第3話 後半

そうか今日も遊ぶ日かと成瀬は憂鬱な朝を迎えた。正直あまり気乗りはしなかった。普通に家出るのがダルいのもあったが、今回はそれだけでは無く昨日霧島と会った時に色々あったからだ。気持ちの整理がまだ出来て無い。だが行かないと言うのは選択肢には無かった。霧島に会いたいという気持ちも合ったし、一度約束した事を反故にはしたくなかった。その為体調が悪い時の様に重たい体を引きずって勉強机と参考書しか無い殺風景な部屋から出て、身支度を進めた。

 そして支度が終わって時間になっても成瀬は家のリビングでソファにでも座りながら待機していた。急に行く気が無くなった訳では無い。天月を待っているのだ。彼の事だ。自分が来ないのでは無いか考えて、家まで呼びに来るに決まっている。と少し待つことにした。自分から行くのは何か負けた気がして嫌だった。

思った通りピンポーンと音がなった。すると母親から天月くん来てるわよと言われたので鞄を持って外に出た。何時も通りお洒落を知らない格好をした天月が居た。

「この様子だと結構楽しみにしてたんだな」

開口一番悪友は少しニヤケ顔で言った。

「なぜ?」

苛立ちを隠せずに聞くと

「だって中学の時なんか無理矢理お前の母親と協力して家引っ張り出したのに今日は普通に外に出たからな」

成瀬はこんな事もあったなの思いだし昔の自分に少しだけ恥ずかしくなった。そして何が恥ずかしいと言うと対して変わってない所だ。

「流石にいちいち攻防すんのがめんどくさくなっただけだ」

ついツンデレみたいな台詞を言ってしまい内心ではかなり恥ずかしかった。こういう所である。

「その台詞銀髪の美少女が言ってくれれば最高なのにな」

「……なぁいい加減現実を見ろ。お前の美少女ってアニメのキャラだろ?」

無論と無駄に良い笑顔で返された。死ねば良いのにと成瀬は思った。そして二人はショッピングモールに向かって歩いて行った。

賑わっているショッピングモールにつくと既に待ち合わせの場所の一階にあるでかい時計台の近くに女性陣はいた。

「やっほー。元気?」

西浦が俺らを見つけて挨拶してくれた。他の3人も俺たちを見つけたようでこっちに向いた。

「えっと。こ、こんにちは」

控えめに霧島は挨拶した。

「蛙ピョコピョコ」

神条はいつも通りふざけてた。意味がわからん。

「ふふふ、イェーイこんにちはだぜー」

いつもの聞きなれた可愛らしい声から聞きなれない言葉が聞こえた。発したのは大島のはずだ二人はビックリしてお互い顔を見合わせた。

「なんか大島さんの声で神条さんみたいな事言ってる。えっと神条さん二回挨拶した?」

恐る恐る天月が聞くと神条より先に大島が言った。

「言ったのは私だぜ!私の顔忘れたのかだぜ」

「………どうしたの?」

「これはだめだ」

成瀬は何気ない感じで言ったが内心ではかなり驚いていた。

「天月さん徹夜するとこうなるらしい」

神条は楽しそうにクスクス笑ってる。

「イェーイ!」

確かによく見ると大島の目の下に隈が出来ているのが分かる。霧島はこのテンションについていかないのかもう疲れた顔をしていた。深浦と神条は逆に楽しそうにしている。

「何が原因で徹夜したの?」

天月が聞くと

「ふふふ、乙女の秘密を探るのは良くないぜ」

と大島は謎キャラで答えた。

「た、たしかアニメを見ててって」

変わって霧島が答えくれた。

「乙女関係無いじゃねぇか」

「まぁ良いでしょ」

なぜかは良い顔をしていたので成瀬は腹がたった。しかしアニメ見て性格変わるってアニメのキャラかと感じた。………やっぱり天月が好きになりそうだな。二次元から脱出するにはいい機会だ。

