第3話 前半

 やっと買い物デートの日だ!

 森野烈火は、この日の前日どころか約束をしたあの日から既にウキウキだった。朝も早く目が覚め四時には、完全に目が覚めていた。こんなに目覚めが良いのは久しぶりであった。

 だが流石に早すぎる。太陽でさえまだ起きかけで、自分の部屋には僅かな光しか入ってきて無い。約束の時間までは、まだかなりあった。テレビでも見ようにも今やっているのは、ニュースか通販番組位でニュースは前見て下らなく見る気も起きないし、通販番組も見た所でどうせ買えない為虚しいだけである。結局もう一眠りを選んだ。何時もは、またあの時の怪我の悪夢でも見るかと思うと寝る気にならないが今回はそんな夢を見るとは思えなかった。やはり再びベットで横になると、目が覚めたとは言え完全に眠気は消えた訳では無く意外とあっさり再び寝れた。

 そして再び時計が鳴るより前に起きた。時間は8時頃だった。部屋の暗闇は先程と比べて形見が狭そうだった。この時間なら良いかと判断した森野は、自分の部屋を出て目を覚まそうと少し冷たいシャワーを浴び身だしなみや髪の毛を整えた。と言ってもお洒落などはよく分からない為なるべく清潔感を出すのを少し意識した程度だった。


 集合の場所はここから歩いて十分位の公園である。その為待ち合わせの時間が一時なのを考えると十二時半に出れば余裕で間に合うのだが余りにも暇な為10時には家を出てしまった。途中誰も客が来ないくせに何故か売り切れ賞品が多いコンビニで色々物色それも飽きて三十分後には西宮の家についてしまった。そもそも集合場所が公園なのに何故彼女の家に行くかと言うと無論少しでも長く一緒に居る為である。こうした行動がクラスの女子からストーカーと呼ばれている所以だが西宮以外の女子の評価などどうでも良いため関係ないのである。しかし彼女の家に付いても特にやる事は思いつかなかった。一瞬時間を間違えたフリをして西宮を呼ぼうかと考えたが中々チャイムを押す決心はつかなかった。するとガチャと思いがけず扉が開いた。出てきたのは、西宮は西宮でも妹の方の恋歌の方だった。どこか遊びに行くのかそれとも普段からお洒落なのか姉とは真逆の女の子女の子してる服を着ていた。

「あれ?お兄ちゃんじゃないですか!お姉ちゃんに何か用事ですか」

 恋歌は森野の妹と同じ年で仲も良い。自堕落な姉桜花とは違い明るく活発であり森野に懐いていてお兄ちゃんと呼ばれているが、その度に姉からジーとした目で見られている。

「まぁそうだね」

と大分早くに来てしまった恥ずかしさもあり、適当に返すとなら呼んでくるーと言ってポニーテールを揺らしながら家に戻って行った。良い子である。

数分待っていると再び音が聞こえて扉を見ると

…………………無言で顔だけ扉から出して苦虫を噛み潰したよう表情をした西宮に睨まれた。無論姉の方である

「ハ、ハロー」

「…………………ハァ。…もう少し待て」

それだけ言って再び戻って行った。そして少し待つと、こそっと妹が出てきた。

「ごめんね。お姉ちゃんお洒落の途中だったみたい。もうお兄ちゃんとデートなら言ってよ。それなら前から色々私手伝ったのに」

「ハハハ。桜花はデートだと思ってないんだろ。他にも人が居るしな。はぁいつになったら付き合えるのか」

「あれ?お兄ちゃんが弱気な所初めて見ましたよ。でも大丈夫ですよ。祈ってれば願いは必ず叶いますから」

ガチャとまたしても扉が開いた。まだキツめの顔をしていた彼女が妹を呼びつけた。

「………余計な事言うな」

ぶーと妹はすごすご引き上げた。


 ぼーとただやる事もなくただ西宮桜花の事だけを考えて待っているともう何度目か分からない、ガチャという音がした。そこには普段通り顔は無表情だが服はいつもの制服では無く、白いワンピースだが、しかし少し厚めの服を来た西宮桜花がいた。

