しほちゃん

Unknown

しほちゃん

 平日昼間のアパート。4月になったというのに俺達の新生活は始まらない。

 愛莉と一つになり終わった後、俺が全裸のまま胡座をかいてボーッとタバコを吸っていると、同じく全裸の愛莉が、俺に近付いてきてこう言った。


「私にも1本クレメンス♡」

「うん」


 俺はメビウス1本とライターを愛莉に手渡す。愛莉は手慣れた動作で火をつけ、タバコを吸い始めた。

 俺が死んだ目で紫煙を吐いていると、横で座ってる愛莉が、ぽつんとこんな事を漏らした。


「私たち別れよう」

「どうして」

「だって、おまえ働くって言ってるのに全然就職活動しないんだもん。しかもアル中。もう別れたい」

「愛莉が別れたいなら、そうしよう」

「うん。今までありがとう。楽しかったよ」

「俺の方こそ、ありがとうな。楽しかった」


 こうして俺と愛莉はあっさり別れた。


 ◆


 俺のアパートから愛莉が消えたが、それを特になんとも思っていない事に俺は少し驚いていた。

 俺と愛莉は半年くらい同棲していた。

 愛莉はニートで躁鬱病の持ち主で、正直俺もかなり手を焼いた。躁状態の愛莉は常に狂ったように超キレるか超暴れるか超散財するか超泣くか超楽しそうに笑うか超死にたがるかのどれかだった。俺は太ももを愛莉に包丁で刺されたことがある。躁状態の愛莉は深夜にスポーツジムに行ってジムを破壊しまくって警察沙汰になったりした。鬱の時は、死のうとして近所の歩道橋から飛び降りたり、橋から飛び降りたりした。薬を大量に飲んで死のうとしたこともあるし、ロープをネット通販で買って、俺の部屋で死のうとしたこともある。

 ──それでも俺は愛莉のことが大好きだった。

 俺はろくに働きもせずに、小説家になる事を夢見て小説を何度も書き上げては公募に応募していた。だが、結果はどれも一次落ちか、良くて二次落ち。

 俺には小説を書く才能なんて無いと、本当は知っていた。

 だが愛莉だけが俺の小説を読んでいつも「面白い」とか「天才」とか「泣いた」とか言ってくれたのだった。

 いつしか俺が小説を書く意味は変わっていった。愛莉を喜ばせる為に小説を書きたいと思うようになった。

 愛莉というファンが1番そばに居てくれた時点で、もう小説家になりたいという夢は叶えていたのかもしれない。

 俺は愛莉が大好きだった。

 笑顔が好きだった。上手く生きられないけど、一生懸命生きてるところが好きだった。胸がでかいところも好きだった。ギターが上手いところも好きだった。

 そんな愛莉と別れても、特に何も感じない俺がいた。どうして。

 

「少し疲れたな……」


 俺はそう呟いて、煙を吐いた。


 ◆


 その日の夜、愛莉は実家で首を吊って亡くなった。

 真夜中、愛莉のお母さんから俺のスマホに電話が掛かってきて、愛莉が亡くなったと知らされたのだ。

 俺は言葉が出なかった。


 ◆


 別れた時、どうしてそこまで頭が回らなかったのだろう。今までの愛莉を1番近くで見ていたら、愛莉が自殺してしまうかもしれないことくらい、予測できたはずだ。

 愛莉は死ぬ為に俺に別れを告げたのだろう。


「……」


 真っ暗な部屋の中でタバコを吸っていた俺は、何も出来ず、ただ溜息を漏らした。


 ◆


 君のことばかり考えてるわけじゃなかった。けれど、自分の事と同じくらい君の事を考えていた。


 俺はどうすればよかったんだ?


 愛莉を死なせた責任の取り方は一つしかない。俺も首を吊って死ぬ事だ。


 その日、俺は首を吊って死んだ。愛莉、見てるか?







 終わり






【あとがき】

 小説を書く元気がなかったので、ここで終わり。ここ最近俺は元気が全くないです。死にたいです。どうしたらいいですか??

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しほちゃん Unknown @unknown_saigo

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