「てか片岡は?」

成瀬は気を取り直して聞くと

「女ばっかだから適当に一人で彷徨いてくるって」

「片岡ってそんな事気にするタイプやなんだ」

「甘いね天月君。真のそれはただの口実で本当は一人エロい本でも探しに行ったのだよ」

「相変わらず神条さんは酷いね」

深浦が流し目で神条を見ていった。

「じゃどこ行く?」

神条が言うと大島が

「本屋行きたいです!」

とぴょんぴょん跳ねて言った。

「……無視で良いの?」

「大丈夫だよ。天月君。真は私を絶対に見つけられるから」

「そんなヒロインみたいな台詞言ったって探す事になる原因は神条さんになると思うけど」

「ヒロインだと想ってたら実は黒幕!くぅー良いね最高の演出だね!」

言ってる大島の目は熱く燃えていた。

「じゃ本屋行くけど良いかな?」

「バッチグーやぜ」

 しかしショッピングモールは大きく神条以外は、ここに中々行かない為どこに本屋があるか分からなく少し歩いて探したが見つからなかった。そしてたら霧島が何処かからここの地図を貰ってきて本屋の場所を見つけて皆に教えた。

「最初から地図見れば良かったね」

深浦はハハハと苦笑いしながら言った。しかし大島は

「でも、こうやって探索するのも楽しいですよ!」

「ねぇ。いつになったらこのテンション終わるの?」

深浦は大島のテンションに苦笑いすら無くなっていた。

「えっと、ご、ごめんなさい。地図見ちゃって……」

「別に謝らなくて良いだろ。絶対早く見つけた方が良い」

「そーですよ!ただ気を紛らすためなんですから。探してた時間は無駄じゃ無いんだ!って言い訳する為の。霧島さんありがとね。さぁ早く行きましょ」

 しかしこうもキャラが変わるもんなのかと成瀬は頭を傾げた。流石にこれじゃ天月の奴も引くかもな。

そう思って悪友の顔を見るとなぜか良い顔をしていた。

………まぁいっか何でも、と成瀬は思考を放棄した。

 本屋に着くとあっと言う間に皆がバラバラに別れた。ショッピングモールに入っていながらも独立している本屋並みに大きく、漫画や小説は勿論各分野事の真面目な学術本に自己啓発本など様々な本が売っている。天月と大島は漫画の中でも更にコアな方に。霧島は少女漫画で深浦はお察しの通り男は余り近づきたくないタイプの場所にそして神条は意外にも経済系や社会系の頭の固い本が置いてある場所に向かった。成瀬はちらっと他の人の様子を確認したあと良い参考書を探す為それらが置いてあるコーナに向かった。


(流石大きいだけはある。見た事無いのが沢山置いてるな)

 成瀬は置いてあった参考書から適当に一つを取ってパラパラと見た。 ちょっと読んだ後またしっかりと後日来て選びに行こうと思っていると近くの怪しい社長やテレビでたまに見る芸能人の自己啓発系の本が置いてあるコーナが合った。そこに霧島が来ていた。そして一冊の本を見ていた。ここからだと何を見ているか分からなかったがわざわざ見るほどでは無いとまた参考書コーナーに目を戻ろうとすると。