「どう?見違えたでしょお姉ちゃん。この服選……」

後ろにいた妹がペラペラと喋るが余計な事喋るなと言わんばかりに睨み付けた。 

 そして森野は意識無かった。自分の為にお洒落をしたかと思うと感動で魂が抜けてしまった。何とか魂を呼び覚ますと不振な目をした西宮桜花が顔を覗きこんでいた。

「……大丈夫か?」

「あぁ大丈夫。ちょっと意識が」

「……そうか」

何だか少し残念そうな西宮桜花だったが森野は女心を理解出来ないのでよく分からなかったが妹が

「もう!ここは誉めないと」

と言って初めて気付いた。

「あっ。えっと。めっちゃゃゃ可愛い。普段の制服も可愛いんだけど、この服も死ぬほどってか一回死んだんだけど。てか似合わない服なんて無いけどまじで最高。結婚してください。愛すのはその後では良いので」

「お兄さん!なに言ってるか分かりませんよ。でも……」

にやーと笑って

じゃ私はと元気に慌てて駆けて行った。西宮桜花は真顔だったが顔は少し赤らめていた。

「………」

「俺たちも行くか」

 まだ待ち合わせの時間までかなりある。だがもしここでまだ時間あるとバレてしまうと帰ってしまうと森野は考えて、取り合えず早めに西宮の家から離れようと考えた。何なら公園で一時まで二人っきりで会話してたい。

「まだ十一時も回ってない」

バレてた。当たり前である。既に呆れるのには慣れたのか表情一つ変えずに

「……ハァ。飯食べてないだろ?」

「大丈夫だぜ。まだ腹減ってないから」

「取り合えず家に。今なら親居ないし」

「ん?」

一瞬森野は幻聴を聞いた気がした。自分が常に聞きたいと思っていた言葉が聞こえたからだ。ただ想像はしていなかったが。

「……早く」

といつの間にか玄関から家に戻っていた西宮が言ったので言葉通り着いていった。


 森野はかなりの緊張をしていた。理由は勿論一つしか無い好きな人の部屋にいるからである。

(ガキじゃあるましい)

と思ってもやはり緊張は収まらなかった。

 そもそも部屋に入った瞬間から何かもう滅茶良い匂いがして、気を付けないと暴走しそうだった。そして西宮は、なんか持ってくると言って今部屋に居ない。

(今ならベッドに寝転がってもバレないのでは?)

そう思うとベットから目が離さなくなった。心の中では理性と性欲の争いが続いてる。

「……なにやってんだ」

ドスの聞いた声を後ろから急に聞こえ、ひゃーと森野は慌てて取り繕えようとした。

「いや、あのちょっとムラムラし間違えたメラメラして」

が出来なかった。

「……まぁ良いから座れ」

 全てを見通している西宮は冷静に言った。森野は肝が冷えながらもベッドでは無く直に地面に座った。彼女は少し歩きベッドに座って近くの小型机の上に持ってきた飲み物とお菓子を置いて言った。

「あんま食べるなよ。後で飯作るから」

それを聞くと森野は、ブブブと飲み物を飲んでいないのに吐き出してしまった。

「……きたない」

「ごめん。でもまじで作ってくれんの?」

無言でコクリと頷いた。ふぅゥーーとこれはヤバイと森野は思った。明日死ぬんじゃねぇか。もしここが自分の部屋なら小躍りでも始める所だった。何とかテンションを何とか押さえようと別の会話に持っていこうとした。

「しかし部屋に入るのは始めてだな」

「……あんまりジロジロ見るな」

部屋の中は綺麗に片付いており小さい机、二段ベットの他にテレビやタンスに勉強机が二つあった。

「意外にも可愛らしい物も置いてるんだな」

森野はテレビの横に置かれた熊のぬいぐるみなどを見て言うと

「……意外?」

「でもそういうギャップも悪くないてか大好物」

「……妹のだけど」

ズゴーと昭和のギャグみたいに転んだ。

「フフ」

西宮は少し笑った。その笑顔を見るだけで世の中の憂鬱が無くなるのを感じた。

「相変わらず可愛いな」

何回言われても流石に慣れないのか少し顔を赤らめそっぽも向きながら

「………うるさい」

と一言だけ伝えた。

昼飯を作る為に西宮が立ち上がった。その時下から物音が聞こえた。そして

「ただいま」

と西宮のお母さんの声が聞こえた。それを聞いて森野は呑気に挨拶でもしようと思っていると西宮が

「………隠れて」

と言って無理矢理森野を立たせてクローゼットに仕舞おうとした。

「痛い!痛い」

「………黙れ」

 クローゼットの中は森野一人がようやく入れる位狭く収納ケースなどが置かれていた。そして閉められると薄暗い暗闇で隙間から僅かに光が射し込む程度しか明かりは無かった。そして良い匂いがした。ごさっと足に何か当たったが暗くて見ようとしてもよく分からなかった。

