第2話 後半

「おはよう」

「ん」

 森野は今朝少しだけ起きるのが遅れてしまった。昨日から胸騒ぎか収まらず寝付きが悪かったからだ。高校に入る前は野球が出来ない悲しみで寝付きが悪い時もあったが、最近は寝付き自体は悪くない。遅れたと言っても学校には普通に間に合う時間ではあるが、慌てて準備して学校に向かい始めた。すると本来なら西宮はもう学校に付いていてもおかしくない時間だがなぜか学校の途中にいた。

「待っててくれたのかありがと」

「…先に行ったと思ってた」

いつものように照れたりもせず真顔で森野は言った

「冗談を俺が桜花を置いてくわけない」

そんな彼を見て

「………流石にきもい」

と会心の一撃を放った。しかし無駄にヒットポイントが多くRPGの弱い癖にしぶといという一番うざいタイプの中ボスみたいな森野はこの攻撃を受けてもまだ元気だった。

「相変わらず厳しいですわね」

「全くな」

「……白雪か。おはよう」

と後ろを振り向いて挨拶した。

「俺は無視かよ」

白雪の隣にいた坂本が講義するが西宮はチラッとだけみて

「………」

「まじで無視かよ!」

「うるさいですわ。下僕」

あの筋肉の塊が小さく見えた。

「…君だけには厳しいって言われたくない」

「全くだ。愛を感じない。愛を」

うんうんと森野は適当に同意すると

「うるさいですわ」

「…………」

なんと女子二人から睨まれてしまった。

 そんな四人でギャギャ言いながら歩いて無駄に校舎から遠い校門に着くと後ろから声をかけられた。

「よっ元気?」

「おはようさん」

腹黒ペアーだった。

「二人は仲良さそうで良いな。俺も……でもああはなりたくないな」

森野の言う通り片岡が少しイラつきながら言った。

「どういう意味や」

「そのままだぜ」

「フフフ、死ぬ覚悟は出来てるようだな。やっちゃえ真」

「やだ」

「やんないとあの事言うよ」

「森野よ。お前と戦うとは夢にも思わんかったで」

「俺は予想していたぜ。お前と戦うならあの女が原因だと」

 本来平和なはずの通学路に唐突に濃厚な死の臭いがたちこめる。まるで太平洋戦争や独ソ戦の様に、関わるだけで人が死ぬ様な。そしてどちらが言ったのかいざ、勝負と声と共に殴り合いが始まったと思った瞬間ぐぎぇぇとクレーン車で家を壊すような音と共に突如片岡がぶっ飛ばされた。

「お前らうるさい」

 勿論そんな事をやれるのは全身筋肉坂本しか居ない。森野はすぐに土下座の体勢になって言った。既に校門の前の為、クスクスと曖昧で無知な学生がこっちを見て笑っているかドン引きしているが気にせず

「悪いのは全てあの悪の大魔王の手先の片岡でございます。どうかお許し下」

が、既に遅くぎくぐぇぇと全部言う前に再び吹っ飛ばされてしまった。

「もしかして悪の大魔王って私の事か?」

なぜかウキウキの神条を見て、はぁと溜め息と共に白雪が

「貴女以外誰が居ますのよ」

と言ったが悪の大魔王は世界を征服したかの様にクスクスしているだけだった。



 そしてそんな校門の前で繰り広げられている騒がしくも当たり前になってきた風景を遠くで眺めてる人がいた。

(………)

すると考え事したせいかドサッと人にぶつかってしまっ。

「あ、あのすいません」

「ん?あっこっちもすまんって霧島さんか」

「えっ」

と自分の名前を言われて霧島は慌ててぶつかった人を確認すると成瀬だった。

「大丈夫か?…しかしあれの片割れって片岡だよな」

「えっうん大丈夫。…多分」

まじまじと成瀬はあの騒ぎを見つめていた。

「…楽しそうだな」

少しだけ羨ましそうに言うと

「私もあんな風に…」

ボソッと霧島がなにかを小さな声で呟いた。

「なんか言ったか?」

「いや……何でもないよ!」

いつもより大きい声をだしてしまった。

「…そうか」

成瀬も驚き回りの人も少しちらっと霧島を見た。ぽーと顔が赤くなった。

「そ、そういえば放課後なんだけど暇ありますか?」

突然のお誘いに成瀬は心臓が飛び出るかと思ったが無理やり押さえつけて平常心で

「別に美術部行くぐらいだが。」

「なら…。」

二人はまるで付き合いたての初々しい恋人のような感じだった。完全に色々変な方向言ってる森野と愉快な仲間達とは違って


「ふはぁ~。よく寝たぜ」

 今日は体育の授業が有ったお陰で何とか午前の授業は起きれたが昼飯を食べると眠くなってしまい、結局いつも通りテロリストをやっつけているといつの間にか授業が終わったらしく帰りのstになってた。森野はこっそりと隣の席の愛しの彼女に話しかけた。