「ふむ。霧島さんは熱心に何を見つめとるのか」

急に後ろから話しかけられて成瀬は驚いて声が出そうになってしまったが何とか押さえて

「別に気にならんわ。てか戻ったんだ。片岡さん」

「呼び捨てでええぜ。ほら手に取って見るなら分かるがじっと見つめんのはおかしいやろ」

確かにもう三分は、熱心に見つめている気がする。カップラーメンでも待っているのか。

「なぁ気になるやろ」

うーーむと成瀬は少し考えた。…………ここで昨日の事が頭によぎる。余り彼女の事情に首を突っ込みたくは無かった。

「おっとここに居たのかって片岡さんも来てたのか」

天月が俺らを探してたらしく少し慌てた感じで来た。

「おう。天月も呼び捨てでええよ。でなんのようや?」

「大島さんたちは、満足したらしくもうそろそろ別の所にでも行かないかだって」

「なるほど。でパシリにされた訳か。どうせ他の連中は探してないだろ?」

「………確かに探すとは言ってたけど場所はあんまり移動してないような」

天月はため息をついた。

「君はお人好しだからな。更に受動的な」

その成瀬の言葉を聞いてこれまで二人の会話に参加して来なかった片岡が

「なんかのラノベで書いてあったな、優しいって言うより甘い性格って奴やな」

「それだ。的確だな」

「扱い酷くないか?」

天月が抗議の声をあげたが無視された。

「てか、おいあれ見いや」

片岡がさっきまで霧島が居た場所を指すと女子陣が遠くから霧島を小声だが呼んでいた。それを聞いて霧島は慌てたように女子陣に駆けて行ってた。

「今、チャンスやな。行くだろう?成瀬くん」

「…何か隠したい物の可能性もあるし見るのは止めるべきだ」

 成瀬は少し動揺した態度だった。昨日の出来事から何となく見ていた本の予想が付いたからだ。そして片岡はそれを知ってか知らずか

「じゃ俺だけ見てくるわ」

と言った。

「はぁ…仕方ないな」

そして二人は一致したらしく少し待機してからさっきまで霧島が居たエリアに向かった。正直訳が分からない天月だったが、何となく遅れて付いて行くことにした。すると突然片岡が振り向いて

「せやけど甘いってのもええことやと思うぞ。ほんでも人の為にやっとるからな」

まぁ自主的に動ければもっと良いがなと笑いながら付け足した。少しだけ天月の心は軽くなった気がした。

そして

「この本や」

片岡がある本を見つけ言うと成瀬は隣のスポーツ選手の自伝の本を指差して

「こっちじゃなかったか」

と言ったが片岡は特に反応せずその本を手に取って呟いた。

「なるほど。これか」

 普段の軽いノリは消えて暗に最悪だと言ってる感じで呟いた。その本は新興宗教であるマテリアル教の教祖の本だった。天月は特別にこの宗教について知っている訳でも無い為片岡がなぜこの様子かは分からなかった。一方片岡もすぐに切り替え何事もなかったかのように

「この事は他の人に言うない方がええな。霧島さんにあらぬ誤解が生まれる可能性もあるしぃ」

そしてさっきまでとは違う軽い感じで言った。

「さて俺らも戻りますか」

そして成瀬が若干嫌な顔をしていたのを天月は見てしまった。


「いや、買った買った。満足も良い所だね」

ホクホク顔な深浦が言った。

「あ、うん。そうだね」

「だ、大丈夫ですか?」

遂に体力が無くなったのか急にテンションが落ちたのは大島だった。別にテンションが落ちたからと言っても一応は明るく振る舞っているが回りの人が心配になるほど焦心しきっていた。

