が揃った。


 西宮が入院している場所は、新しく出来たのにどこか古くさく陰湿な空気が漂っていた。そしてあっさりと見舞いは終わった。病院は学校からそこそこ距離があった。その為着いた頃には既に面会時間ギリギリですぐにお別れになったからだ。西宮桜花もいつも通り口数が少ない物のしっかりとツッコミもボケもして元気そうだった。最も西宮桜花に会えた喜びで暴走した森野烈火がギリギリまで粘って看護師に叱られてしまうという予想されたハプニングもあって片岡などがなぜ俺らも怒こられないと行けないのかとキレていたが何とか平穏に終わった。(神条だけは怒られるタイミングでどこかに抜け出していた)

「西宮ちゃん元気そうでなにより」

ようやく看護師から解放された所に神条は笑いながら言ってきた。帰り道夕日が照らしている。

「…神条さんは私達が叱られている時どこ行ってらしたの?」

「乙女には秘密が多いんだよ。なぁ真!」

「言うほど乙女か?」

「殺すぞ」

妙にドスの入ったいかにも大魔王な声に片岡は何か言おうとしたが諦めて黙った。

「なんであんなに察しが良いんだよ。いっつも都合悪くなると居なくなるよな」

坂本は疑問に思っていた事を聞くと

「今回は真のお陰だよ」

「なんかしたっけ?」

頭に?を片岡は浮かべていた。ふっと神条はそれを見て笑って言った。

「真はかなり森野を理解しているからな。あっち系かと思うくらい。だから今回粘って怒られるのもわかっていたのだよ」

「怖。えっとちょっと無理です」

ドン引きした森野が言うのを無視して片岡は呆れながら

「百歩譲ってそうやとして俺はなんも伊織には言ってないやん」

「てか譲ったら認めるんかよ」

ぼそっとその筋肉には似合わないぐらい小声のツッコミが来たが無視した。

「だって私は、真が考えている事は全部分かるからな」

「よくこんな恥ずかしい台詞言えますわね」

白雪はなぜか言った神条や言われた片岡よりも顔を赤くして言った。

「クスクスまだ純潔な乙女には早かったかな。でさぁ白雪ちゃんも少しは気付いてるでしょ?もう真は気付いてるみたいだけど」

突如神条伊織はシリアスを纏わせて言った。これまでの楽しい和やかな雰囲気から一転しシリアスなシーンになった。

「そう。実は私もまだ純潔な乙女と言うことに」

神条は歩くのも止め拳を握りしめ天にあげながらさながらどこかの世紀末覇者みたいな格好で言った。勿論丁重に無視されたが。

(…でも分かってますわ。何事も無いように見せかけて、西宮さんの元気が無い事。まぁあんな事が合ったんですもん仕方ないですわ)

そう白雪は考えていた。そして坂本と白雪の二人は

「んじゃ俺らはここで」

と別れて行き片岡と神条も

「今日は久しぶりに私の家でも来る?」

「あー普段は俺の家やしな」

と別れの挨拶も無しに別れていった。因みに片岡は一人暮しをしている。教えてもらってはいないが一人暮らしの理由と共に何となく森野は察しがついている。


 森野は人通りも無く明かりが薄れていってる道を一人とぼとぼと歩いた。すると前方に向かってくる集団が居た。四人程度の少し柄が悪そうな連中だ。あまり関わりたく無いと思っているとふと何か感じた。前に西宮桜花が誘拐されかけた時と同じような感覚がした。少し警戒しながらその集団の隣を通ろうとした時だった。警戒していて良かった。森野烈火は心の中でそう思った。一人が突然殴りかかってきたのだ。相手は不意打ちだと思っていたから少しだけ殴るスピードが遅くなんとか飼わす事に成功した。初動を交わせたらあとはこっちのもんだと、森野は一人心の中で考え、そして全力でUターンして、逆方向に駆け抜けた。取り敢えず人混みが多い国道方面に向かって逃げた。後ろから怒声が聞こえてる。

「何やってるんだ!これじゃ教祖様に顔向け出来ないだろ!」

教祖様かと森野は、これを聞きながら自分が前に考えていた予想が合っていると確信した。そして車や人通りが多い道に出ると彼らが追ってくるのを止めたのか。気配は感じられなくなった。意外とあっさりと追うのを止めた様だ。買物をする主婦や仕事帰りが営業中か分からないがスーツを着たサラリーマン風の人達など人通りが多い大通りを歩きながら考えた。今自分が襲われた事では無く桜花が元気無い事についてだ。ショックを受けているからと言うより他に何か理由が有ると勝手に推測を建てていたが仕方ないとは言え推測の粋から出ることは出来なかった。ただあの宗教と関わりがあると言うのだけが不安を煽った。

