2.don’t want
あの女が、元カレと結婚した。
華麗な横取りだった。
元カレの隣で微笑む女。
周りから見れば、二人は大恋愛を経て結ばれたロミオとジュリエットだろう。
私は唇を噛んだ。
本当なら、あいつの隣に立っていたのは私だったというのに。
「おめでとう!」
隣にいた、何も知らない夏帆が賞賛の声を送る。
私もなにか言わなければ。
お似合いの言葉が見つからない。
否、見つけたくないのかもしれない。
私はこいつらに泣かされたというのに。
そっと、レースの手袋で隠された古傷を撫でた。
この傷を見た母は、ヒスを起こしながら私を怒鳴った。
結婚前の女に自分で傷をつけてどうすんだ、と。
もういいんだ。今日はこいつに復讐してやるつもりだから。
行き先を伝えた瞬間、またヒスを起こしかけた母を憎らしく思いながら目の前にいる女を見た。
「由美も、ありがとね。」
あの女が私に微笑んで手を握ってくる。
元々友達だったこいつ。気づかないふりして私からあいつを横取りした後、わざわざ結婚式に呼んできた。
まぁそれにつられてくる私も私だが。
「いいよ、気にしないで。ぜひ、彼と幸せになってね。」
私は満面の笑みで女の手を握った。
さっきまで作られていた笑顔が歪んだのが見える。
私はにやりと口角を上げ、彼女の耳元に唇を寄せた。
「”あれ”は浮気性だから。若い女に取られないように気をつけて?」
彼女の動きが止まった。笑顔が歪んだまま、呆然としている。
想像通りの反応。いや、想像以上かな?
私はそっと部屋を離れた。
夏帆が後ろから何かを言っているが、その言葉が耳に入らないほど、私はすっきりとしていた。
ちょっとやりすぎたかしら。そんなことを思いながらも、全く後悔はしていない。
その弾むような足取りで、私は式場を後にした。
お似合いの言葉が見つからないよ 夜闇桴月 @Yoyami_F
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