「さて今日もこれ終わったら天文部いくか」

「……前の話聞いてた?」

ジト目で聞かれた。可愛い。

「アホか。こいつが話を聞くわけないやろ」

と片岡が後ろから適当なノートで森野の頭を叩きながら失礼な事をほざいた。

「あぁん?聞いてたわ。あれだろ俺と桜花がラブラブだっめ」

ドン!といつの間にか手に持っていた英語辞典を胸に投げつけられた。もう少し上だったら顔面にストライクだった。

「ぬぉぉぉいってぇぇ」

胸を押さえてhrを無視して森野は叫んだ。

「やれやれ。また森野か。ラブラブなのは結構じゃがもう少しで終わりだから待て」

 hrを邪魔された先生が呆れながら言うとクラスの笑い声が響いた。特に森野と西宮の後ろのあの馬鹿二人が特に笑っていた。

そして西宮はギーとこっちを目を開いて睨み付けていた。

怖い。でも投げたのは向こうなのに。

「ハイハイ。今日はこれで終わりじゃ。お疲れ」

と先生の合図で皆それぞれ帰ったり友達の所に向かった。また何人かは当番で掃除を始めた。

そして未だに神条は笑っていた。

「で聞いてないって何の話だよ」

森野は唯一まともな山倉に聞くと

「多分。天文部の事だよ。活動日月曜だけって話」

がーんと森野はショックを受け倒れた。  

「折角授業終わっても西宮と一緒にいれると言うのに」

「おい心の声が漏れとるぞ」

 坂本がいつの間にか居たのかド突きながら言った。本人はツッコミの感じだがあの筋肉があるからすげぇ痛かった。こいつ絶対痛い目合わせてやる。

「普通に帰りどっか誘えば良いだろ?」

前後撤回感謝しかない。非常に有意義なアドバイスをくれた。

「なら今日遊びに行こうぜ」

「学校で疲れた。無理」

一刀両断だった。森野は悲しみに包まれた。あと怒りに。怒りは西宮に対してでは無く後ろで笑っているあのペアーに対してだが。

「なら」

クスクスと笑いが収まったあと神条が提案した。

「今度の休日皆で遊ばないかい?具体的にはショッピングモールに買い物でも」

「あら良いですわね。ねぇ坂本」

「おう。全然良いぜ」

「…」

「因みに西宮ちゃんは強制参加だぜ!もし用事あるならずらせ」

「…はぁ。強引すぎる。分かった良いよ。行っても」

「これがツンデレという奴か」

しかし山倉は適当にスマホを確認してうーんと唸ったあと

「ごめん。僕は用事が入ってる」

「俺もパス。少し調べもんが」

片岡もそう言った。

「まじか。残念。あっ俺は桜花が行くから行くぜ」

「なら山倉以外は全員参加か。」

神条が言った。

「………俺の話聞いてたんか?」

「聞いてたけど私が行くなら必ず付いてくるだろ?ストーカーみたいに」

「まぁな」

ここは何故か誤魔化したりもせず片岡は言った。

「そうだ。片岡ちょっと良いか」

「なんや?西宮さんに降られたから俺に乗り換えるんや?」

無言で殴りかかったが華麗に回避された。

「変な事言ってないでちょっと来い。あと桜花様少しだけ待ってて下さい」

と言うと森野と片岡はすっかり騒がしさが潜んだ教室を出てこっちまだ騒がしさが残ってる廊下に出ると小さい声で話し始めた。

「話ってあの宗教についてやろ。昨日メール受け取って調べてみた。あれはまぁまぁヤバめやな」

「どういった感じで?」

片岡は少しだけ間を置いて周りを気にしながら

「……この町でこそ勧誘の押しが強すぎるくらいだが……あったあった。これのお守りよう配ってんのみるやろ?」