「駄目だ。わからん」

ついうっかり心の声が出てしまった。なるべく人が多そうな道を通ったからか少し遠回りになっていたが、なんとか家に付いていたらしく考え事を止めて無理にでも明るくいつも通りのキャラを作り家に帰っていった。

「お帰りだぜ!」と

襲われかけた事は一旦忘れる事にした。


本当にあれで正しかったのか………。

いや正しいに決まってる。教祖様の言うことは絶対の筈。

……こんな事考える時点で絶対じゃないって理解してる筈なのに。でも……


「今日は人が少ないな」

成瀬は美術室に入って言った。掃除のせいで少し遅れ、自分が最後だと思っていたのだが居るのは天月と大島だけだった。

その二人を見て俺はお邪魔虫かと思い帰ろうかと考えたが

「ほら、深浦さん達は今日は天文部があるから」

天月が聞いても無いのに人が居ない理由を説明した。それにより何となくタイミングを逃し帰るのを諦めそのまま座ることにした。

「ふーん。なら霧島さんは?天文部にでも入ったかのか」

「霧島ちゃんなら学校お休みしてたよ」

大島が絵を描きなから答えた。

「そういえば、俺らのクラスも休みが多かったよな」

天月にそう言われ成瀬は少し考えると確かに三人位は休んでいた気がする。

「私のクラスも霧島ちゃん以外にも一人いましたよ」

「なんか風邪か流行り病でも流行ってのかな?」

「…たまたま重なっただけだろ」

そう言いながらも不吉な雰囲気を成瀬は感じていた。


そして次の日も美術室に霧島の姿は無かった。

「2日続けて休みか何か有ったのか」

成瀬が言うと

「これが愛ってやつか」

「そーいや誰か連絡したんか?」

いつも通りめんどくさい事を聞いてくる神条の言葉を流して片岡が聞くと深浦が

「私と大島ちゃんがしたけど既読がつかないな」

「あれ?成瀬くんはしなかったのか?愛しの彼女に向かって」

「まだ言うか。してないわ」

「俺も一応したのに」

天月がもちろん返事はおろか既読すら付かなかったけどねと返した。そして皆から見られた。

「…なんで俺が薄情みたいな空気になってんだ?別に片岡も送ってないだろ」

「結構霧島さんを気にかけてたよな?なのに気にならないのか?」

幼馴染みの天月さえも言ってくる。神条と違って悪意が無いのが困る質問だった。

「いや気になるけどまだ2日だし」

「それとも霧島さんが休みの理由を知っているとかかか?」

片岡が椅子に座りスマホを弄りながら言ってきた。

「……確か風邪じゃなかったのか」

まるで見透かされた様な態度に成瀬は少し動揺しながら返すと

「いや流石詳しいどすな。…正直に言え!恥ずかしいからだと。この純情boyめ。」

神条が大笑いしながら言ってきた。絶対こいつは録な最後を迎えんと成瀬は思った。

「なら家にお見舞いでも行かない?」

大島が突如言った。

「こんな大人数でお邪魔しても良いのか?」

「なら別に女子陣が行けば良いんじゃないか」

成瀬の問いに大島が答えた。

「でも成瀬君は連れていきたいな。クスクス」

「なんでだよ!」

「じゃ私と片岡は待ってるわ。ちょっと用あるし」

結局成瀬の反対むなしく深浦と天月、成瀬、大島の四人で向かうことになった。


「………嫌な予感がするな」

片岡は皆が去った美術室で吐き捨てるように言った。予感と言いながらもまるで嫌な事が起きるのが確定とばかりに。

「うーん?カッコつけるのも良いけどここには私しか居ないぞ」

…丁重に無視する事にした。

「…なぁ知り合いの一人が誘拐されかけて今入院して、更にもう一人が学校に来てない。こんなヤバい状況で今カッコつけちゃったの?全く解決してないのに?」

………丁重に無視する事にした。涙はまだ出てない。


 霧島の身寄りの駅は学校近くの駅から六つ先にあった。駅もその周辺も人通りが少なく少し寂れた雰囲気を感じた。

「確か駅から近かったはずだよ」

「てか家の場所よく知ってるな」

「前そんな話したからね。ただここから詳しい所までは分からないな。……すまんもう少し調べてから行くべきだったかも。一応行くようには伝えたけど返事は無かったよ」

深浦が頬を書きながら困った様に言った。

「ならもう聞き込みとローラー作戦ですね」

何故か少しテンションが高い大島がそう言うが残りの三人はダルそうだった。

取りあえず男グループと女グループに別れて男は、ひたすら家の表札を見る係で女グループは、聞き込みを開始した。人通りが少ないとはいえ、時間も時間の為買い物袋を持っている人がポツンポツンではあるが存在していた。そしてあっさり情報は集まった。