(やばいこれはやばい色々な意味で)

濃厚な西宮匂いが凄く気を抜くと鼻血が出そうだと思っているとガチャと音がした。多分母親が部屋に入って来たのだろう。

「…母さん。今日用事では?」

「いやぁね。ちょっと集金忘れちゃって。そう言えばあの件考えてる?別に無理には言わないけど。ただ話だけは聞いてあげて。ほらおじちゃんと仲良かったでしょ?」

「………」

なんの話をしているか分からなかったが西宮の返事が、小さく聞こえなかった。

 そしてそんな彼女の声に釣られたか母親の声も小さくなりこれ以上は、森野には聞こえなかった。そして彼は暇なのでぼーとしていると目が少し暗闇に慣れてきて少しだけクローゼット内が見えるようになった。すると右下に置かれている小さめの収納ケースが気になり、チラッと見ると半開きになっているのが見えた。そしてそこから微かに白い布みたいなのがはみだしてた。

(もしかしてこれは!)

森野は凝視するとだんだんとそれが見えてきた。そして確信した。あれはパンツだと。

(やばい!)

 そして森野の中でパンツを見るか見ないかで天使と悪魔の戦いが始まった。分裂しそうだった。抗うつ剤でも打って気分を落ち着かせたかった。そして戦いは悪魔の圧勝だった。罪悪感を感じながら改めて凝視しようとすると先程から下に落ちている物に目が向いた。先程足に当たった物である。その時は見えなかったが今見ると何か分かった。それはお守りだった。そして急に世界が明るくなった。開かれた扉から西宮桜花が居た。

「………もう大丈夫」

何時の間にか母親は去ったようだ。

「そうか」

森野は少し残念そうに言うと西宮がふとクローゼットの中を見て

「………」

無言で飛び出している収納ケースを見てそれをしまった。

「決して見てない!」

森野は慌てて言ったが西宮は首を捻って

「……別に構わないが」

「まじで!」

と再び鼻血が出るぐらい喜んで見ようとしたが

「君は只のタオルにも興奮するのか」

「……………俺の葛藤は何だったのか」

 はぁーと森野は落ち込むふりをしながらもう一度明るくなった隙にお守りらしき物を完全に認識した。どこかで見た気がした。何とか記憶を辿ると前見たなんちゃら教とやらがこのお守りを配っていたのを思い出した。色々な疑問が駆け巡った。

………………しかし今はそれを頭の片隅に追いやった。

「で、お手料理のお話なんですけど…?」

まだ物乞いの方がプライドが残っている程下手に出て聞いたが

「………めんどくさくなったから無し。食べにでも行こう」

「………分かった」

森野烈火愛しのあの娘の手料理ボッシュート


 結局森野と西宮の2人は創作しすぎた結果パスタとかうどんとかが出てくる訳の分からなくなった中華料理の店で腹を膨らませ待ち合わせの場所に到着した。

 すでに待ち合わせの五分前なのに皆が集合してた。

白雪は名前とは違って白い服では無く黒色のコートを着ていた。今は真冬の季節かと思わせる服装だったが彼女は昔から寒がりらしく既にその事を知っていた為改めて皆何も思わなかった。神条は普通の飾り気も無いコンビニに行くときの様なラフなtシャツとズボンに4月の為か一応の防寒対策に上に一枚羽織っていた。しかし西宮でもおしゃれを多少はして来ているのに全く普段通りと言うかむしろ制服のがおしゃれに見える服装である。tシャツに書かれている月夜はおよしよっ文字が更にそのダサさに拍車をかけている。

そして野郎の格好はどうでも良い為カットである。特にお洒落でも無いし。

「さて行こうか」

 いつも通り神条の先導で今回の目的地である大型のショッピングモールに向かった。そこは休日は子供連れの家族やカップルで平日は学校帰りの大学生や高校生に主婦で常に賑わっていた。と言ってもこの島にショッピングモールなんてここともう一つの二つしかない為自然に人が集まるのだ。待ち合わせからショッピングモールは少し歩くも特に何事も無く着いた。そして大きめの専用駐車場を渡りショッピングモールの中に入っていった。

