第5話 【自己紹介】肉体を求める猫ミーコ #Vtuber #新人Vtuber

 その日、ミーコ学園に動画が投稿された。

 タイトルは『【自己紹介】肉体を求める猫ミーコ #Vtuber #新人Vtuber』


 動画の顔であるサムネイルには、ミーコの描いた猫に「魂を求める猫」という文字を重ねた画像が表示されている。


『にゃっはろぉ〜!』


 動画は元気な挨拶と共に始まった。

 画面に表示されているのは、白背景と魂を抜かれた猫(TNC)。素人が頑張って編集しました感のある集中線のエフェクトが、TNCの存在を強調している。


『ミーコだよ!』


 カメラが動き、TNCの顔部分をズームする。


『肉体を求める猫!』


 再び集中線。そしてジャーンという効果音。

 ミーコは、たった六枚の差分画像を駆使して喋り始める。


『夜十一時、生配信!』


 きりっとした表情。


『朝七時、切り抜きショート!』


 どやっとした表情。


『目指せ、ツイッターのフォロワー千人!』


 きりっとした表情。


『千人、集まると……』


 再び、TNCの顔がアップで映し出される。

 そしてカメラが引かれ、ぱんぱかぱーん、という音と共に文字が表示された。


『あの超人気イラストレーターが、肉体をくれます!』


 嬉しそうな表情。


『肉体! くれ! ます!』


 文字が消えた。

 その後、しゅんとした表情になる。


『今のミーコは、魂だけの存在』


 きりっとした表情。


『魂だけの猫、ミーコ!』


 ほんわかした表情。


『好きな食べ物は!』


 しゅんとした表情。


『……無い。魂だけだから』


 きりっとした表情。


『趣味はゲーム! 主に同人ゲーを無許可でプレイするぜ!』


 ぽけーっとした表情。


『……無許可はダメか?』


 きりっとした表情。


『一度は相談する!』


 この自己紹介動画は、視聴者達の助言を元にミーコが作った。

 言葉は短く。テンポ良く。そして画面には次々と別の情報を表示すること。同じ絵が二秒も続けばそれは放送事故。いわゆるタイムパフォーマンスを意識している。


『この動画を見たお前! 縁ができたな!』


 ミーコの位置が画面の下部に移動する。

 心なしか下の方を見ているように感じられないこともない。


『チャンネル登録、高評価、よろしくね!』


 嬉しそうな表情。


『ツイアカは動画説明欄に!』


 TNCが激しく振動する。


『またね~!』


 こうして約1分間の自己紹介が終わった。




 動画投稿直後のこと。

 彼女は直ぐに眠った。


 彼女は普段から夜行性だが、最近は朝まで作業をして、昼頃に眠り、夜中に起きるという生活をしている。実に不健康だが、メンタルはかつてない程に元気だった。


 彼女はやる気に溢れている。

 それは周囲にも伝わっており……だからこそ、不安を与えていた。


 彼女を応援する者達は、みんな知っている。


 根拠の無い希望と、一時的な情熱。

 そして、その炎が消えたことで生まれる……とてつもなく大きな虚無感を。

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