Scene-05 汐かさり
僕がニュートと長話してる間、男は動揺を鎮めようと必死になっていた。
メンタル弱そう。
近づいてこないのは、こっちが銃を持ってるからかな。
だったら、こんな直線のトンネルで無限回廊とか作らなければいいのに……とは思ったけど、相手の手の内が分からない。
一挙一動に警戒しつつ、再び声をかける。
「――で、どちらさま?」
声をかけた瞬間、詰め襟男はスチャッとポーズを取った。
なんだこいつと声を出そうとして、詰まる。
僕もプラトーを抜いたときにやるワケで。他人からはああいう風に見えてるわけか。
ううん……
詰め襟に短マントの男は、ニヤリと笑った。
さっきまでの醜態を見てなければ騙されたかもしれないくらい、決まっている。
こいつも撮影されてるのかな?
「――大した者ではございません、見捨てられた者たちに救いの手を差し伸べようとしているお節介者ですよ」
そんだけかーい!
胸中で突っ込んだ瞬間、男が折れた刀で斬りかかってきた。
身体能力自体は高いな。
反らした鼻先ギリギリを半欠けの刀がかすめる。
「かかか!」
『瑛音、奴が魔術を使おうとしているぞ』
詰め襟男の目がカッと見開かれ、黒目が縦長になる。
爬虫類!?
肌がひび割れ、色と艶を失って……うわ、鱗だ。顔が鱗に覆われ始めた!
手に持った刀も刃がじくじくと黒くなってゆく。
「顔が気色悪い!」
「やかましい、この小娘が!」
気にしてそうな顔で激昂しつつ、黒い刃を打ち付けてくる。
ギリ避けると外れた先端が煉瓦の壁をかすめ、ケミカルな火花があがった。
煉瓦が変色した灰になって散る。
「ニュート、今のは!?」
『おそらく毒……ならば、
「顔を不細工にする意味は!?」
『《神性》の副作用。イプティックと同じだよ』
「う、うるさい! 顔はどうでもいいだろうが!!」
ニュートがフードで背の毛を逆立てる。
いや――それよりも!?
刀を避けながら、ニュートに問いかける。
「ねえ……僕も《魔術》を使いすぎれば、円錐になっちゃったりする?」
『――イース人は《神性》がないから大丈夫だ』
「なんでいま言い淀んだの!?」
「小娘、この……無視するんじゃない!」
言うなり、黒刃の刀をさらに派手に振りまわす。
刀身からは異様な匂いがした。
滅茶苦茶だけど、毒だから掠ってもアウトになるのが厄介だ。
手に持ったままの銃を使いたいけど、近すぎる。
こっちが防戦一方なのを見た詰め襟男が、勝ち誇るように笑いだした。
「かかか! 無の砂漠の地下都市を譲り受けた我らが《始祖》よ、盟約に従い《贄》を送り届けましょ――ぶっ、げらがばばば!?」
喋ったので生まれた隙を突き、大振りの一撃をかいくぐって手刀で腕を弾く。
連携で軸足を弾くように蹴った。
スパンと刈られた詰め襟男の足が空中に浮く。
そのままバランスを崩して後ろに倒れ込んだので、速攻で距離を取って撃つ!
肩に命中し、血が出る。
んー、なんか血の量が少ないような?
「おま……この刀には毒があるんだぞ!? 怖くないのか、小娘!」
「もちろん怖いよ」
怖いんだけど、一回二回なら
なので落ち着いて対処できる。
もちろん、このことを教える気はないけどさ!
銃声と同時に詰め襟男が滅茶苦茶なフォームで斜めにジャンプした。
壁を蹴り、蹴り! 蹴る!!