「あら。お友達?霧島さんの家ならあそこだけど」

指した場所は駅からすぐ見える場所にある家だった。

ありがとうございますと女二人がお礼を言うとおばさんが

「あ、うんでも………いえ、なんでもないわ。じゃね」

意味ありげに言うと住宅街の方に消えていった。二人は若干何か引っかかったが取りあえず男二人と合流する事にした。

一方男二人は、霧島の家では無く一本隣の道の住宅街を歩いていた。

「なぁ成瀬」

適当に家の表札を見ながら天月が聞いた。

「なんだ」

「お前なんか霧島さんについて知ってないか?」

「藪から棒にどうした」

「……いや知らなかったら良いんだ」

再び二人は無言で連絡があるまで表札探しを始めた。


 四人は合流するとすぐに家に向かった。外見は普通の一軒家で表札にちゃんと霧島と書かれていた。少し一般の家と違うとしたら変なアンテナが屋根に着いている位だ。

「なんと言うか人の気配が無いな」

成瀬が家の雰囲気を見て言った。確かに生活音が一切しなかったし、何日も手入れされてないであろう花壇が置かれていた。

「とりあえずチャイム押してみるか」

ピンポーンと音はなったが、他に反応は無い。少し経ってもう一度押しても反応が無い。

「電気メーター見るに家に人は居なそうですね」

いつの間にチェックしていたのか大島が言った。

「なんか手慣れてるな」

ボソッと成瀬が呟いた。

「実際やったのは初めてですよ!」

「なら安心かとはならないよ。大島さん」

「深浦さんまで!」

「今はもう五時か。どっか病院でも行っているのかな?」

「うーーん?ちょっと家の中見てみましょうよ」

と言うと大島が堂々と無断で庭に入っていった。

「おい。警察の娘さん」

深浦が言葉で制止するが気にせず正しく自分の庭の様に進んでいった。

そして部屋が見える場所まで来ると

「あっ!」

と声をあげた。

外に居る皆が一斉に顔を見合わせた。そして天月が庭に入って、大島が居る場所に行った。

「えっとたいした事無いかも知れませんけど」

そして大島に促され、窓から家の中を見た。

家の中にはかなりのお札が貼られていた。

かなり不気味な光景だった。まともな人間であれば部屋から逃げ出したくなるくらいには。

二人はしばらく無言でその風景を見たあとどちらかともかく少し早歩きで庭から出た。誰かに見られるからと言うよりは例え庭でもこの家と同じ空間に居なくなった。そして外で待機していた二人の所まで戻ると部屋の中の説明をした。

「…たしか親父の仕事で見た気が。なんだったかな?」

「親父?」

「…確かに気になるが今じゃ無くて良いだろ」

成瀬の言葉に天月もすまんと謝りをいれて

「まぁ気になったから」

「あれ?変かな?」

「個性が合って良と思うよ」

と深浦が笑った。

「でもこっちはあまり笑える話では無さそうだね」

「そうだ!思い出しました。これ確か新興宗教のマテなんちゃら教です」

と大島が言った。

「確か駅とかで配ってたな。そういや今思い出せば霧島さんなにかお守りとか持ってた気がする」

成瀬はあまり重くならないように言った。

「不気味だね」

深浦が言うと他の人も何か嫌な気を感じた。それは、明らかに霧島の家から出ていた。そして時が経つに連れ不愉快感が増し空気が重くなっていく。そして皆が黙って更に時間だけが経った。

「でもどうする事もないよな」

天月が空気を壊すように突如言った。

「確かにそうですけど?でもここまで来てなにもしないと言うのは」

大島は首を捻りながら言ったが

「そうだね。でもこんなに他人の家を見るのも失礼だし。ここは一旦帰りましょう」

深浦がそう諫めた。それを受け大島も渋々納得し皆重い足取りで皆は家に帰る事になった。


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