Scene-09 オーバーナイト
「はあ……」
「お背中と御髪はこれで大丈夫です、瑛音さま」
「お湯かけまーす」
景貴、清華と一緒にお風呂に入ってる。
脱ぐのは僕だけでいいと言ったけど、二人とも僕に有無を言わさず脱いだ。
いや、いいんだけど……
ちなみにニュートは洗面器の中だ。
肩の怪我を押して無理やりお風呂を借りたのは、
アザトースの種子が出す光は大変ばっちくてですねー!
爆発の中心となった倉庫一帯も封鎖中だ。
雨が降ってるし、海の側だから大丈夫だとは思うけど……
「あとは井手上さんか」
「上がったら様子を見にいきましょう」
「そうだね……」
父親の件は……黙っていた方がいいか。
「あがるよ」
湯船には入らず、風呂から出て――ん?
後ろからお尻ガン見してた景貴と清華をじろりと睨みつつ、脱衣所へ出た。
井手上さんにあてがわれた客室で全員集合する。
ちなみ僕はパンツの上から浴衣、素足に室内用の和風サンダルみたいの。
雪駄だっけ?
それ以外にもホルダーに入れたプラトーを持って、ニュートを抱いている。
ぐぐ、肩が……
元の服は処分した。ばっちいんで。
新しい服は、別荘の管理人さんが取りに行ってくれている最中だ。
景貴と清華は朝から着てる少年用スーツのままなので、どっちも美少女顔の美少年に見える。
景貴がポケットから黒革の手帳を取り出し、清華に渡した。
「これ、貴方のですわね?」
女の子同士の方がいいって訳か。
井手上さんは――駄目か、恐慌を起こし始めた。
僕と景貴は念のため後ろで待機。
「あ……あの、こ、今度は何を……何を……忘れれば……」
「へ?」
『――瑛音、カースティアズの言葉を覚えているか? あれは《レテの書》だ』
井手上さんの歯と歯が盛大に鳴り響く横で、ニュートが肩に上がって耳元に囁いた。
肩に……肩に! 痛い痛い!
「ごめんニュート、反対に……あと説明プリーズ」
『イーフレイムの
「ごめん、知らない」
この身体にイーフレイムの記憶は残ってない。
転生で全部上書きした。
アイツの記憶とか欲しくないから、別にいいんだけど。
『記憶操作のアイテムで、記憶の改変と忘却を行える。この忘却を利用して魔術を
ん? んん――ああ、なるほど。
神性にともなう副作用みたいな奴を、記憶ごと除去するってワケね……
「――いやいや、そんな無茶な」
『その通り、無茶だった。記憶は複雑に結びついてるから下手に忘却すれば連鎖して廃人となる。だから現物は残ってない筈だったのだが』
頭の中で、不安定なジェンガのタワーがガラガラと崩れるイメージが浮かぶ。
それをカースティアズが手に入れ……なるほど。
「なら、この書は放置しておけな……ごめん!」
何気なく書を開き――書き込まれまくってた卑猥なアセット群から目をそらす。
あー、そうですか。エロ同人誌みたいな記憶改変をしようとしたと。
よし消そう!
「ニュート、手帳の中身を安全に消す方法知ってる?」
『うーん……記憶ごと消すしかないと思う』
「他人の記憶でジェンガしたくない」
『ならブロックを増やせばいいのではないか? ゲームではないのだから、ルール違反にはならん』
新しい経験とか衝撃を与えるってことね。
景貴、清華、そして井手上さんにも話し、楽しいことや、したいことをして貰ってからレテの書の初期化してはどうかと提案する。
井手上さんが、おずおずと手を上げた。
「あの、ちっちゃな頃からずっとしたいと思っていることが、あります……叶えていただけるなら、是非」
「いいですよ、協力します」
井手上さんのベルトを外すと、熱い吐息が漏れる。
足を摺り合わせながら起き上がった。
やっぱり妙に色っぽいな。
起きるときに両足を上げたから、和服の合わせから太ももの際どい部分まで露出する。
パンツはあるけど、まだ一般的ではないんだっけ。
代わりに襦袢だったか、そんな下着を……じゃなくて、いま着てるのがその肌襦袢か。この下は素っ裸ね。ううん。
ドゲシ! と鋭い音が響く。
清華が妹ブーストのかかった蹴りで、景貴の脛を打ったようだ。
ああ、変な場所を見てたな。なむなむ。
井手上さんは気づかず、フラフラしながら近づいてきた。
チラっと僕を見て?