片岡がポッケから取り出したのはあの時駅前で駅前で配って居たのと同じだった。

「確かに前桜花と帰ってる時もこんなもん配ってたな。でもこれだけだと普通じゃないのか?」

と記憶を思い出しながら言った。

「それだけでなく家に押し入ったりもしてるが、まぁ確かにまだ可愛いもんやな。…ただ他の地域では恐喝や暴力。あと噂では抜けたがっとる人を誘拐したりあと違法な薬をつこてたりしとるらしいで。昔は少なくとも表面上は普通の慈善団体だったらしいが。今はただの典型的なカルトや」

森野は無言だった。片岡は気にせず続けて

「せやけどこの町では今の所は何もしてへん。……噂じゃ新しくここを本部にしたらしいが。……まぁここは死なん町らしいし大丈夫やろ」

 森野を安心させる為か最後にオカルトめいた事を最後に言った。勿論森野は信じてないがそれでもこの気遣いには感謝した。

「そう言えばこの宗教はこの島が幸運なのは自分達のお陰と言うてるらしいで。何でも教祖様とやらがそう願ったから幸運な島、死なへん町になったらしい。せやけど最近死者こそ出てへんが事故が増えたり、あと金の要求額が増えてきたりして脱退者が増えとる話や。警察からも色々疑いを持たれとる。まぁ取りあえずはこんな所やな」

「解った。ありがとな。後でなんか奢るわ」

「楽しみにしてるで。てか西宮さんが見てただけなんやろ?なんでそんな気になっとるんや」

「あの時の桜花の様子は少し違和感があったんだよ」

「なるへそ。それだけで十分って事ですか。……昔みたいに突っ走るなよ」

「……それをお前が言うのか」

 そして二人が教室に戻って来ると既に帰りの用意をして席から立って帰ろうとしている西宮の姿があった。

「ちょ待ってて言ったじゃん」

「……少しは待った」

森野は慌てて席に戻り帰りの準備をしたがその間にも西宮は教室から出ようしてた。

「しかし桜花ちゃんも可愛いね。森野が戻ってくるギリギリで帰りの準備終わらせたからね」

 クスクスと神条は笑い。更に白雪も笑みを浮かべ坂本、山倉も暖かい目で西宮を見てた。西宮は気にしないふりをしながら足早に去った。顔は少しだけ赤かった。森野も慌てて準備して

「じゃまた明日な!」

と言って追いかけた。

「多分あれだな。合流したあと八つ当たりで殴られるな」

坂本が予想半分確信半分で言うと

「やっぱり私もあれぐらい可愛げ無いとダメかね」

クスクスと神条が片岡にこっちは冗談半分本気半分で聞いた。

「安心しろ。結構お前も可愛げあるぞ」

と返され少し止まった。そして

「言うようになったな」

「たまには。てか美術部は今日もあるんやから行こうや」

「せやな。じゃーね」

と片岡と神条は美術室に向かった。

「流石ですわね。あれがすっと出てくるとは」

「確かにそうだね。じゃ僕も友達待たしてるから行くね」

「まぁ俺らも残る意味ないし」

「帰りますか」

最後の三人も教室から出てった。


「だるいな」

天月は一人、既に騒ぎも去って誰もいなくなった教室で一人掃除をしていた。本来なら五人一組で掃除をするのが基本だが自分を除く全員が用事があるらしく帰ってしまったのである。なら数少ない友人であり今暇そうな田邉と言う男に手伝って貰おうと思ったが

「私は頭脳派なんだ。肉体労働はやらない主義で」

と言って帰ってしまった。因みに成瀬もなにか用事があるらしくどこかソワソワしながら教室から出て行ってた。くそっと少し苛立ちながらどうせ先生もチェックに来ないし適当にやったろうかと考えていたが