「徹夜関係なくこれだけ短期間に回れば疲れると思うけどな」

比較的体力がある片岡もかなり疲れたららしく今はエベレーター近くのベンチで座っている。そして天月も成瀬もインドア派の為結構体力はヤバめだった。

ここまで回ったのは本屋、アニメショップ、別のアニメショップ、一応服屋、またアニメショップ、そしてゲーセンだった。もう満足とばかりに深浦が

「良い時間だしそろそろ帰りますか」

「そうだね。あっちも帰るらしいし」

神条は来たメールを確認して言った。

「なら神条さん達の友達に会いたーい!」

急に元気の出た大島が手を高らかに上げて言った。

「確かに。あの神条さんと友達の人は見てみたいな」

深浦も同意したが

「うーん?俺はあんまりかな。正直あんまり知らない人には」

天月は難色をしめ元々人見知りの霧島も

「う、うん私もあんまり」

と言って見事二つに別れたが再びスーパーハイテンションになった大島に逆らえる訳も無く結局会うことになった。その後神条がメールで適当に集合場所を決めた。


「しかしこんなに鶏肉や卵ばっかり買って遂に脳味噌まで筋肉にする気か」

森野は、坂本が買った筋肉に良い物しか入ってない買い物袋を見て言った。

「あら、既に筋肉じゃなくて?」

「確かにそうだっ……。

どゴーと吹っ飛ばされてしまった。割れ物注意な物でも無くても割れるぐらいの衝撃で地面に叩き潰された。

「なぜ俺だけ……」

最後の言葉を振り絞って森野は倒れた。何とか手に持っている荷物は無事だった。

「…返事が来た。入り口の所にいるって」

先程神条達に送ったメールの返信を西宮はみんなに伝えた。

「じゃ向かいますか」

白雪が言って三人は歩きだした。

そして一人痛みでまだ地面から立ち上がれない森野は

「これはこのまま放置のパターンですね。くそが」

と言った所でようやく西宮がため息と共に振り向いて

「…ほら、早く行くぞ」

と言ったのを聞くとなぜか痛みが治ってしまったので駆けつけてた。

「森野さんって意外とかまってさん?」

と白雪が言うと何が壺に入ったのかあの西宮がふふふと笑った。

「あら。珍しいですわね」

そして何とか追い付いた森野が

「しかし美術部の連中ってどんな感じだろうか」

「…まともの奴が良い。あの高校は変人しか居ない」

西宮が笑いを堪えながら呟いた。

「俺らのクラスも変人多いからな。広川さんや岡とかだな」

森野が口に出すと坂本がうげぇと顔をして。

「広川さんは確かに変人だ。ヤバイくらいの。普通初対面の人に筋肉見せてとか言うか?更に異性なのに」

「あら?満更でも無さそうに見えましたわ?」

うーーんと森野が思い出す仕草をしてピカンとひらめいて答えた。

「でもあの時一番満更そうだった白雪さんじゃなかったけ?」

「ふふふ。巧の筋肉は全て私を守る為の物ですから。そりゃ私の所有物を誉められたら嬉しいですわ」

お嬢様っぽさ全快で答えた白雪に対して坂本ははいはいわかりましたよと突っ込む気も起きないようだった。

「…でも実はあれ以降広川さんを少し警戒してたけど。そして広川さんがただの馬鹿だと知って安心していた」

と素敵情報を西宮が言った。

「ぶっ、ば、ば、馬鹿言わないで下さい。そんな訳ないのですのよ」

「うん。確かにツンデレキャラは似合わんな」

「う、うるさいですわ。この筋肉馬鹿!それはそれで腹がたちますわ!」

きぃーと白雪では無く赤リンゴになった白雪だったがハァーと落ち着いて小さく溜め息をついた。そして

「どうせ貴方は私に興味無いですからね」

本当に誰にも聞こえない声で呟いた。

 そして実は察しの良い西宮も心の中で溜め息をついた。乙女心を分かっていないこの馬鹿二人をどうしようかと考えたがまぁ良いやとめんどうなだけだしと結論を出し軽蔑した目で見るだけにした。

「来たね」

神条は遠目でもうるさい連中を見て言った。

「あれだけ遠くてもわかるんだ」

深浦が感心して言うと

「てか騒ぎすぎないかあれ?どっかのサーカスかよ」

「ふふふ私と真が入ったらこんなもんじゃないぞ」

静が好きな成瀬はあれには近付かんと決めた。絶対に

「おーい!」

向こうもこっちに気付いたようだ。坂本が体に似合う大声で言ったので神条も負けじと全く声を出さずにそれで居て大袈裟に口パクで返事をした。

「あぁん?聞こえねぇよ!」

「うるさいですわ。それより早く行きましょ」

四人は神条と片岡が待っている場所についた。

「?」

西宮はついてそうそう霧島の顔を眺めていた。

霧島は隠れるように深浦の後ろに隠れた。

「霧島さんの顔に何か付いてるかい?」

深浦が聞くとうーーんと考えたあと

「…どっかで見た気がする」

「いや、えっとお、おなじ学校だし見た事ぐらい」

ふむと西宮はまだ考えていた。

「てかなんで霧島さんそんな後ろにいるだ?」

成瀬が聞くと

「えっと、た、沢山の人がいて……」

とか細い声で言った。

そしてこの様子を見て坂本と白雪は

「山下より声が小さいな」

「こんなタイプは久しぶりに会いますわ」

と話していた。

「と言うわけで、これが俺らのクラスの奴らや」

「パッとみただけなのにキャラが濃いですね。胃もたれ起こしそう」

眠いのか目をしょぼしょぼさせながら大島が言うと

「でも美術部も負けてないけどな」

と神条は笑って答えた。

「じゃ今日はありがとな。また部活で」

片岡は美術部に挨拶した。美術部の連中は皆家がほどほどに遠くここから帰りは電車なのである。その為ここでお別れになった。

「てか森野元気ないなどうした?」

片岡と神条が美術部に別れを告げている間坂本が森野に聞くと

「うん?別になんでもないよ」

森野はそう言ったが明らかに様子が違ったがここからは何も推測できない為坂本はフーンとしか考えなかった。

片岡、神条と別れ美術部五人は最寄りの駅まで歩いてた。すると霧島は寄る所があるからと皆と分かれた。

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