「あの……女性はご遠慮をいただければ……」
「僕? 僕は男だよ」
井手上さんが目をまん丸に見開いた。
景貴と清華がうんうんと頷く。
「ご一緒にお風呂へも入っておりますから、保証します。本当に男性です」
「――よ、よいご趣味です」
「最初は仕事の都合だったんだけどね。この恰好してた方が才能で人を登用しやすいって気付いてさ」
そうしないと男尊女卑で組織をブン回される。
何しろ大正時代だし!
でも脳筋肉成人男性だけで組織は上手く廻らない。まして神話事件はね。
――フェミニスト?
女性も平等に最前線へ送るって意味では、そうだね。
「で、では……お三方、よろしいでしょうか」
お願いされたことは、ただ集まることだった。
僕が椅子、景貴と清華がその両側に立つ。
困惑気味の僕らを前に、井手上さんは――跪いて? 頭を下げ?? それも口が床に着きかねない低さに???
はーっ、はーっ、と、荒々しい息を吐きつつ、まず僕の――ひえええ!?
「あの、なんで僕の足を舐めるの!?」
「……」
返答はなく、口で雪駄を脱がされた。
舐めるようなキスが続く。
双子はスリッパなので靴下の上からで――そーですか、そっち系の願望がありましたか、井手上さん!
景貴は清華の手前、平静を保とうと努力はしているけど――満更でもなさそうだだね、君。
清華は、あからさまに気持ち悪がってドン引きしている。
そのうち蹴りそうだ。
ついでにニュートは猫ジト目。
やがて理性を解かし尽くしたような井手上さんが、ふらふらと立ち上がった。
うわー、なんか美人っぷりに拍車がかかってる。
しかも気が済んだわけじゃなさそう。
軽いご挨拶はこのくらいでよろしいでしょうか、殿方さま……って、そんな目だな。濁って歪んでる。
『こりゃ麻薬の影響もあるな。――矯正は手荒くなりそうだ』
「みたいだねえ」
そういえば特別製って言われてたし、組織で何をされたかちゃんと確認した方がいいか。
――けど、その前に!
「ニュート、
『消す前だ。これもまた経験値となるだろう』
りょ!
「井手上さん、ちゃんとした紹介がまだだったね。こっちは景貴」
景貴がおずおず。
顔がちょっと紅い。満更でもなかったですって感じで。
清華がキレるぞー
「で、こっちが――」
清華が無言でズイっと前に出た。
顔は和やかに笑っているけど、目は一ミリも笑ってない。額には怒りマークが見える。
怒りの対象はおそらく景貴だろうけど。
景貴が他の女の子に興味を持ったりすると、すーぐ機嫌を損ねるんだよね。
それはそれとして、ネタばらしを。
「こっちが、景貴の双子の
「――え?」
井手上さんの蕩けた表情がガチっと固まった。
どうやら同性に見られるのは嫌らしい。
その気持ちはちょっと分からなくもない。僕も女装しはじめた頃は、女より男に見られる方が嫌だった。
なんか情けないんだよねー
清華は強引に井手上さんの手を取る。
反対の手で自分のシャツのボタンをすぱぱーと外し、生まれた隙間に井手上さんの手を突っ込ませた。
有無は言わせない。
胸の感触からようやく真実を理解できたのか、固まっていた井手上さんの顔にヒビが入った。
「あの……その、ええ!?」
『これだけ衝撃を与えとけばいいか。はじめるぞ、瑛音』
「よろ!」
ニュートの猫詠唱によって『レテの書』が発動していく。
井手上さんがやっと正気に戻ったけど、もう遅い。
「あとさー、清華? 君たちの家庭教師で一番厳しい人に井手上さんを少し預けたい。矯正してもらって」
清華が、まだ自分の胸元に手を突っ込んだまま固まってる井手上さんと、恐れおののく景貴をチラっと見る。
「お兄さまもご一緒でよろしいですか、瑛音さま」
「いいんじゃない?」
なむなむ。
「承知しました。よろしいですね、お兄さま」
「あの、ちょっと……!」
「お待ちくだ……ああ!」
若干二名の悲鳴を余所に、ニュートの魔術が発動していく――
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