「あれ?天月さん何してるですか?」

急に可憐な声が聞こえてきたのでふと教室から外を覗くとそこに大島が居た。

「見た所一人で掃除。もしかして虐められてるですか?」

「いやそういう訳では」

「なら友達がいないとか?」

グサと胸にナイフを刺されてしまったが何とか表面上は笑って

「いや、他の班の人が用事で帰っちゃって。あと友人も部活やらなんやらで」

勿論心臓は血の涙で溺れているが

「そうなんですか……。でも偉いですね。一人なのに頑張ってサボらず掃除をしていて」

ナイフで更に内側をグチャグチャにされた。なぜならたった今手を抜こうかと思っていた所だからである

「いや、正直適当にやろうかと思ってたよ。先生も来ないし」

 これ以上ナイフで刺されると罪悪感によって死ねるので嫌われるの覚悟で素直にそう伝えた。すると呆れたのかうーんとだけ言うと大島は教室から離れていった。少し残念だが嘘はやはりつけないので、気を取り直してさて残りをちゃっちゃっとやるかとそう決心すると

「私はどこやればいいですか?」

またあの可憐な声が聞こえてくる。振り向くとやっぱり大島が立っていた。

「あれ?行ったんじゃなかったの?」

それを聞くと首をキュートに傾げて

「廊下から道具を持ってきただけですよ」

と言われて手を見ると確かに箒と塵取りを手にしてた。

「二人の方が早く終わりますよ?さぁ頑張りましょ!」

天月は今度は別の意味で内側がやばくなった。何なら気を抜くと普通の涙が流れてきそうだった。

「…ありがと。こんな手を抜こうとした人に対して」

普段より内側をえぐられたからか卑屈になって言ったがそれを聞いて大島は、ニコッと可愛い笑みを浮かべて。

「天月さんとはまだ知り合って間もないですが何となく分かりますよ。貴方は結局手を抜かずにやる人って。だから手伝いたいって思ったんですよ」

そしてそれがトドメだった。天月は初めて三次元の女子を良いと思った。

「私こう見えても人を見る目は自信があるんです。父親が警察官だから。あれ?どうしました?」

固まってる天月に大島は不振がっていた。

「えっと。別に父親が警察官なのは、関係ないのでは?」

ようやく止まっていた心臓が動きだした。

「ふふっ。冗談ですよ」

とまた笑った。この笑顔も可愛かった。

「さて喋るだけでなく掃除も始めましょうか」


 成瀬は非常に困っていた。

 天月が掃除なので先に行ったら美術室には、霧島しか居なかったからである。少しだけ朝のことでソワソワして早歩きで美術室に着いたのが間違えだったかもしれない。放課後用があるらしいが何をするのか。てか放課後って今じゃないのかと。しかし話すタイミングが分からなかった。霧島の方も少しだけ顔を赤くしてこっちの方をチラチラ見てるが最初の挨拶以外特に何も喋ってこない。

 するとその空気を壊すようにがらがらと美術室に天月と大島の二人が入ってきた。

「遅かったな?掃除こんなにかかったけ」

と成瀬が救われたように言うと

「班の奴皆帰ってしまって。そんな俺を見かねて大島さんが手伝ってくれたんだよ」

「それは大変だったな。……その割には顔が幸せそうだな」

成瀬が指摘すると大島は隣に居る天月の顔を見て

「そうなんですか?天月さん実は仕事とか任されて喜ぶタイプ?」

「違う!」

天月は否定した。近づかれたせいかますます顔が赤くなっているが大島は気付いていなかった。

 そしてそんな様子の悪友を見て成瀬は確信した。あぁコイツ大島に惚れたな。そう思うと何故か少しだけ嬉しくなった。あのアニメしか興味が無いオタクが始めて三次元の女の子を好きになったからだ。これが親心かと一人納得した。

「これが奴を真人間に戻す最後のチャンスだな」

「何の話?」

状況が分からない霧島は?を浮かべてた。

「童貞は優しくされるとすぐ惚れちゃうからな」

ニヤニヤと笑いながら突然神条が入ってきた。

「……デリカシーのデも字もあらへんな」

あとに続いて片岡も入ってきた。勿論完全に図星を点かれた天月は心の中で大きく動揺したが何とか押させて自分は関係ない振りをした。

「片岡さんの話ですか?」

本当に分かっていないのかそれとも実は神条と並ぶ悪女なのか大島の予想外の返しに神条は更に笑いを深めると

「だってさぁ?」

ニヤニヤニヤニヤと鬱陶しく誰かさんに向かって言った。

「あ?てか伊織が言うたのは大島さん達にやろ。何があったか知れへんが」

「私達?掃除の事ですか。別に感謝される事じゃありませんよ」

「いやあれは感謝してるよ。ありがと」

「いえいえ。でもあれぐらいで惚れませんよね?更に私相手だし」 

グサとあれぐらいと言われて天月の心は若干ナイフで抉られた。

「皆盛り上がってるねぇー」

 ここで深浦も美術室に来たので立っている連中は席に座りようやく部活動を始めたが、絵や美術に何なら興味が無いであろう例の二人は美術部らしい活動をしなかった。そんな中でも成瀬は勉強だが片岡はスマホをパチパチと本当に何をする為に部活に来てるか分からない状態だった。勿論それを本人に聞いたら俺も知りたいわとでも答えるだろうが。