 分かっていたが人混みで溢れた店内だった。気温も外より暖かくなっており歩いて少しだけ汗をかいた森野には少し暑いくらいだった。入って直ぐに自転車店がありその先には、カフェやクリーニングの店など統一性もなく色んな店で溢れていた。

「相変わらず混んでますわね。で神条さん何が目的なのですか?」

「そりゃ買い物だよ。ショッピングモールなんだから」

「何買うって話でしょ」

森野がやれやれと言うと

「今のうちに言うたるけどあそこは駄目やぞ」

片岡の顔は絶対という意思と恐怖が読み取れた。

「何があったんだよ。まぁアイツ関係だろうな。ドンマイ」

坂本が片岡の肩を何度も叩いて慰めているが端から見ているとかなり痛そうである。

「はぁ。前な伊織の奴に下着売り場に連れていかれたんだよ」

十字を持って丘に登ってるかの様に苦悶に満ちた顔をして言った。

「あん時の他の人の目。あと下着売り場のカップルのイチャイチャ具合なんだあれただの前戯じゃねぇーか」

(………君らも旗から見たらカップルにしか)

西宮はそう思ったが口に出すのすら億劫だった為発言はしなかった。

「本当に大変だったな」

もう一回改めて坂本が慰めた。本来なら只の惚気話止めろとなるかもしれないが相手が神条だと考えると明らかに片岡に対する嫌がらせでしか無いと坂本は思ったからだ。実際も確かに嫌がらせに近い何かではある。しかしやはり嫌がらせだけで無く、嫌がらせに近い何かであるだけに神条伊織の単純ならざる、いやある意味単純な精神構造が分かる。

「さて、じゃ下着売り場行くか」

だが流石大魔王ぶれない。

「は?俺も嫌だぞ」

「でも桜花ちゃんがどんな下着穿くか分かるかもよ?」

グググーと地震が森野の下だけ来たみたいに揺れた。それは暫く続いた。彼は考えた。もしこれに賛同するとさっきの下着をタオルに見間違えるを合わせて俺の株は大恐慌になる。それは避けなといけない。なんとか渾身の力で止まって言った。

「いや、遠慮しときます」

機械みたいな声だが何とか絞り出した。

「もう素直に知りたいって言った方がまだマシなレベルやなそれ」

「うるせぇな。実際に行った変態には言われたくないわ」

「行きたくて行った訳じゃないわい」

「てか、下着売り場なんて私たちが嫌ですわ」

「………うん」

 男子は勿論他の女子も反対だった。神条も冗談だったのかあまり無理には言わず結局下着売り場は無しになり適当に服を見ながら回る事になった。


「うーん。結構買いましたわね」

「………良かった」

「下着も見たかったのになぁ」

「それは女だけの時にしますわよ」

 女三人の楽しそうな文字通り姦しい声がする。それとは対照的に男性陣は色んな店を回されるや買った荷物を持たされるはで疲労困憊だった。最初は坂本だけが白雪の荷物を持たされていたが、それを見た神条に片岡は荷物を任された。そして持たされてない唯一の男子になった森野は神条から酷い男と言われたのと、西宮に良い所を見せる為に結局持つことになり、男全員がそうなったのである。まぁ西宮は、あんまり買わない為他の二人に比べたら楽だった。