詰め襟がトンネル内をバレルロールよろしく一回転する。
三角飛びの要領だ。
凄いけど……落ち着いて見れば遅いから目で追えるし、視界の外にも出ない。
「かかか! 一度イグの毒を味合わせてやる、長く苦しむ奴がいい!」
こちらの火線をかいくぐり、最後には深くエッジを効かせたアクロバティックなジャンプで一気に距離を詰める。
折れた刀の一撃で銃が弾かれた。
カラカラとウェブリー・リボルバー・マークⅥがすっ飛び、毒の切っ先を喉元に突きつけられる。
「ははは、私の身体能力の高さに虚を突かれましたか? では毒の怖さをじっくりっ! 教えてやりましょうか……この、黒刃の毒のね!」
「確かに嫌な毒だったから、二度は御免被りたいな」
「何を言ってるか、小娘!」
ワケの分からないことを言われて、詰め襟男……
「かかか! まずは冥土の土産に名乗ってやろう、俺は――」
「カルネレイジ、ダゴン秘密教団の四銃士」
「かる……はえ?」
カルネ・レイジが呆然とする隙をつき、マントの影で
旧支配者の作り出した刃が、旧支配者の《力》ごと半分残っていた刀刃を切断する。
ほぼ柄だけになった。
誘い込まれたかのような一撃に、カルネが目を剥いた。
爬虫類の目が一瞬だけ点目になる。
「はあ!? なん……はああ!?」
悪いね、こっちは一度
三角飛びも二回みてる。
なにしろ、後ろにはセブンの上で失神してる双子がいるんだから!
髪を軽く梳き、速攻で身支度を整えてからプラトーで斬りかかった。
身だしなみは大事だよねー
後ろでニュートが僕の頭をタシタシと叩く。
『だからな、瑛音? 明らかなデメリットが存在している能力をひょいひょい使うんじゃないと。ちなみに何回目だ?』
「一回しか戻ってないよ、大丈夫!」
投げつけられた刀の柄を躱し、プラトーでカルネの腕を狙う。次撃で足、それからまた腕、可能なら目も。
休む暇なんて与えてやらない!
「く、この……!」
カルネが腕でプラトーを弾く。
お、硬い?
なにか仕込んでるのか……いや、皮膚がひび割れてる。
鱗だ、こっちにも鱗が出てる。
腕にも旧支配者の力が及んでるのか。
「おおおおおっ!」
カルネの爪が黒く歪に伸びる。反撃に出てきた。
いわゆる毒手か。
意外と軽い一撃をプラトーで弾く。
鍔迫り合い的な受けはしない。
別に相手が毒手だからではなく、単にプラトーが両刃だからだ。
斬りかかるときは自分にも刃が向いているから普通の刀より受けの扱いが難しいんだよね。
ギリ、ガリガリ、ギャン!
中国の
だから、奴は僕に近づけない。
本来なら毒の腐食があるのかも知れないけど、プラトーにそんなものは効かない。
「この、こ……おおおおお! 少しは怖がれよ!?」
「顔の怖さだけで勝てると思うな、不細工」
「顔はどうでもいいだろ、顔は!」
カルネが大激昂する。
口がぐわりと開き、爬虫類眼球が飛び出さんばかりにギョロつき、口の横の線……ほうれい線? そんなのが深くなる。
なんだったっけかな、この顔……ええと、あの
タシタシと後ろ頭でニュートが怒る。
『余計なコトを考えるなと……ええい、楳図かずおでいいのか!?』
「それ!」
いきなり叫ばれて、カルネの肩が震えた。
本人は鱗と爪で必死に体勢を立て直そうとしてるけど、リズムとペースが乱れまくってる。
メンタル弱そうだなー
おそらく、さっき名前を呼んでやったことで動揺してるんだろうけど。
なので容赦なく手、足を狙い……駄目か、どこもかしこも硬いな。
なので即座に戦法チェンジ!
プラトーをフェイントにして、カルネを誘う。
僕の上半身に意識を集中させる。
下半身がガラ空きとなり――体重を乗せる寸前の足を蹴り飛ばした。
「うおっ……このっ!」
バランスを崩したせいでカルネは両手でバンザイ。
でもそのままバク転を連続!
へー、やるね?
追撃を避け、少し後ろで三点接地してこちらを睨む――その眉間ど真ん中に、455弾を叩き込んだ。
無限回廊を銃声がエコーする。
着弾からミリ秒単位の間を置き、マスクの隙間から血の華がブワっと咲いた。
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