「そんなに熱心に何見てんだ?」

勉強の為に新しいノート広げながら疑問に思って聞くと

「いや知り合いの頼みでな」

と決して俺が入っているとかでは無いぞと否定しつつ

「マテリアル教とか言う新興宗教を調べてるんや」

成瀬は前に座る霧島がドキっとしたのを見た。

「どくしたんや?」

それに気づいた片岡に聞かれていやえっとともぞもぞして

「急に、こ、こっち向いたから恥ずかしくなって」

だんだん小声で恥ずかしのか顔を真っ赤にして言った。

「成瀬は目付きが怖いからな」

 いつから聞いてたのか天月がほざいた。彼の場合は冗談でも何でもなく本当に思って言ってそうなのが更に成瀬は腹立たしかった。しかし本当ならあれなんで一応は謝る事にした。

「……まじならすまん」

「えっと。いやち、違うよ!」

と必死に否定してくれた。

「ならお前がそう思ってる訳か」

「でも実際怖いってアニメとかだと絶対意地悪役の顔」

うんうんと一人頷き納得する。自分が間違っていたのを棚に上げて。

「まぁでも人は見た目じゃないからな」

成瀬は神条を見て言った。

「何か言いたそうだな?」

「………別に無い」

これ以上言ったらどうにかしてやると気配を感じて成瀬は黙った。

………見た目と中身は違うか。オドオドしている霧島も実は何か裏の顔でもあるのかなと、そんな事を神条から精神的に逃げる為に考えた。

「そういえば、私たちまだ知り合ったばっかりだし皆の性格も良く分かんないよね。………そうだ!今週の日曜でも遊びに行かない?」

突如西浦が提案した。

「良いですね」

「俺も良いよ」

大島、天月の二人は賛成したが成瀬は面倒くさいのか即答は避けた。

「ほら、成瀬も行くぞ」

と天月に言われしぶしぶ

「わかったよ。行くよ」

「えっと。わ、私も行ける」

「よしよし。そこの腹黒ペアーは?」

西浦に振られて二人は顔を見合わしたあと片岡が少し罰の悪い顔をしながら

「すまんな。今週はもう予定が。クラスの奴らと既にショッピングの約束してもうた」

「あらそう。……なら来週にで。も」

「え、えっとクラスの人って今朝一緒に居た人達ですか?」

「あらあの騒ぎ見てたのか。そうやあそこに居た四人と俺らで行く予定や」

恥ずかしい所をと頭をポリポリしながら片岡が言った。

「あ、あのだったら私たちも遊ぶ場所一緒にしませんか?」

「なに後で合流する感じ?それだと途中で抜けないと行けなくなるけど」

「別にそれでええよ。あいつらなら抜けても問題無いしな」

「まぁな」

「酷いね。二人とも。えっとじゃ良い?それで皆」

西浦が他の皆に聞くとはそれぞれうんと頷いた。コレで一旦話は終わり再び皆絵を書き始めた。無論成瀬と片岡を除いて。

しかしそれでも結局真面目に絵を書いてたのは、深浦と霧島くらいで他の人達は、喋っている片岡と成瀬に釣られて絵が3割お喋り7割のペースで部活動を行っていた。そして終わりの時間が近づいてきた。

「さておーい皆時間だよ」

 時計を確認し天月が言うと他の皆は片付け始めたが途中でイヤホンをして音楽を聞き出した霧島は聞こえず、まだ絵を描いていた。

「またか」

 はぁと成瀬はため息をついて前と同じように大声を出そうとしたが、それよりも先に、神条が座っている霧島の後の席に立って手を垂直の形にすると、トンと小気味よい音と共に頭に振り下ろされた。 

