第5話
そうして私は意識が消えかけている宏哉に肩を貸し、ルイと共に屋敷へと入った。
しかし女の私じゃ宏哉を安全に運ぶのは困難だった。
[重いか?そいつ]
ルイは宏哉をひょいと担いだ。
宏哉は文句を言うと思っていたが、既に意識を失っていた。
[どこで休ませる]
[2階に宏哉の部屋があるからそこに。ありがとう、ルイ]
私たちはそのあと会話をせずに2階の執事室まで行った。ルイは丁重に宏哉をベッドの上に寝かせた。
[俺は上の掃除をしてくる。志織はそいつの容態を見ておけ]
掃除というのは、遺体処理のことだろう。家族とメイド達、合わせると9人の遺体をどこで処理するのだろうか。
[...志織様]
[宏哉。早いお目覚めね。もう平気なの?]
[平気では...ありませんが、なんとか話せます]
[良かった]
実際宏哉が生きていたのは私の中ではとても嬉しいことだった。
[志織様、あいつは、あの吸血鬼は危険です。狡猾、そして凶暴です]
[そういえば、なんでみんなは屋上にいたの?この時間に屋上なんて行くことはないと思うんだけど]
[でしたら、その話をしましょう。あの吸血鬼がいかに残酷で、残忍な悪魔だということを]
宏哉はルイが屋敷を襲撃した時のことを話し始めた。
...
志織様と別れたあと、私はいつも通り食堂の方へ向かい、旦那様と奥様に朝の挨拶をしに行きました。そして朝食を摂りあえた後の旦那様と柚紀様を車で送りました。(柚紀は志織の兄。)
帰ってきてからはメイド達と共に屋敷内での仕事をこなしていました。お昼になり、奥様は食堂にいたのですが、志織様がいなかったので部屋にまで行き声をかけようとしたのですが、お眠りになっていると悪いので私たちはそのまま昼食を摂りました。
それからもいつも通りの業務をこなしていました。ですが志織様も知っている通り、夕刻が近づくにつれて、空は普段よりも暗くなっていき、風は一層強まっていきました。柚紀様はメイドが迎えにいき、旦那様は珍しくお早めの帰りでしたので、私が迎えにいきました。帰ってくると18時くらいで、その頃には空は真っ暗でした。
その時メイドが洗濯物を取り込むのを忘れていたと焦っており、急いで屋上に行くところを私は見てました。うちのメイドが物忘れなど珍しいこともあるものだとその時は呑気に考えていたのですが、これが地獄の始まりでした。数十分した時、そのメイドとは別のメイドが私に声をかけました。
屋上に行ったメイドを見てないか、と。私はまだ屋上にいるのだろうと言いましたが、洗濯物を取り込むのにこんなに時間がかかるわけがないとそのメイドは言うのです。そこまで言うなら自分が行って確かめるといいと、私はいいました。その判断は大きな間違いだったと、今は思います。
19時は夕食のお時間ですので、私たちはいつも通りその準備をしていだのですが、そこでメイド長は小さな声で呟きました。
あの2人がいない、と。私は流石におかしいと思い始めました。洗濯物を取りに行ってから40分は経っています。それなのに見に行ったものを含めた2人が帰ってこないのはおかしいと。私はメイド達に指示を出しました。
[私が食事の準備をしているので、君ら全員で屋上へ行ってきてください。何かあったら無線機で報告を]
メイド達は少し考える素振りをした後に、
[ここは任せました]
といい早歩きで屋上へと向かいました。
何かがおかしい...私はそう思っていました。そう思っていたなら、まず男の私が屋上へ行くべきなのでした。
しかし何分経ってもメイド達は誰も帰って来ず、無線機にも反応はありませんでした。やがて19時になり、旦那様、奥様、柚紀様が食堂へと降りてきました。
[宏哉、メイド達は?]
柚紀様が私にそう質問をしてきました。
[柚紀様、それが...]
私は先程から起こっている不可思議な出来事を話し始めました。
[屋上で何かあったのかもしれん。この強風だ、最初のメイドが転倒なりで頭を打って倒れているのかもしれん]
旦那様はいつも通りの落ち着いた声でそう言いました。
[食事は後ででいい。私と宏哉で屋上へ行く。柚紀とお前はここにいろ。志織も、今は起こさなくていいだろう]
[承知いたしました。それでは、奥様と柚紀様はここで]
[父さん、僕もいきます]
[私も1人で待つのは怖いので、ついていきます]
[何かあったら危険です。奥様と柚紀様はここでお待ちください]
[まあいい宏哉。危険だが人が入ってきたわけではないだろう。うちの屋敷は関係者以外が入ると報知器が鳴るようになっている。2人も連れて行こう]
そうして私は渋々納得し、4人で屋上へと向かうのでした。
何回も言っていますが、私は今日全ての判断を間違えていたと思います。結果的に私の取った行動は全て裏目に出ていたのですから...
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