第6話 反省会
『第一回、反省会、始まるよ~!』
:うぇぇぇああああ!
:はーい
:テンションの差w
『結果発表~!』
:お?
:いきなり?
『自己紹介動画の再生数は……現在、43回!』
非常に微妙な数字。
リスナー達はどういう反応をするべきか悩み、コメントが途絶えた。
『すごくない!? 43だよ! 隣のクラスの子まで再生してる計算だよ!』
しかしミーコは普段通りだった。
その声からは本気で喜んでいることが伝わってくる。
:フォロワーは増えた?
『見てない!』
:なぜw
:そこがKPIじゃんw
『ケーピーアイって何?』
:おっとw 拙者KPIなどとついwww
:目標のことだよ
『あー、それは……なんか怖くて』
:でもツイッターの営業も大事だぜ?
:そうそう。フォロー返とかリプ返とか
『分かる。分かるんだけど〜』
ミーコは唸る。
:私がミーコのサブ垢を演じようか?
:それは草
『……有りかも?』
:無しだろ
:私は本気です
:お兄ちゃんツール作れるんじゃね?
『ツール?』
:フォロワー数を見なくて良い奴
『マジか、そんなんできんの?』
:割と簡単よ
:お兄ちゃんコミュ力的に営業っぽくない?
:お兄様に不可能はありません。信じましょう
『分かった。頼んでみる!』
:過剰スペックの予感
:ワクワクするね
『そんなことより、自己紹介動画、どうだった?』
コメントは沈黙した。
ミーコは十秒ほど待った後、そわそわした様子で言う。
『結構いい感じかなと思うんだけど……』
ミーコの猫耳が尻尾を振る犬みたいに揺れている。
しかし、さらに十秒ほど待ってもコメントが流れない。
:俺は好きだよ?
長い沈黙を破ったのは、ひとつのコメントだった。
『ヌヒヒッ、だよね!』
:守りたい。この笑顔
:うぉぉん、おぉんぉ、ぉぉぉんぉん
『何その悲鳴、おもしろ』
:まぁでも、始まったことが大切よな
:それな。千里の道も一歩から!
『一ヵ月しかないけどね』
:ミーコが言うなしwww
:ゆーてコツコツやるしかないべ
:金の力でクソほど宣伝する手もある
『お金の力かぁ……』
:お兄様の出番か?
『ううん、まずは自演だけでがんばってみる』
:堂々とした自演宣言で草
:ったくw 援護射撃は任せとけw
:自演じゃなくて自分では?
『自演だよ』
:草
:こういう闇あるところも好き
『手段を選んでる余裕は、ミーコには無いんだよ』
:バレなきゃ自演じゃないって言うしな
:他の新人とセットで紹介するのがコツ
:↑悪いこと教えんなw
『なるほど。他の新人とセットか……』
:こらw
:ゆーて勉強の為に他の人を見るのも大事よ
『ふむふむ。覚えとくね』
:勉強の方だよな? 自演のやり方じゃないよな?
『……ふっ』
:アーニャみたいな笑い方しやがって
:とりあえず、継続は力だよ
『うん! 毎日続けるからね!』
──反省会は和気藹々と続いた。
悪い点を指摘するのではなく良い点を伸ばす。打ち合わせをしたわけではないが、リスナー達の見解は一致していた。その結果、反省会というよりも、これから頑張るという決意表明の場になった。
リスナー達は、ほんの少しだけ引っかかるモノを感じながらも、ミーコが楽しそうだから良いか、と前向きに捉えた。
配信の後、彼女はいつものようにベッドに飛び込んだ。
そして枕にギュッと顔を押し付けた後、自分の言葉を思い出す。
「……手段を選んでる余裕は、無い」
使えるモノは全部使う。
自分にできることは、全部やる。
「……お金は、なんか違う」
多分、兄に言えば無限に出してくれる。
金の力を使って宣伝しまくれば、一ヵ月で千人のフォロワーを集めることは十分に可能だと思われる。
だけど彼女はそれを望まない。
一時的に、実力以上の数字を得ても意味が無い。
あくまで、有名になりたい。
兄に「心配しなくても大丈夫だよ」と伝えたい。
「……私には、何ができるのかな」
──少しずつ、彼女は前を向く。
その一歩は、とても小さい。まだスタートラインすらも見えていない。
だけど、大きな一歩だ。
十年も停滞した時間を進める為の、偉大なる一歩だ。
その強い想いは、必ずしも報われるとは限らない。
だけどそれは、少しずつ、本当にゆっくりと、周囲を巻き込んでいくことになる。
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