痛っと当たった場所も手で押さえながら霧島が振り返ると

「霧島ちゃん。時間だよ」

と神条が普段の低い声では無く何故か高い声を出してやけに可愛らしいポーズで美術室にある黒板の左上の時計を指差した。

「うぇ!あぁまたですか。すいません」

と凄く慌てて片付けをした。その瞬間手が机の上に置いていた鞄に当たり、回りに中身が散らかった。

「あっ!」

と霧島は声を出したと思った瞬間に、普段考えられない程に俊敏に落ちていた教科書やノートを鞄にいれた。まるで何かを人に見られたくない物があるかの様に。

「手伝うよ」

と帰宅の準備が整って隣の席で座ってスマホを見ていた大島が言うが

「いや、大丈夫だから」

と霧島にしては、珍しくはっきりと否定した。そして最後のノートも急いで拾った。後ろに居た神条でさえ殆ど何も見えないくらいに。

 しかし成瀬は丁度立っており更に霧島は前の席の為後ろに居た神条よりは、落とした物が見える立場だった。だから彼には見えた。落とした物の中に教科書やノートに隠れる様にお守りがあるのが。一瞬彼の頭に先程片岡と話していた宗教が頭に浮かんだ。しかし彼は気にしない様にした。それよりもいつあの話をするかに貴重な脳細胞を使っていた。正直今日は朝からそこに半分以上リソースを持っていかれていた。しかしそれでもこれに関しても聞けなかった。

 いつも通り正式に活動しているか分からない美術部が終わり、真面目な運動部を除いた部活の連中が今日の疲れを会話で回復させているのか、人数だけなら圧倒的に授業終わって直ぐの方が多いが、それに負けない位の話し声があちこちで聞こえた。美術部の人達もその声に加わりながら校門前まで歩いてきた。帰りは割と皆バラバラの為自転車組の大島と深浦が先に別れ、その後道が成瀬達と逆方向の為に霧島が途中の道で片岡、神条とも別れた。

 まだ少し肌寒い道を二人が歩いていた。そこは大きな道から外れている。その為まだらまだらに居た学生が更に少なくなったが、それでもここが住宅街だからか前と後ろにそれぞれ二、三人の組が歩いていた。

「高校に入ってもお前と帰らないといけないのか」

「俺の方からは頼んだ記憶は無いけどな」

と成瀬は適当に返事しながらも、霧島のあの事を意識していたが、ここまで何も無い為半分諦めていた。しかしふとスマホを見ると通知が来ていた。天月に悟られないようにそれでも慌てて見ると

「今学校付近の公園に居ます。そこのベンチで座っています。少し話したい事があるので、もし来れるなら一人で来てください」と言う内容だった。そして相手は霧島からだった。もし、これが森野(西宮限定)や天月(アニメ脳)の二人なら告白かと喜ぶだろうが、その二人程成瀬の脳味噌は単純な作りをしていない。しかしどうしても、そわそわと落ち着きが無くなってしまった。

 そして適当に嘘を言って天月を無理やり帰らせ部活も終わり下校している人の群れを逆流しながら公園に向かった。そして早歩きで来たので少し息を整えてから公園のベンチに向かった。約束通りベンチに座ってた霧島は成瀬を見つけると顔を赤らめさせて

「あ、き、来てくれてありがと」

と言った。しかしここから霧島は喋らなった。どこか居心地が悪い物の、どこか甘い雰囲気が漂う無言タイムが暫く続いた。そして霧島が漸く喋りだした。

「えっと成瀬くんって何時も勉強頑張ってるよね」

 成瀬はなにか大事な話があったのではと思いながらこのどうでも良さそうな世間話に乗った。

「暇だからな。あと無駄にはならんしな」

成瀬は心の中でなんてつまらん返しだと思った。

「そ、そんな事無いよ。なかなか人は、暇だからって辛い勉強はやらないよ!それだけで偉いし頑張っていると思うよ」

ニッコリと霧島は笑った。成瀬は我ながら単純な自分に嫌気がさした。完全にダメだった。天月が大島に惚れたのを馬鹿に出来なかった。

「で、ここまで呼びだした用なんだけど。私皆と遊ぶの慣れてなくて…。そ、その前日に、慣れる為にも一緒に買い物でも行ってくれない…」

もう最後の行ってくれないかは、声がほぼ出てなかった。顔も手に持っていたバックで顔を隠しながら言った。

勿論成瀬は断れる手段を持っていなかった。


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