「なんであんな体力あるんだよ。桜花とか体力無いって言ってたのに。元野球部の俺たちはかなり疲れてんのに」

「まぁ俺はまだ余裕だけどな」

坂本だけは精神的には疲れているが肉体は大丈夫そうだった。

そんな男性陣を見て

「どこか休憩しますか。男ども疲れていますし」

「………なら、あそこで良いか」

白雪の提案に西宮がたまたま近くにあったお洒落なカフェを見て言った。すると

「あんなお洒落な場所に行ったら、蕁麻疹が出て死んでまうわ。他の場所は無いんか?」

と片岡がまたしても苦渋な顔で言った。

「たしかこのショッピングモールにカフェはここだけだったはず?あとは普通の飲食店で気軽には入りったりは」

神条が顔を上にあげ思い出すように言った。

「まじっすか」

「ならここで決まりですわね」

白雪は店に向かって歩いて行った。それに他の連中も付いて行こうとしたが、あまりにも行きたくなさそうな片岡に対して見かねた神条が

「仕方ないな。じゃ一緒に他の場所でも行くか。そろそろ時間だし」

と提案すると片岡は飛び付いた。

「じゃ私達は二人で下着売り場でも見とくわ。あと前言ったけどそろそろあっちの方にも顔出さないと行けないし」

「下着売り場よりは、カフェのがだいぶマシやな」

そう言い合いながら二人だけでどっか行った。他の人は何も言えないぐらいの早業だった。

「うーん?あの二人楽しそうですわね」

「………仲良し」

 そして四人はカフェに入っていった。全国で展開しているチェーン店で落ち着いた、片岡が言う様にお洒落な雰囲気を漂わせて居るが、どこか浮わついたチャラチャラした人達やパソコン片手に黙々と何か作業しているサラリーマン風の人が居たり色んなタイプの人がいた。まるで中学校みたいだった。

四人は適当にその辺の空いてる席に座った。

「うーん?迷いますわね。何にしましょうか」

白雪はメニューを手にとって考えた。隣に座った坂本もそれを一緒に見ようと隣に少し寄った。

「俺は普通にコーヒーで良いわ」

「近いですわよ」

「本当に嫌そうに言うな。ここは赤面とかのが良いぞお嬢様」

坂本はやれやれとばかりに少し離れた。

 一方それを見てた森野は同じくメニューを見てる西宮にそれをやろうと近づいたが

「……どうぞ。私は決めた」

メニューを渡されてしまった。あまりの早業だった。

「あら?何にしましたの?」

「……いつも通り」

「あなたそれしか頼みませんね。あの名前がわけわからない奴でしょ」

 白雪は持っていたメニューを見てこれこれと指を指した。名前はフルコースのフランス料理並みに長い名前がついていた。写真を見る限りコーヒーの上に生クリームが載っている感じの奴だった。慣れてない森野は名前のどこからコーヒー要素、生クリーム要素に別れているのか、全く分からなかった。

「てか、結構来てんのこの店?」

森野はあまりにも手慣れた感じだった西宮に聞くと

「たまに神条と白雪と来る」

「…俺が誘っても遊ばない癖にか」

「……君と遊ぶと疲れる」

ここが店内じゃ無かったら地面に膝をついてた。

「って事は森野の奴と遊ぶの自体は良いのか」

ここまで黙って話を聞いていた坂本の発言にこくりと西宮は頷いた。それを聞いた瞬間に

「それって俺が好きって事か!」

静かな店内に声が響いたがそんなのは、気にならなかった。一斉に目線がこっちに向いたが元々注目を浴びているのは慣れている連中の為あまり気にならなかった。

「あらあら。私達人気者ですわね」

むしろ逆に注目を浴びるのが好きなのか白雪がクスクス笑っていた位だった。

「……………」

そして森野は西宮の冷たい視線によって再びノックアウトしていた。

 そしてその中だと圧倒的に常識人な(見た目は一番ヤバイ奴だが)坂本は一人ため息をついた。ようやく周りの注目も収まった所で森野も頼む物を決めて注文しようとした時チャリーンと音がした。

「誰か小銭でも落としたか?」

「あ、すまん多分俺のスマホの音だ」

森野はポッケに仕舞っていたスマホを出して確認した。

「…前から言おうとしてたけどその音は無い」

西宮から言われた為森野は速やかに可及的に音を変えようと考えた。スマホは片岡からだった。時間があれだから美術部の集まりの方に合流するといった内容だった。既に片岡からその事を聞いていた森野は了解と飾り気の無い返事だけ返して言った。

「で何だった?まぁどうせ糞見てぇなスパムメールだろ?エロいの見てるから来るんだよ」

坂本が大きく筋肉を揺らして笑った。

「あら、貴方は見てないの?」

「当たり前だろ」

否定はしたが白雪の顔は見ようとはしなかった。

「………見てるの?」

一方こっちも筋肉バカのいらぬ嘘のせいであらぬ誤解が生まれていた。そもそも森野が興奮するのは西宮だけである。

「見るかそんなもん。片岡達が向こうと合流するから一旦抜けるってのとまた帰りに会おうって」

「あらそうですの。もうそんな時間ですの。さて私達は次何します?」

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